エリカの仕掛けた罠
「話の擦り合わせは終わっているという事ですが、私の聞いていないところで誤解が出てはいけません。
そのために最初から話を確認していくことにしましょう。
パーティーから帰られた王子の様子を聞かせてもらってもよろしいですか、エリディス王?」
私の問いかけにエリディス王は頷いて話を始められました。
「帰ってからのシグルドは何処か上の空であったな。
毎日元気に動き回っていたのが嘘のように部屋でボンヤリとしておったそうじゃよ。
お付きの者に何か聞こうとしてはやめてと迷っておったようじゃな」
「それは間違いなくメリルの事でしょうね。
メリルも仕事にミスこそないもののボンヤリと窓の外を見ていることがありましたわ。
前世からの呪いとはいえここまで効果があると恐ろしくもありますわね」
私がそう言うとお父様が首を振りながら
「今は運命の相手を繋げているのだから呪いというほど酷いものでもあるまい」
と言われましたが私はその問いかけに首を振ります。
「間違いなく呪いですよ。
あの2人には前世の記憶など全くない別の人間になっているのですから。
それなのに魂が縛られているなんて本当に恐ろしいですわ。
まして、それが通常なら叶うはずのない王族と平民の恋なのですから」
そこまで答えて私は何かが引っかかります。
(アイン様から聞いた呪いの話は来世で結ばれるという内容のはず・・・ならば、なぜ通常では結ばれない組み合わせで産まれてきたのかしら。
・・・いえ、考えすぎですわね。
私が何も知らなかった時間軸でも結ばれていたのですからそういう運命だったのでしょう)
私は頭の中にわいた疑問を気のせいだと振り払います。
今はそれよりやることがありますからね。
「そう言われてみると確かに呪いか。
まぁ、シグルドの聞こうとしたことは平民との結婚が許されるかどうかというところであろう」
「まぁ、エリディス王の仰られる通りでしょう。
平民との結婚は無理ですので諦めてもらうほかありませんわね。
次はクロード家側からの説明をさせていただきます。
作戦通りにメリルを親族として扱ったことにより、いま貴族社会でクロード家の隠し子の噂が流れておりますわ」
その話を聞いたエリディス王は顔をしかめてお父様に頭を下げます。
「クロード公よ、誠にすまぬ。
我が息子、そして我が国のためにお主の清廉なイメージに一点の染みを残すことになってしまった」
「王よ、頭を上げてください。
所詮は噂話です。
私の名前に傷など1つもついておりませんよ。
妻も全て理解しておりますし、そもそもこの作戦を考えたのは我が娘なのですから」
お父様の言葉に今度は私が頭を下げます。
「お父様には申し訳ないと思いますがこれが最善だと思ったのです」
「いや、エリカを責めてるわけでもない。
むしろ感謝しているのだよ。
お前のおかげでミラは一緒にパーティーに出れるほどに快復してくれた。
お前がいなかったらミラを失っていたと思うとゾッとするよ」
私はお父様の言葉に以前のお父様を思い出します。
お母様が亡くなられてから感情が抜け落ちたように仕事に没頭されたお父様。
そこまで国に対したのに婚約破棄を宣言された後のお父様はどうされたのでしょうか?
ひょっとしたらお祖父様と一緒に王家に反乱を起こしていたかもしれません。
そんな事になれば私は悲しみに溢れてしまいますわ。
やり直しのチャンスをくれたアイン様に改めて感謝の祈りを捧げましょう。
アイン様、感謝致します。
さて、祈ったところで我が家の動きをまとめましょう。
「メリルを親族として扱い、私を姉と呼ばせたこと。
私が一人で挨拶回りをする中、王子と談笑するメリルに付きっきりの公爵夫妻。
貴族たちはあらゆる可能性を模索していることでしょう。
その中に必ずこの考えが入ってくるはずです。
クロード公爵はメリルという隠し子を養子として迎え入れ、シグルド王子と婚約させるつもりなのではないか。
・・・と」
「私はその場を直接見たわけではないが少しでも目端の利くものにはそう考えるものもおるであろう」
エリディス王の言葉にお父様も頷かれます。
「モニカの夜会から得た情報でもそのように考えておる貴族がおり、メリルの正体を探ると共に何とか接触できないか考えているものがおるようだな」
「モニカの夜会情報なら間違いないでしょうね。
予想外の効果ではありますが、あれは本当に役に立っておりますわ」
そう、モニカの夜会とは例の筋肉会です。
モニカを美の神として仰ぐメイド達は何でも喋ってくださいました。
加えてモニカがメリルの事を平民ではなくクロード家に縁のあるものだと話せば皆が信じてくれました。
この効果が無ければ平民という話も広がり動きにくくなっていたのでモニカに感謝しかありません。
「して、貴族達をそういう考えにして一体何をするのか教えてくれぬか?」
「それは簡単です。
その考えと同じ事をすれば良いのです。
メリルをクロード家の養子に。
そしてシグルド王子の婚約者に。
彼らはきっとこう思うでしょう。
やはり自分たちの考えは正しかったと。
そうなれば彼らの中でメリルはクロード家の隠し子で貴族の血を元から引いているものと勝手に結論づけてくれますわ」
「なんと!
・・・確かに彼らの思考はそこで止まるだろう。
間違っても平民であったなどという可能性は出てこないであろうな」
王は私の言葉に驚かれます。
「私も最初にこの話を聞いた時には驚きました。
まさか、自ら予想させる事で考えを縛るやり方があるとは」
「この作戦は予めパーティーでメリルの姿をアピールしヒントをちりばめる事で自らが隠し子に気付くという餌に食いつかせるのが肝要なのです。
何もせずに養子発表をした場合、貴族達はその時に隠し子説を疑い探りを入れてくるでしょう。
しかし、発表前に餌に食いついた貴族達はやはりそうだった。
自分の目は優れていたと考えるはずです。
そこから探りを入れるというのは優秀な自分を否定する事に繋がります。
故に彼らの中でメリルはクロード家の血を引く隠し子でその娘が本来の家庭に戻ったと結論づけたところで思考が止まる事でしょう」
私の考えにお父様とエリディス王は二人揃って息を吐き首を振られます。
「クロード公よ、お主の娘は恐ろしすぎやしないか」
「偶然ですな、エリディス王。
私もいま娘のことが心底恐ろしいと感じた所です」
エリカに悪役令嬢のキャラは入れてなかったのですが暗躍して周りをコントロール姿は悪役令嬢より悪役に見えてきますね。
人間、自分の信じたい情報に踊らされるという話でした。




