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なぜ、私は今高級レストランにいるんだろうか?
遡ること30分前、予約しているレストランが近いと言っていたので徒歩の距離にあるのかと思っていた。
しかし家を出ると黒塗りの高級車が止まっていて運転手らしき人がドアを開けてスタンバイしていたのだ。
聖麗は当たり前のようにその車に乗り込んでいく。
なぜかようちゃんも慣れたようにその車に入っていった。
残された私は呆然とその場に立ち尽くしていた。
すると聖麗が出てきて「咲?入らないのかい?」と私の手を取って車の中に連れて行った。
車の中は広々としていて真ん中にはテーブル、その周りにソファーのような席が囲んである感じだ。
聖麗に連れられるまま誕生日席のような一番奥の方へと座る。
「えっと、あの。聖麗?すぐ着くんじゃないの?」
私は戸惑いながらも聖麗に聞く。
「ああ、すぐに着くよ。車なら、ね。」
聖麗はさっき言っていなかった車というワードを始めて出した。
確かに聖麗は嘘はついていない。
しかし、車で行くとも聞いていない。
ようちゃんは心底どうでもいいというか、呆れたような顔をしている。
「聖麗のことだ。僕たちには理解できないこともあるよ。」
だから仕方ない、と言うようにようちゃんは肩をすくめた。
「聖麗一応聞きたいんだけど行先は?」
「利嶋崎グランドホテルのレストランだよ。あそこの料理は美味しいらしいからね。」
利嶋崎グランドホテルと言えばこのエリアで一番高い高級ホテルの名前という認識がある。
さすが社長の行くところは違うと少しずれている解釈をすることにした。
とりあえず聖麗は元々ずれているところがあるのでそういうことがあるのかもしれない。
「ああ、あそこか。美味しいよね。この前行った時に食べたけどさすが五つ星ホテルなだけあって飾りつけも綺麗だったよ。」
となぜかようちゃんも話についていけているという状況だ。
どうやらこの状況についていけないのは私だけらしい。
状況についていけずにとりあえず二人の話に耳を傾けながらボーっとしていたらいつの間に目的地にかについていた。
ドレスコードがあるので予め用意されていたとされるドレスを着ていた。
ドレスを着た記憶がおぼろげなのでどこで着たかも覚えていない。
そして今に至る。
テーブルには綺麗にされた白いテーブルクロスにフォークとナイフ、スプーンが料理の順番で並べられている。
しかも座っている場所は予約をとっていたからか個室のような場所でガラス張りの向こうには街の壮観な景色が見える。
「失礼します。本日は利嶋崎グランドホテルにお越しいただきありがとうございます。今回は...」
とシェフだと思われる人が今日のメニューを説明している。
聖麗とようちゃんは慣れたように綺麗な所作でサンドイッチを口にする。
一応レストランなどで食べるときのマナーは親に教わっていたので何とかなったが未だに状況がつかめない。
料理を食べるのに精一杯になっていた私はナイフを持つ手に力が入りすぎてしまっていた。
それに気づいた聖麗が私に声をかけた。
「咲、緊張しなくていい。ここには私たちしかいないからね。」
「そうだよ咲、僕たちしかいないんだからいつも通りで大丈夫だよ。」
そう言って二人は私に笑いかけてくれた。
今日の昼ご飯はアフタヌーンティーセットだ。
三段のそれぞれに食べ物が並べられてさらにスコーンや紅茶、チョコレートなどが用意されていてとても豪華だ。
...これ、値段大丈夫なのかな..?
見た感じかなり高そうだ。
こういうところに来た場合どうやって支払えばいいのだろうか。
上段にはデザート、中段には温料理、最下段にはサンドイッチが置いてあるのでとりあえず下から順番に食べる。
ストレートの紅茶を時々含みながら少しずつ食べていくとあっという間にお皿が空っぽになっていた。
私は小さく安堵の溜息をつく。
やっとお昼ご飯が終わった。
指先まで精神を集中していたからか完全に疲れてしまった。
こういう小さなマナーを昔の中世の貴族の人達がやっていたとすると私はその時代に生まれなくて良かったと心の底から思ったのであった。
同じように車に乗ってやっと自宅に着いた時に疲れが出たのかその場で倒れたらしい。
目を覚ますと私室のベッドの上だった。
「咲、大丈夫?!」
「起きたんだね。良かったよ。」
とそれぞれ安心したような顔を浮かべてベッドの脇に座っていた。
「うん、大丈夫だよ。ちょっと久しぶりに外食して疲れちゃった...。」
なるべく二人に心配をかけないように笑って見せる。
「ごめんね。二人の大事な休み時間を無駄にしちゃって。」
いつも二人の時間を私のことで無駄にしてしまっているのが本当に申し訳ない。
できるだけ二人には自由に過ごしてほしいのだ。
「咲、君といる時間は有限だ。いくら無駄にしたって私はかまわないよ。だって私たちはソウルメイト、そうだろう?」
そこでやっと聖麗が最近私の家にやってきていたのか分かった。
きっとどこかで私がそう長くは生きられないことを知ってしまったのかもしれない。
なるべく隠してきたつもりだったけど、隠しきれていなかったらしい。
「そうそう、時間は誰でも無限にあるわけじゃないからね。僕も咲といたいから一緒にいるんだよ。気にしないでね。」
ようちゃんも聖麗と同じような言葉で私にそう言った。
...本当にこの二人は意見が合うんだか、合わないんだか。
「ふふっ」
いつの間にかに私は口から笑い声が出ていたらしい。
二人共なぜ私が笑っているか分からないようでお互い顔を見合わせて首をかしげている。
私はそんな二人を見て思った。
いい友人を持ったな、と。
次回の投稿は明日の20時です。




