必要なピース
前半少しだけエリカ視点。
中盤から最後まで新キャラ視点です。
「そう、遂に探していた人材が見つかったのね!」
私はモニカからの報告に喜びの声をあげます。
いま計画していることに対して必要だったもう1つのピースが遂に埋まったからです。
「それでは早速会ってみましょう!」
「分かりました、すぐに手配致しましょう」
クロード領にある酒場には1人の芸人がいた。
それが僕、オミロだ。
僕は客から注文を受けるとその場で似顔絵を描くという仕事をしていた。
更に客の細かい注文による変化も受け付けていたが、それらを完璧に理解して絵に起こすことも得意としていた。
それらの絵はやってきた客を悉く満足させた。
だが僕は絵描きとしては評価されていなかった。
絵描きといえば貴族に頼まれてじっくりと時間をかけて完成させる作品を作るものというのが世間一般の認識だ。
絵描きとしては認められない僕の技は只の曲芸でしかない。
そんな曲芸で日々を食いつないでいた僕に、ある日転機が訪れる。
「えええ!?僕がクロード公爵家に?」
「はい。お嬢様方がオミロさんの噂をお聞きして是非お会いしたいと」
何かの間違いだと思うけど、目の前にいるクロード家の侍女を称する女性は間違いなく僕を指名していた。
「分かりました。
どれだけ期待に答えれるか分かりませんが、お屋敷に向かわせてもらいます」
「ありがとうございます。
お嬢様方もきっと喜ばれる事でしょう」
彼女はそう言って日にちを指定し、当日には酒場の前まで馬車で迎えにきてくれるという。
当日、本当にクロード家の家紋を付けた馬車が酒場の前にやってくる。
僕は緊張しながらその馬車に乗るとそこにはこの間の侍女と貴族らしい服装をした女性が乗っていた。
「ご機嫌よう、オミロさん。
私の名前はエリカ・クロード。
今日はよろしくお願いしますね」
「あ、あの・・・オミロと言います。
よろしくおねがいします」
何とか声を絞り出して挨拶をした自分を褒めてやりたい。
何故お屋敷で待たずに迎えの馬車に乗っているのだ!
そう慌てた僕だったが彼女をみて直ぐに目を奪われる。
容姿が美しいのもそうなのだが、1番目を引いたのは髪型だ。
貴族令嬢らしくない長さで切りそろえられているが、その髪型が彼女の魅力をこれ以上ないほどに引き立てていると思った。
長髪が女性の美しさを引き立てるものであるならば、彼女ぐらいの短さは女性の可憐さを際立たせているようである。
先程までの緊張も忘れて考えに耽っていたところで、エリカ様がじっとこちらを見ていたことにようやく気付く。
「こ、これは大変失礼しました。
昔から考えに耽ると周囲が目につかなくなる性質でして」
「いえ、お気になさらずに。
オミロさんのそれはきっと画家として必要な才能なのでしょう。
自身の才を発揮するためにも周囲の声など気にせずに存分に集中してほしいものですわ」
僕はその言葉に驚き思わず座席から転がり落ちそうになる。
彼女の言葉を正しく理解するなら、僕のことを画家として認めてくれているのだ。
それでいてこの悪癖まで認めてくれるなんて・・・確かに世間の噂通りの聖女なのかもしれない。
それだけに彼女が求めているものと剥離してしまった時のことを恐れる。
画家だと思ったが勘違いだったとせっかく得た物を失うのが怖いと思った。
何という傲慢な考えであろうか。
先程まで持っていなかったものを急に与えられただけで固執してしまうなど。
しかし、エリカ様はそんな自分のことを見透かしていたのだろう。
「緊張しなくて大丈夫ですよ。
私たちは貴方の似顔絵の技術を拝見したいだけですのでいつも通りに。
さぁ、もうすぐお屋敷に着くのでよろしくお願いしますわね」
その言葉通りに馬車は大きな屋敷の門前へと着く。
そのまま入り口で少しのチェックの後に通された馬車の中で僕の緊張はピークに達しようとしていた。




