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エミリオ・エリディス

僕が子供の頃、兄上はどうしようもないほどに適当な人間だった。

その分だけ僕が真面目にしていると周りの大人達は喜んだ。

大人達の中には兄上ではなく僕の方が優秀だから代わりに国を治めた方がいいと言う人もいた。

その意味は分からなかったけど、兄上と比べられて優秀だと褒められるのは嬉しかった。

それはキチンと僕と言う人間を見てくれたからなんだろうと今なら分かる。

ある日転機が訪れた。

兄上に婚約者が出来たのだ。

そして、兄上は王太子殿下として父上の跡を継ぐことが決まった。

更にその時辺りから兄上は変わった。

何事にも熱心に取り組み始めたのだ。

すると兄上はメキメキと実力を付けていった。

昔の粗野で頭の悪かった兄上は何処にもいなくなり、そこには優秀な王太子殿下がいた。

するとどうだろうか?

僕が頑張っても流石はシグルド様の弟だ。

シグルド様に似て優秀だ。

と、僕を兄上のオマケとして褒めるようになった。

僕はそんな生活に嫌気がさしていた。


ある日兄上の婚約者とその姉様が城に遊びに来ていた。

僕は兄上に用事があり、3人がいる兄上の部屋に向かった。

そこで初めて見た姉様の美しさに心を奪われてしまった。

見た目だけではない。

所作まで完璧に美しい人だった。

兄上達が二人の世界に入って暇を持て余しているように見えた姉様を僕は思い切って誘ってみた。

姉様はニコリと微笑んで


「それではエスコートお願いしますね」


と僕に答えてくれた。

姉様は美しいだけでなく包容力のある人だった。

いつの間にか僕は夢中になって姉様に語りかけ、遂には自分の環境の愚痴まで話してしまった。

姉様はそんな僕を優しく抱きしめて


「大丈夫。エミリオ様が優秀だと知っていますし、キチンと見てくれている人はいますよ」


と言ってくれた。

この日から僕は姉様に会うために兄上について回った。

そして、最初に会った日に言われたように姉様をエスコートした。

そして僕はどんどんと姉様に依存してしまった。

それが間違いだったと気付かされたのは王立学校に入学してからだった。

僕は勢いから騎士科に転向した。

皆は止めたが僕は強硬した。

姉様が他の男に触れているのが我慢出来なかったからだ。

だが、そんな僕の幼い考えはドグネス先生に粉々にされた。

先生は王子である僕にも容赦はしなかった。

それどころか厳しい訓練に音を上げて倒れた僕に


「騎士が守るべき立場の者に甘え、依存してどうする!!

そんな腑抜けた考えの者など誰も相手にはしてくれんぞ!

この半端者が!!」


と鬼のような形相で叱り飛ばしてきた。

その時、僕の心に衝撃が走った気がした。

姉様は僕の甘えを受け入れて僕の心を守ってくれていたんだ。

それなのに僕はいつしか、それを当たり前だと考えて依存しきっていた。

でも、僕は男で本来は姉様のような女性を守る立場にいるものだ。

それをこんなに腑抜けていてはいつかは姉様にも見捨てられるだろう。

姉様に相手にされない状況を想像するとゾッとした。

甘えられないからじゃない・・・僕が姉様を1人の女性として愛しているからだ。

僕は訓練用の剣を手に取り立ち上がる。


「もう一本・・・お願いします!」


「ふむ、先ほどよりはマシな表情になったのう」


この日、僕は初めて自分の甘さを捨てて限界まで立ち向かった。

身体はボロボロだけど妙にスッキリとした気分だ。

大の字に倒れた僕の前に手が差し伸べられる。

それは同じ騎士科で最後まで訓練に耐えきったビリーだった。


「甘ちゃんの王子様かと思ったが見直したぜ。

大したやつだよ、エミリオ」


彼は僕にニカッと笑いかけた。

彼の言葉は王子ではない、エミリオという僕自身に向けた言葉だったと分かった。

僕はその手を取り起こしてもらいながら


「ビリーの方が凄いよ。

僕なんてこうやって身体を起こしてもらうので精一杯だ」


と答えた。

ビリーはそんな僕に首を振る。


「俺はもう何日もこの訓練を受けてるからな。

最初の日は訓練を終えた時は意識を失っていたよ」


「ははは、じゃあ意識を保ってるだけ僕の方がマシだね」


「そういう事さ。

じゃあ、もうひと頑張りして教室に行くか」


僕はビリーの肩を借りて歩き始めた。


「ビリー、僕も今日から人々を守れる騎士ってのを目指してみるよ。

大事なものを守れないと男として悔しいからね」


「ああ、一緒に目指そうぜ!

俺たちは今から本当の友達で仲間だな。

これからもよろしく頼むぜ」


「こちらこそ」


僕らは肩を組んだまま笑いあって教室に向かった。

この日、甘ったれた王族の僕はいなくなった。

代わりに愛した人を、その人が愛したものを守るために騎士を志ざす男が生まれたんだ。

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