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ガイシ ー 夜の展示会からはじまる外資サバイバル  作者: 原崎 令一
第一章(序章):展示会の夜 ー すべてのはじまり(日系企業編)

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第1話 夜の展示会、残業という名の孤独な戦い

はじめまして。原崎令一はらさき・れいいちと申します。


本作『ガイシ ー 夜の展示会から始まる外資サバイバル』は、外資系企業という舞台に放り込まれることになる、まだ何物でもない若手が「自分の仕事に向き合い、魂を入れる」とは何かを見つけていく物語です。


「成果主義」や「英語は話せて当たり前」といった一見派手な世界の中で、本当に問われるのは「人と仕事への向かい方」ではないかーー。

そんな思いをこめて書きました。


第一章(序章):展示会の夜 ー すべてのはじまり(日系企業編)全3話を一気に投稿します。


仕事に疲れた夜や、少し立ち止まりたい朝に、主人公中原拓の泳ぎ方を思い出してもらえたらうれしいです。

*本作はフィクションですが、登場する企業文化や会話の多くは、現実の外資系ビジネス環境を取材・体験した上で構成しています。

 「十二月末に、事業部存続の判断を下すことになった」


 S課長の声が、会議室に響いた。


 拓は息をのんだ。

 二十五歳。営業三年目。


 「条件がある。展示会で明確な成果を出すことだ」


 課長は資料を閉じた。


 「明後日からの展示会が、ラストチャンスだ」


 拓の呼吸が、震えた。


 ――まだ、間に合う。間に合わせる。


 最後の一カ月がスタートした。


 *


 夜の展示会場には、まだ作業灯の光が残っていた。

 人影のないブースの列の中を、ひとりの男が歩いていく。


 中原拓――中堅ゲームメーカーの営業だ。

 昼は笑い声と機械音で満ちていたフロアも、いまは冷たい静寂に包まれている。


 会社の新規事業として出展した〈ホラー占い機〉は、午後の終盤に突然ブラックアウトし、来場者の列は霧のように消えた。

 開発部は「原因不明、明日は無理」と言い残して帰っていった。


 ――でも、帰れない。


 二日前、S課長に会議室に呼ばれた。

 十二月末までに成果が出なければ、事業部は閉鎖する。

 十一月の最終週に、幹部たちが頻繁に集まっていた理由が分かった。


 工具箱を開き、ドライバーで裏パネルを外す。

 ネジが落ちる音が、がらんとした空間に吸い込まれる。

 基板のコネクタを指先で確かめると、金属と微かな焦げの匂いが鼻に刺さった。


 「……頼む、動け」


 スイッチを押す。

 一瞬の沈黙ののち、モニターに赤い光が走る。

 黒い背景に英語の文字が浮かんだ。


 ――Welcome to the Fortune of Fear.


 息を詰め、次の瞬間に笑ってしまった。

 たったそれだけで、胸の奥が熱くなる。


 「中原、勝手に残業か?」


 背後から声。S課長が腕を組んで立っていた。

 非常灯の青い光が、課長の顔の半分を冷たく照らす。


 「もう一度だけ、通電確認を――」


 「“しておきたくて”、ね。君は指示って言葉を知らんのか」


 反論は喉で止まった。

 課長はモニターを一瞥して鼻で笑う。


 「……運が良かったな。どうせ明日には壊れる」


 踵を返す足音が遠ざかる。

 会場には静寂が戻り、モニターの赤が拓の頬を照らした。


 帰宅したのは午前二時過ぎ。寝床に入っても、頭の中でネジの音が鳴り続ける。

 まぶたの裏に、赤い文字が焼き付いた。


 ――Welcome to the Fortune of Fear。皮肉だ。


 窓の外が灰色に変わっていく。展示会二日目の開場は午前十時。

 それまでの時間すら惜しくて、拓は電話を手に取った。


 展示会で交換した名刺の束を机に並べる。

 高校の水泳部を思い出した。種目は平泳ぎ。


 派手さはないが、努力と技術で世界と戦える。

 世界水泳で金メダルを取ったK選手のフォームを録画して、何度も巻き戻して真似た。


 ――水を押し潰すな。水を掴め。


 焦ると沈む。落ち着けば、自然に前に進む。


 「……はい、○○アミューズメント様でしょうか。先日の展示会で名刺をいただいた中原です」


 五件目で、ようやく反応が返ってきた。


 「来週、うちに寄ってくれ」


 小さく拳を握る。

 徹夜明けの体は重いのに、胸の奥だけが軽かった。


 蛍光灯がぱちんと鳴る。

 名刺の束がわずかに揺れた。風はない。


 けれど、何かが静かに動き始めたように感じた。


 ――展示会二日目が、すぐそこまで来ている。


(つづく)

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。


今回投稿した『ガイシ』の『第一章(序章):展示会の夜 ー すべてのはじまり(日系企業編)』は、中原拓という一人の青年が「技術」や「上司」や「環境」と格闘しながら、仕事の意味を掴もうとする物語でした。

もし少しでも心に残る場面があったら、ブックマークや★、コメントで教えていただけると励みになります。

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