第二話 マスターの朝
冒険者ギルド「クラウズ」。
創立から100年経った今でこそ大所帯となっているが、
元はマスター含め7名の小規模なものだった。
現在は国から偉業を称えられ、
「ギルド発展のために!」と宿舎が寄贈されている。
単純な費用で言えばそちらの方が何倍もかかっている訳だが、
「ギルドの方が居心地が良いから。」
と、創立メンバーは今もギルド2階以降に自分の部屋を持っている。
そして、ここはその一室。マスター、空鳴の部屋。
朝。
「マスター?起きて下さい。マスター。」
すぐ近くで起床を促す声が聞こえる。しかし、如何せん眠気には抗いがたい。
特に、この枕は実にフカフカで気持ちが良い…
「…あぁ!そのように不意に尻尾を撫でるでないわ…っ」
おっと…!
急な叫び声で一気に意識が覚醒する。
目を開けると、そこにはこちらを覗き込む漆黒の毛を生やした狐の顔が見えた。
そして、頭の下には上質な枕…もとい、彼女の尻尾が。
「おはようございます。マスター。」
「おう。おはようさん。」
「先程は大きな声を上げてしまい、申し訳ありませんでした。
しかし、マスターもマスターでございます。
淑女の尻尾をあのように撫でるなど…!
勿論、責任を取って頂けるのですよね…?」
「俺は昨晩、ちゃんと自分の枕を使っていた筈だが…?」
「…はい。
ですが、マスターの安眠を守る為にはそれでは不足だと判断致しました。」
「不要だ。」
そう口にした瞬間、まるで雷に打たれたかのような衝撃を受ける彼女。
「不要…?わ、私は不要…。いらない子なのですね。よよよ…。」
「枕の話な。」
「…!では、私は捨てられた訳では…」
「無いな。」
その言葉を聞き、漆黒の狐は飛び上がり、一瞬で変化する。
「ありがとうございます!
この楼蘭!粉骨砕身、マスターに尽くす所存にございます!」
「うん。程々に頼む。」
…と、このようなコントが、ほぼ毎朝繰り返されている。