第二話「始まり」
「どうかご勘弁を」
「これに懲りたら二度と人にブスなんて言葉を使わないことね」
やっと開放された。
俺はしばらく絞め技で痛めた部分を摩りつつ、今起きてる出来事に関して思いを巡らせた。
俺たちは知らない空間に放り込まれた。
それだけじゃない。記憶もないのだ。
俺は自分の名前しか思い出せていない。
普通ならこの空間に放り込まれる前にどこにいたか記憶にあるはずだが、その記憶が一切ないのだ。
「改めて聞きたいがお前、名前は」
「だから何で」
「今は少しでも情報があったほうがいいだろう。名前ぐらい教えろよ」
「……竹城安奈よ」
「ここに来る前の記憶とかあるか」
「無いわよ」
「本当か?」
「こんなことで嘘ついてどうするのよ。本当に無いわよ」
困った。情報が少なすぎる。
まあ、女の名前が分かっただけよしとしようか。
「とりあえず。出口がないか探してみようぜ」
「そうね」
俺たちは出口を探そうと立ち上がり足を動かそうとした。
その瞬間。
「お目覚めですかな?」
突然どこかからか声がした。
渋い男性の声だ。
「誰だ!?」
「私めのことはどうだってよろしい。それよりここから出たくはないですか?」
どういうつもりだ。
「ああ、勿論出たいさ」
「ならここから出る方法を教えて差し上げましょう」
おそらくこの男が俺たちをここに閉じ込めた主犯格だろう。
何が目的だ? やっと閉じ込めた俺たちを簡単に外へ出すなんて。
しかし、この男の次の一言に俺たちは衝撃を受けることになる。
「今、目の前にいる相手を殺しなさい」
相手を殺す? 俺の目の前には安奈しかいない。
「ちょっといきなり何よ!」
安奈が大声で叫んだ。
「人を殺すことなんて私に出来るわけがないじゃない」
あれだけ人に絞め技をした人の言うセリフじゃありませんね。
「貴方にはこの男を殺す権利があります」
「どういうこと?」
「それはこの男を殺せば分かることです」
どういうつもりだ?
殺す権利がある?
安奈が俺を?
俺は彼女に何かした覚えはない。
殺される道理はないはずだ。
「残念だけど私は殺さない。私は悪党じゃないもの」
「そうですか。だけどいづれ貴方はこの男を殺したいと思うでしょう」
「どういうこと?」
「それはいづれ分かることです。そうですねえ。今殺さないとなると別の方法でこの世界を出るしかないですね」
俺は「その方法とやらを教えろよ」とその声に問いただした。
「貴方方にはこの世界の魔王を倒してもらいます」
魔王だと!?
俺たちはファンタジーな世界にでもいるというのか?
信じられない。
「要はそいつを倒せば元の世界に戻れるってわけね」
安奈が強気な発言をする。
「そういうことです」
「ん!?」
急に辺りに光が差し込んできた。
「それでは貴方方のサポート役のフィルにあとは任せて私はこのまま消えましょう」
その声を最後に俺の意識が遠のいた。