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今日は時間が有り余っているので一日中家でゲームでもしようかと思いながら紅茶を口に含む。
いつもはミルクティーにして飲んでいるが、今日は気分を変えてストレートで飲むことにした。
お母さんが仕事帰りにどこかのお店でキャンディという紅茶を買ってきてくれたので最近はそれを飲むことが多い。
さっぱりとした味でとても飲みやすいのだ。
ゆっくりと紅茶を飲んで今日はどこを攻略しようかと考えていると呼び鈴が鳴る。
なぜかデジャヴを感じるがインターホンで応答することにした。
通話ボタンを押すと二人の声が聞こえた。
「聖麗、なんでここに君がいるのかな?僕はお隣さんだからある程度付き合いがあるけど君は一昨日が初めてだよね?咲の家に行くの。」
「一昨日初めてここに来たのは合っているけど、ようちゃんの今の行動はある程度、と言えるのかな?」
「あのね、そこはそんなに関係ないの。とにかく帰ったら?」
「帰るのは君だろ?確か作家をしているとか言っていたじゃないか。締め切りまでに出さないと編集に怒鳴られるぞ?」
「大丈夫、もう今月分は一昨日仕上げたから後は誤字とかのチェックが入るだけだよ。」
「そうか、ならようちゃんも一緒に遊ぼうではないか!」
「...なんでそういうことになるんだよ。....おかしいでしょ。」
二人は何で人の家の前で言い合っているのだろうか。
近所迷惑になるからできるなら他でやってほしい。
私は二人には聞こえないように小さく溜息をついて話しかけた。
「二人共、とりあえず入って。今開けに行くね。」
すぐに通話ボタンを押して通話を終了させて玄関に向かう。
玄関のドアを開けるとなぜか目の前には緑があった。
「咲、これは私からのプレゼントだ。誕生日まであと半年だから何か上げようと思ってね。」
と聖麗が緑の多く、花が小さいが可愛らしい白い花でつくづく彼女のセンスはいいと思った。
「それは、ブライダルベールか。聖麗、いつもは気に入らないけど少し見直したよ。」
「失礼だな。私はいつも人付き合いは努力しているつもりなのだが?ようちゃんは少々気にしすぎではないか?」
「....前言撤回、やっぱり見直すところはなかったみたい。」
二人は仲が悪いんだか、いいんだか。
いつもようちゃんのほうが聖麗を敵視しているようだが未だにその理由は謎である。
ようちゃんは普段はとても優しい人だから聖麗に対しても優しくしてほしいとは思ったりはする。
しかし、彼にもいろいろと好き嫌いがあるのかもしれないと思うと無理に仲良くしろとは言えない。
本当に人間関係って難しい。
目の前で未だによくわからない会話を繰り広げている二人を見て「残念だ」としか言いようがない。
二人共容姿が優れているのにそんなに言い合いをしていたらなんだか残念な光景にしか見えない。
笑顔で怒るイケメンとそれを笑顔でかわす美人、見た目はとても麗しいかもしれないが近くに来たら残念さが目立ってしまいそうだ。
仕方ないと思い私は二人に声をかけた。
「聖麗、お花ありがとう。大事に育てるね。とりあえず、二人共家に入って。要件は中で聞くから。」
私は無理やり二人の背中を押して家の中に入らせた。
リビングに来て座ったはいいがさっきとは違い部屋の中に沈黙が訪れている。
なぜかというと聖麗が話題を出して、それをようちゃんがスパッと切り捨てるようにすぐに会話を終了させるということが何度か続いているからだ。
そして今はちょうどようちゃんが華麗に話を切り捨てたところというわけだ。
このままだと話が続きそうにないので私は席を立ちあがって部屋に向かうことにした。
「私はゲームの続きをしに行くね。二人はまだ何かあるならここに残って話してていいよ。お母さんが返ってくるまでなら自由にしてても大丈夫だから。」
スタスタと階段を上って自室に入る。
二人もなぜかついてきていたので部屋のドアは最後に入ってきた聖麗が閉めた。
私は何も言わずにゲームをする準備をする。
棚からゲーム機を取り出してカセットを違う棚から持ってくる。
私が床に座ると二人も一昨日と同じ場所に座った。
右には聖麗が、左にはようちゃんが座る。
セーブしていたデータからゲームを始めた。
「さてと、今日はハッピーエンドの方をやろっか。今日はアンバールートの全クリを目指そう。」
私は誰に言うでもなくそう小さくつぶやいた。
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1.こんにちは、何をしているんですか?
②.何かありましたか?私でよければ聞きますよ?
③.貴方は、アンバー様ですか?探していたんです!
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「残るは1だけのようだね。じゃあ1をすれば完全なハッピーエンドになるわけだ。」
そう、このゲームにはハッピーエンドが複数存在する。
好感度が1から30までだったら友情エンド、それ以上からはハッピーエンドまたはメリーバッドエンドという究極の二択を迫られるのだ。
この『月の乙女のティアラ』は発売数日目にしてすでに在庫切れが起きていて、プレイしたくてもプレイできない人がいるほど人気なのだ。
その人気の理由にも乙女ゲームらしからぬノーマルエンドの多さとそれぞれのハッピーエンドが少しずつ違うというところも人気の理由だという。
とりあえずこのゲームをプレイし終えたら参考までにゲームのレビューでも書いてみようかと思っている。
ー好感度65
アンバー「ルーナトルテ、私に恋を教えてくれてありがとう。私はこれから先、領主としていろんなことをしていかなければならない。忙しくて君と会える時間が減ってしまうかもしれない。それでも私のそばにいてくれますか?」
彼が地面に跪いて少し上目遣いで主人公を見つめるスチルがでる。
このエンドは今までのアンバールートのエンドの中で一番平和なエンドだと思う。
二人はいろんなことを乗り越えてついに結ばれるというエンドで一番、安全安心なエンドとも言えるだろう。
誰も死人は出さずに特に誘拐なども起きないそんな平和なエンドだった。
その後アンバーの声でナレーションが流れる。
ー二人はともに領地でそれぞれ仕事をしながら幸せに暮らしましたー
ーHappy End②
「とりあえず4個のうちの2個は終わったね。時間もお昼だからお昼食べようか。」
「実はね、咲。私がお昼ご飯を食べるレストランを予約しておいたんだよ。割とすぐに着くだろうからそこに行ってもいいかな?」
「もしかして僕は置いて行かれるパターンかな?」
「いや?ようちゃんの分も予約しておいたから安心してくれ。」
予約したのがレストランというのが少し引っかかったが気にしたら負けだと思うことにした。
ということでゲームをプレイすること1時間後、お昼になったので私たちは休憩がてらお昼ご飯を食べに行くことにした。
次回の投稿は明日の20時です。