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愛国の王女  作者: 小松しま
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 乱世。

 歴史の中に、そう称される期間は、まま現れる。

 それも、繰り返し……繰り返し……。

 人なるもの。他の生き物たちと異なり、神より叡智を授かった種族のはずであるのに、同じく天賦の質……どうしようもない愚かしさを併せ持つがため、それぞれ譲れぬ「大事」を掲げ、飽きもせずに利権を巡って争い続ける。

 そして、戦いがもたらしたあまりに凄惨な負の遺産を目の当たりにし、ようよう我に返って、言い訳よろしく神の教えたる愛と平和の尊さを重んじる次第。

 大いなる犠牲を払った結果、それぞれの陣営の協議によって戦いの終息がはかられるものの、哀しくも、恒久的な幸いとなった試しはない。

 ……途方もない悲劇と引き換えにもたらされる平和は、仮初……つかの間の安らぎに過ぎないのだと断言できる現状は、嘆かわしい限りだ。

 であっても、人なるものが少しずつながらも学習し、成長している証しなのか、決定的な悲劇を回避した快挙の例も確かに存在する。

 その一つに、「レガーリア王国によるイブリール帝国への主権禅譲」があげられるだろう。

 折も折、ローディアナ大陸全土に、騒乱の気配が立ち込めていた不穏な時期に、それはもたらされた。

 誰もがかつて繰り広げられた群雄割拠の世紀の再来を避けられない事態だと覚悟し、備えていたさなか、たった一人の王女が、我が身の危険も顧みず、馬を駆って遥かな地へ疾走し、悲劇の回避に努めたのだ。

 その英雄的行為によって、大陸全土は被るだろうと予想された被害より免れた。

 もし、「そう」となっていたら、果たしてどれほどの犠牲を払っていたのか、算出すら難しい。

 ……陣営によっては、野望達成の好機を奪われ、想定していた戦略展開の一切を妨げられた訳であるが、彼女の勇気ある働きに、否を告げられるはずもない。

 王女が掲げていた題目は、愛と平和を重んじる神の教えそのものだったのだから。

 そして、その志に、大陸の雄たるイブリール帝国が、神の恩寵を体現する信仰の頂点たる斎王と共に、同調した。

 彼らの意に背くのは、神への批判に直結する……と、宣言したに等しい。

 愛する故郷と、そこに暮らす民……そして、生まれ来る全ての子供たちを守るために尽力した、若き内親王。

 その偉大な業績を讃え、人々は彼女を「愛国の王女」と呼んだ。


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