みなかえろう
「……っかぁーーーー、くだらねぇ、呪いだとか寂しくて迎えに来たとか、んなことあるわけねぇ」
「そうですわね、ノンノン、あまりにも非科学的だと、ワタクシもそう思いますわ」
「とにかく、音の発生源は市役所で間違いねぇ、あのマジメとかってやつも認めていた」
「ウィそうですわ。情報システム部に確認するっておっしゃっていましたわ」
「ってことはだな、今夜からはあのうるせー音は鳴らないってことだ」
「エグザクト! その通り。これで一安心ですわ。ワタクシのお肌の安全も守られます」
「んじゃー、はい、解散解散。姉ちゃんたちも早く帰れ。ほら、明るくなって来ちまった」
「メルシーありがとう。こちらのコーヒー代はワタクシに支払わせてちょうだいね。それじゃ、アビアントまたね」
二人に促されるようにして、店を後にした。
──本当に解決したのだろうか?
真紀と静香は路上に立ち止まったまま、もう一度、例のまとめサイトを見た。
New!とマークがついているところに、『八月十日(土)、若い男性が入浴中に溺死、二時半』と書かれていた。
そして先ほどの市役所の女性職員が入浴中に溺死のニュースのリンクが貼られていた。
やはり終わってなどいない。
でも何をどうしたらいいのかは分からない。
とりあえず馬締課長が対応してくれるのを信じて待つしかないのだろうか?
「榎本さん、私、思ったんですけど、『おててつないで みなかえろう』って家に帰るっていう意味じゃないような気がしませんか? 結城さんはご主人に帰って来てほしいと願っていたけれども、それが叶わないと知って、ご主人とお子さんとご自分と、みんなで……」
静香と別れた後、真紀の頭の中には、静香の言葉がぐるぐると回っていた。
お空にかえろう……?
家に着くと真紀は化粧も落とさずベットに潜り込んだ。この年齢で徹夜はきついよ、そう呟くと泥のように眠った。
──夕焼け 小焼けで 日が暮れて
ああ、うっかり夕方まで寝ちゃったのか、そう思った。
でもカーテンの間から見える空は茜色ではなく真っ暗だった。
投げっぱなしのスマートフォンをタップして起動する。
八月十一日(日)、午前二時
──山のお寺の 鐘が鳴る
ベッドから飛び起きてカーテンを開け、窓の外を見る。
たくさんの老人、
モデルみたいに歩く若い女性、その腕を取る男性、
飛び跳ねるようにはしゃぎ歩く男の子、
お母さんのスカートをしっかり握りしめて歩く小さな女の子、
みんな無言のまま市役所の方に向かっている。
「こんな夜中にみんなでどこに行くの?」
真紀は思わずそう声をかけそうになった。
でも、声をかけてはいけないような気がして、慌てて両手で口を覆った。
そうだ。
あの市役所の建物は震災以降に建てられたもの。昔、あの場所に火葬場があったはず。
子供の頃、白い煙が立ち上って空に広がって行くのを不思議な気持ちで見ていたことを真紀は思い出していた。
──おててつないで みなかえろう
人の列はどんどん増えていった。
誰も喋らない。誰も振り返らない。みんな市役所に向かって歩いていく。
最後尾に恰幅のいい男性……堅岡さんが歩いている。いつもあんなにおしゃべりなのに無言だ。
──からすと いっしょに かえりましょ
真紀は、怖くなって家の鍵をもう一度確かめた。
その時、カーテンの向こうから、楽しそうにくすくすと笑う小さな子供の声が聞こえた。
『おねえちゃんも、かえろ?』
あなたがお住まいの地域の防災無線のテストで流れるメロディーはどんな音楽ですか?
夕焼け 小焼けで 日が暮れて
山のお寺の 鐘が鳴る
おててつないで みなかえろう
からすと いっしょに かえりましょ




