1.なんで董卓なんだ!
久しぶりの新連載です。
「フゴゴゴゴ、フゴ……ンガッ」
いい気持ちで寝てたら、痛みで目が覚めた。
恥ずかしながら、ベッドから落ちてしまったらしい。
「あれ、どこだよ、ここ?」
しかしそこは自分の部屋ではなかった。
暗くてよく見えないが、明らかに別の場所だ。
なんか変な臭いがするし、ベッドも粗末なものである。
しばし呆然としていると、明かりを持った人間が現れた。
「董卓さま、いかがされましたか?」
はあ、董卓?
それって、三国志随一の悪役のことか?
そう思った瞬間、きつい頭痛に襲われた。
「ウグッ、あいたたた」
「だ、大丈夫ですか?」
しばし苦しんだものの、やがてそれは収まった。
そして不思議なことに、今の状況が把握できていた。
思ったとおり、俺は後漢末期の奸雄 董卓になっていた。
え、何を言ってるのか分からないって?
俺にだって分からねえよ!
現代日本のサラリーマンだった俺が董卓とか、なんの冗談だ!
これじゃあまるで、ラノベの世界じゃねえか!
そんな思いが、俺の中を駆け巡る。
しかしいくら怒っても、事態が好転する気配はない。
今の状況が夢や幻覚である可能性も、まずないだろう。
ここでようやく、心配そうに俺をうかがっている人間がいることに気づき、適当にごまかした。
「ゴホン……ちょっと頭痛がしたが、もう治まった。また寝直すとしよう」
「本当に大丈夫でございますか?」
「ああ、問題ない」
現代のものに比べて固く粗末なベッドに戻ると、俺は目をつむった。
するとお付きの者も引き下がり、静寂が訪れる。
そこで冷静になって考えを整理してみた。
俺の名は董卓 仲潁。
三国志の中で後漢王朝を牛耳り、非道の限りを尽くす極悪人だ。
こいつのおかげで後漢王朝は混乱し、やがて反乱を起こされて長安へ逃げるも、腹心の呂布に殺されるって結末だな。
しかしちょっと待ってほしい。
董卓は本当にそんなに悪かったのか?
え、何? そんなの常識だって?
いやいやいや。
もっと客観的に三国志を見直してほしい。
まず董卓のやったことは、この時代では大して珍しくもないし、それなりに理由もあるんだ。
それをなんでもかんでも極悪非道、残虐無比の魔王みたいに言うのは、公平じゃないだろう。
なんなら、ここでちょっと、董卓の悪行について反論させてもらおう。
・時の皇帝 劉弁を廃位し、劉協を擁立した
→何皇太后ら外戚が後ろ盾になる劉弁が邪魔だった
時の権力者が皇帝の首をすげ替えるなんて、別に珍しくもない
・何皇太后を幽閉し、自殺に追いやった
→政権を安定させるのに邪魔だったから、排除した
・剣を外していなかった役人を撲殺した
→俺の前に帯剣して出てくる奴が悪い。暗殺かと思うじゃねえか
・洛陽の富豪を襲って金品を強奪した
→軍兵を養うには、富裕層から奪うのが手っ取り早かった
そもそも国庫に金が無いのが悪い
・村祭りに参加していた農民を皆殺しにした
→反董卓連合の蜂起後に集会やってりゃ、反乱と疑われても仕方ない
そもそも勝手な民間祭祀は法で禁止されている
・董卓の蛮兵が毎夜のごとく暴れ、婦女に乱暴した
→配下にいる兵士の不満を解消させるため、やむを得なかった
戦時においては特別な話でもない
・長安に遷都し、洛陽に火を放って廃墟にした
→洛陽は守りにくく、反乱軍に利用されると面倒だから破壊した
そもそも反逆者どもが攻めてくるのが悪い
・前皇帝の劉弁を毒殺した
→反逆者どもが担ぎ上げる可能性があったので、後顧の憂いを断った
・歴代皇帝や公卿の墓を暴いて財宝を奪った
→墓荒らしなんて、この時代の常識
そもそも国庫に金の無いのが悪い
こうやって見ると、たしかにろくでもないことをしてる。
だけどそれは、現代感覚で見ての話だ。
当時の感覚で言えば、それなりに理由はあるし、もっとひどいことした奴らだって多くいる。
その一方で、董卓は人事を刷新し、政治を改革しようとした形跡もあるんだ。
袁家を始めとする名士層に敬意を払い、名のある者たちを重職に就け、人事を刷新した。
例えば周毖や許靖らの推薦を受けて、韓馥、孔伷、劉岱、張邈たちを、郡太守や刺史に任命した。
袁紹なんか、洛陽を逃げ出したにもかかわらず渤海太守になってるし、袁術も後将軍に任命されている。
董卓なりに、関東(函谷関以東の地域)の名士たちと協調しようとしてたんだ。
しかしこいつらが軒並み、反董卓連合として叛旗をひるがえした。
その裏には、董卓を田舎者とさげすむ関東士人どもの悪意があったんだろう。
おかげで漢王朝の権威は地に落ち、各地の武装豪族が土地を奪い合う乱世に突入してしまった。
その後、董卓は洛陽を破壊して長安へ遷都するも、やがて呂布に暗殺されてしまう。
もちろん董卓にも非はあっただろうが、反逆者どもよりも悪く言われているのには、明らかに第三者の意図を感じる。
その理由も、容易に察しがつくな。
三国志が書かれた西晋王朝は、曹操を源流とする曹魏王朝の流れを引き継ぐからだ。
曹操といえば、堂々と反董卓連合に参加していた反逆者の1人である。
そんな反逆者の流れを汲むと言っては都合が悪いので、董卓が悪かったことにしたわけだ。
つまり一般に流布する董卓の悪名は、後世がでっち上げた冤罪の可能性が濃厚なんだな。
とまあ、董卓がそれほど悪党じゃないと知る俺が、なぜ彼になっているのだろうか?
未来知識を使って、董卓を悲劇から救えってのか?
ちなみに今は董卓が大将軍 何進から召喚され、洛陽の手前で待機してるとこだ。
史実ではやがて何進が暗殺され、洛陽は大混乱に陥る。
そこで上手いこと立ち回れば、未来の破滅や悪名も回避できるかもしれないな。
でも、ひ弱な現代人にそんなこと求められても、困っちゃうんだけどなぁ……
以上、”俺は魔王じゃねえ!”の始まりです。
”それゆけ、孫堅クン!”で主張している話を、董卓の視点で描いてみようと思い立ちました。
はたして董卓は、破滅と悪名を回避できるのか?
十数話の中編になりますが、最後までお付き合い願えれば幸いです。




