エリカの幸せ
現在、私は調理場の一角をお借りしています。
先日騎士団の訓練を見学に行った流れで洗濯をする事になりました。
それは大変な作業ではありましたが大変に面白い経験だったと思います。
改めて私は貴族以外のことを何も知らないと実感しました。
せっかくのやり直しですので前にやらなかったことをやりたいと思い、今回はお菓子作りに挑戦することになりました。
私の隣にはいつものようにメリルがいますが今回の彼女は講師役です。
侍女時代にマリアと2人でよく作っていたそうで、今回は私に教えられると張り切っております。
「いいですか、お姉様。
お菓子作りというのは分量を正しく計るのがコツです。
お菓子作りに限らず料理全般に言えることですがレシピ通りにやれば美味しいものは出来上がります。
その点ではお姉様は料理をするのに非常に向いている性格と言えるかもしれませんね」
確かに私向けと言われるかもしれません。
レシピをまとめた紙を見て頭に叩き込みます。
「なるほど、分かりましたわ。
先ずはやってみましょう」
・・・数時間後、特にトラブルが起こることもなくクッキーが完成してしまいました。
「あれ?私の活躍が・・・ここはお姉様が慣れずに色々と失敗するのを私がフォローする場面では?」
「メリルの言う通りに、レシピ通りにやればいいだけの話ですからね。
刃物を使うわけでもありませんから」
私はそう言って出来たクッキーの一部を紙袋に包みメリルに渡します。
「はい、これは貴女の分よ。
いつも一緒にいてくれてありがとう、助かってるわ」
「お・・・お姉様、ありがとうございます!
家宝にしますわ!」
「いえ、ちゃんと食べてちょうだいね」
次に私達は訓練場にやってまいりました。
メリルはクッキーを部屋に置いてくると言うことで珍しく私1人です。
今日も激しい訓練が行われており、現在は模擬戦の最中のようですね。
あら、初日はまともに動けていなかったビリーですが、今は騎士団のお一人と木剣を打ち合っておりますね。
パメラは相変わらず人知を超えて動きで騎士団長とやりあっております。
「ご機嫌よう、お爺様」
「おお、エリカか。今日どうしたのじゃ?」
「クッキーを焼いてみたのでよろしければ皆さんで召し上がってください」
そう言って紙袋に入れたクッキーをお爺様に手渡すとお爺様は破顔されます。
「おお、そうかそうか。
孫娘からの差し入れとは嬉しいのう。
もったいない気もするが後で皆と食べるとしよう」
「是非そうしてください。
ところでビリーとパメラは如何ですか?」
私が尋ねるとお爺様は顎に手を当てて「ふむ」とひとこと漏らしました。
「ビリーはどんどん伸びておるな。
どれだけ過酷な訓練を施しても根性でついてきおる。
副団長がそういうタイプじゃったから、あやつも同じかそれ以上の領域まで上がってくる可能性はあるのう。
そしてパメラは相変わらずじゃ。
訓練にも楽についてきおる。
初戦で団長の狙いを知ってからはいい勝負をするようになったしの。
今の勝率は五分五分と言ったところじゃが、いずれは団長が勝てなくなるじゃろう」
「それは・・・天賦の才としか言いようがありませんね」
お爺様は顎に手を当てたまま答えてくれます。
「たまにおるのじゃよ、ああいうものが。
平民の方が数が多いのじゃからああいうものが含まれておる確率も高い。
その才を拾い上げるという点でもエリカの修道院支援は正しいことじゃったな」
「才能を埋もれさせるのがもったいないとは思っておりましたが・・・ここまでは予想外でしたわ」
「全く、どこにどんな才が埋もれておるか分からんな。
しかし、パメラの成功例を出せば国の政策としてもとりあげやすいじゃろ。
子供がたちがより豊かに学ぶ時代、エリカ達が作る次代の国家とはそういうものになるかもしれぬな」
「そうですね。
その為にもこの国が滅びるようなことは避けなければいけません」
私は決意を新たに表情を引き締めます。
しかし、お爺様はそんな私の頭に手を置き
「国の行く末や民の幸せも大事な事じゃ。
しかし、何よりもエリカ・・・お主の幸せを考えてもらいたいとワシは思っとる」
そう言われました。
「私の・・・幸せ」
「そう、エリカの幸せじゃ。
お主は公爵令嬢として、そしてこの国を救うものとして完璧に動いておる。
しかし、その為に自分を捨てている気がしてならぬのじゃ。
まぁ、いまのエリカを見ていたなら以前とは比べものにならぬほどに自分自身を出しておるから要らぬ心配かもしれんがな」
そう言って頭の上に置いた手をポンポンとしながらお爺様は豪快にガハハハと笑われました。
「お爺様・・・ありがとうございます。
でも、私は今も十分に幸せですわ。
可愛い妹が出来て、母は元気になり、対等な友人がいます。
モニカも結婚させてあげれないのは悪いと思っていますが、正直な気持ちを申すと今も一緒にいてくれるのはとても嬉しいのです」
私の言葉にお爺様はとても優しい目をしながら
「そうか、そうか」
と答えてくれました。
そして、続けて
「じゃが、お主はもっと幸せになって良い。
その資格があるのを忘れないでほしい」
と仰いました。
私は自分のことを心から心配し、幸せを願ってくれる祖父がいることが嬉しくなりました。
だから・・・
「長生きしてくださいね、お爺様。
私の幸せにはお爺様も含まれているんですから」
と答えます。
「ガハハ、もちろんじゃ。
ひ孫の顔を見るまでは元気に生き続けてやるわ!」
お爺様はそれはそれは愉快そうに笑っていました。
前回には無かった祖父との時間。
こんな時間を感じられるだけで私は幸せですよ、お爺様。




