シグルド・エリディス 1
私の名前はシグルド・エリディス。
エリディス王国の第1王子。
将来はこの国の王になる事が約束されている。
周りの者は皆が私に頭を下げて何でも言うことを聞いた。
唯一私を叱るのは教育係のクラリス夫人くらいだろうか?
私は勉学が嫌でいつも抜け出しており、その度に鬼のような形相で追いかけて来た。
そんな退屈で不満な毎日を送っているとき、父である国王から1つ頼まれごとをされた。
それはクロード公爵家令嬢の誕生パーティーに出席してほしいということだった。
これは父ではなく国王としての頼みだということで私に拒否権は無かった。
そして、その話を聞いた周りの者はざわめき始めた。
何をそんなに騒いでいるのかと尋ねると皆はこう答えた。
「きっと、クロード公爵のご令嬢との婚約が決まるのですよ」
と。
私には婚約者はいない。
馬鹿な話にしか思えないだろうが、私の心の中にはいつも探し求めている誰かがいたからだ。
だから私は持ちかけられる様々な婚約話を適当な理由をつけて拒否していた。
だが、公爵家の令嬢との婚約となれば今度は拒否は出来ないだろう。
しかも、国王自ら私に誕生パーティーに参加しろというとのだ。
もうクロード公爵と父の間で話が決まっているのだろう。
私は憂鬱な気分で誕生パーティーに向かった。
そして、すぐにその憂鬱な気分は吹き飛んだ。
クロード公爵の側にいたのだ!
私の運命の人が!
クロード公爵令嬢・・・名前はエリカと言ったか?
彼女の隣に座る女性こそ私の探し求めていた人だ。
最初は公爵家の席にいるので彼女は公爵家の血筋のものだと思った。
そうであるなら、まだ発表されていない婚約話を破棄して彼女と婚約することも容易であろう。
そんなもしもの話を考えていた私の頭を現実という暴力に殴りかかって来た。
運命の人の名はメリル・ブラウン。
なんと平民であり本日の主役であるエリカ・クロードの侍女をしているそうだ。
何でもメリルに期待しているエリカが貴族の視点を学ばせたいと参加させたそうだ。
その為にメリルにはエリカと同等の教育が施されているそうだ。
確かに今の彼女はどこから見ても貴族のお嬢様にしか見えない。
エリカの話では周りの貴族もそう思っているのか、メリルのことをクロード公爵の隠し子だと思っているそうだ。
・・・この状況は好都合ではないのか?
何とかメリルの平民としての立場を隠して何処かの貴族の養子にして立場をあげれば皆も婚約を認めてくれるのではないか?
しかし、一体どうすればそんなことが可能なのか?
そもそも、裏で進んでいると思われるエリカとの婚約を止めなければいけないのではないか?
私の頭の中に出てくる問題に頭を抱えたくなる。
こんな事ならばもう少し真面目に勉強していればマシな意見が出て来たかもしれないな。
私はクラリス夫人から逃げ出していた今までを深く後悔した。
様々な問題は後で考えるとしてメリルと話をしたい。
しかし、問題はエリカの方だろう。
裏で婚約話が進んでいるのなら積極的に話しかけてくるだろう。
そうなれば侍女である彼女は一歩下がってしまうだろう。
また、本日の主役であるエリカをそっちのけでメリルに話しかけるのは失礼であり父である王の名も傷つけてしまう。
理不尽な話だが私はエリカに対して苦々しい感情が湧いてきていた。
しかし、彼女は私のそんな予想を裏切り席を離れて周りに挨拶に行くという。
そして私の相手をメリルに任せるというのだ。
その流れをゴネるメリルを控え室に連れて行くエリカ。
彼女の任せてほしいという言葉通りに戻ってくるとメリルは堂々とした態度で私の相手をしてくれるという。
私は喜び、その日はずっとメリルと話し込んだ。
彼女は私の話すことを何でも喜んで聞いてくれた。
私も彼女の話すことを何でも喜んで聞いた。
間違いない、彼女こそ運命の人だ。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。
帰り際に挨拶をしながらどうにか、またメリルと会う方法は無いだろうかと考える。
そんな私の考えを見透かしたようにエリカは私と仲良くなれたと吹聴し始めた。
私は何のことか意味がわからなかったが彼女は微笑んで友情を深めたからお互いに遊びに行くことがあってもおかしな事ではないと言い始めたのだ。
エリカの元に行くということは侍女をしているメリルにも会えるということか!
私は礼を言い彼女との友情が深まったと高らかに宣言し、周りにもそれを吹聴するように告げる。
その頃にはエリカに対して当初の苦々しい気持ちは一切なく、自分とメリルを繋いでくれる素晴らしき存在だという風にイメージは180°変わっていたのだった。




