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愛国の王女  作者: 小松しま
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 新任の目通りを終えた騎士たちは、すぐさま退出を許される。

 王族や首脳陣たちに一礼を残し、彼らは謁見の間を後にした。


「予想以上に、規模の小さい宮廷で驚いたか?」


 訓練場へ歩きつつ、ルゴールは後に続く甥たちに気安く尋ねる。

「ええ……。まあ、正直……」

 偽っても仕方ないので、ハルバートはトーリアスと目を合わせて同意を示した。

 レガーリア王国の歴史は古い。

 特に、王家はこの世界にローディアナ神の教えがもたらされるより以前からの名門だ。

 それこそ、大陸屈指の系譜を誇る。

 元々、現在の王都レテオラとその周辺地域レガーリアを領域とする貴族だったのだ。

 しかし、代こそ重ねているものの、特段の逸話がある訳でない。

 事実、今に至る史書には、歴代当主の治世の年数が列記されているだけで、際立った名君も、暴君も……関わりのある英雄、聖女の姿の片鱗さえ見えないのだ。

 かろうじて、神の寵児である「かんなぎ」が誕生した例はわずかにあるものの、諸外国と比べてやや少ない頻度であり、これまた特別な偉業や功績の記録は残されていない。

 男女の性を併せ持つ稀有な存在は、ローディアナ神への信仰を体現する聖者とされている。

 その生誕は滅多にない瑞兆として寿がれ、王家の一員扱いをされて、最上の尊重を受けるのが倣いだ。

 さすがに、「かんなぎ」存命の折は、列強からも配慮されていたようだが、その期間だけの扱い。

 ちなみに、最後の「かんなぎ」がわずか五才で亡くなってから、もう百年以上経っており、レガーリア王国はそうした恩寵ともとんとご無沙汰だ。

 「かんなぎ」は、やはり「普通でない」御身。

 どうしたところで、虚弱に生れつく方が大半で、無事に成長する幸いは、極めて少ない。

 レガーリア王国の場合、成人まで長らえた「かんなぎ」は、わずか三名を数えるのみで、いずれも王族や高位貴族と縁づいたものの、残念ながら子供をもうけた記録はなかった。

 ともあれ、「かんなぎ」の存在を含め、そのような弱小ぶりながら、列強ひしめく周辺から長きに渡って独立を守り通し、国としての形を守り続けているので、首脳陣にそれなりの傑物はいたようだが、大陸全土に響き渡る域の人材でなかったのだろう。

 際立って優れた采配がなされずとも、国の営みが果たされていたとしたら、実に幸いである。

 事実、レガーリアの民たちは、古来より善良且つ温厚な気質で知られており、群雄割拠の世にあっても、勇名を轟かせる覇者の輩出に至らなかった。

 そして、略奪の対象にならず、更に立地条件に助けられ侵略の憂き目にあわず、歴史を紡ぎ続けている。 

 また、自給自足のかなう環境ながら、特別実り豊かで肥沃な大地でもなく、流通の要所から離れ、商才を磨く環境でもまたない。

 とかく、穏やかな暮らしを営み続ける奇跡の地と、長らく称されていたものだ。

 実際、それは稀有な幸運だったのだろう。

 当然ながら、暮らす人々とて天授の幸いにただ甘んじていただけでなく、争いを嫌う民ならではの、並ならない譲り合いの精神を端にして、小領主たちが寄せ集まり、周辺諸国の脅威から身を守るための連合を取りまとめたからこそ果たされた平穏だ。

 更に、過ぎるほどの富はなくとも、安寧を守るための努力を彼らは惜しまなかった。

 税の観念が一般的になるより遥かに先んじて、経済状態に応じ、各戸別に共済金を捻出し、取りまとめた上で防衛を担う傭兵との契約をいち早く結んでいたのだから。

 それこそが、現レガーリア王国に、軍がない最大の要因だ。

 伝統を踏襲し、あくまでも外注に守りを委ねる選択をし、今に至る。

 過ぎる戦力の確保は、各方面よりいらざる警戒を抱かれると判断したためだった。

 周辺諸国の脅威とならないための、捨て身の戦法である。


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