苦いアドリブ
よろしくお願いします。
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そして、二週間後。
私達は衣装を着て、台本を片手に、ダンスホールで稽古をしていた。
ナレーションから、始まる。
「とある国に、可愛らしいお姫様が生まれました。国中大喜び。国王様は、早速お姫様の誕生パーティを開きます。ただ困ったことに、祝いの席で使う食器が一組分足りないのでした。」
「困ったことだ。どうしようか。」
「貴方、あの意地悪な魔女を呼ばなければ良いのでは?」
「確かに名案だ。日照りを続かせたり、逆に大雨を降らせ続ける様な魔女だ。よし、その意地悪な魔女の招待状は、贈るのは辞めよう。」
ナレーションは、凄く上手い。
ただ、王様も王妃様もまだまだ棒読みだ。
衣装も小物もきちんとした物だから、凄く役者が浮いて見える。
「こうして、国中の魔女が招待を受ける中、意地悪な魔女だけが招待されませんでした。お姫様の誕生パーティーは和やかに始まり、良い魔女達が祝福をかけます。」
「この子は、世界で一番の美人になります。」
「この子は、世界で一番の愛らしさを持ちますわ。」
双子の魔女が小道具のステッキをふる。
「そして、最後の魔女が祝福をかけようとした時でした。」
「私だけが招待されないパーティーとは、どう言うことだい?」
「招待されなかった意地悪な魔女が、パーティーに乱入してきたのです。魔女は、とても怒っていました。大変気の短い魔女だったのです。」
「私の祝福を決めたよ。この子は、十六歳の誕生日を迎える日、棘に刺さって死ぬのさ。あーはっはっは!」
ベル、演技凄く上手。
黒いドレスに、黒いベール。
笑い方も悪役らしい。
悪役がよく似合うな。
「意地悪な魔女は、祝福ではなく呪いをかけていきました。」
「まさか、こんな事になるなんて。一体どうしたら、いいんだ。」
「王様は、顔を手で覆い、項垂れました。」
「国王様。私から最後の祝福が残っています。」
「おお。そうだったな。」
「ですが、呪いは強く、完全に防ぐ事は出来ません。だから私は呪いを和らげます。この子が十六歳になる誕生日。棘が刺さって死ぬのではなく、ただ眠るだけ。その眠りは、王子からのキスで目が覚めるでしょう。」
リリアも演技が上手い。
ステッキを振るのも、まるで本当に魔法をかけているみたいだ。
「誰か、隣国の王子の一覧をここに。年頃の合う王子と王女の婚約を進めるのだ。また、王宮から、尖ったものを今すぐに無くせ。角という角をなくすのだ。」
「こうしてお姫様は、同じくらいに生まれた隣の国の王子とすぐに婚約が決まりました。また、危険の少ない、誰も知らない王宮の中にある森の小屋の中で育てられる事になりました。」
「ああ、姫。何という可哀想な事だ。私も王妃も顔を見にくるからな。」
「姫、無事に暮らすのですよ。」
「お姫様は、小屋の中で妖精三人と一緒に暮らす事になりました。殆ど毎日、王様と王妃様がお姫様の成長を見にやってきます。」
ここから、妖精の出番だ。
ピンクと水色と緑色の淡い色のドレスに、羽がついている。
私達は短い杖を構えて舞台にでる。
「私達にお任せください。」
「お姫様の健康に気をつけて、健やかに育てます。」
「お姫様の教育に気をつけて、賢い人に育てます。」
良かった。
台詞かまなかった。
「頼んだぞ。」
「そうしてお姫様は、妖精達に見守られながら、美しく愛らしく育ちました。」
姫役のアリッサが登場した。
今の貴族がいる時代にしたら、凄く革命的な衣装だ。
普通は、コルセットに膨らませる骨組みのついたドレスだが、寝る都合上、前世のワンピースの様な作りになっている。
その代わり、宝石やレースが沢山ついている。
「今日は、私の十六歳の誕生日。いつもの誕生日は、王様と王妃様と妖精達と楽しく過ごすのに、今日は一歩も小屋からでては行けないなんて、つまらないわ。」
「姫は、窓の外を眺めます。外には、見たことのない花が咲いていました。」
「あの花は、見た事が無いわ。何の花なのかしら。」
研究所から取り寄せた、季節外れの薔薇の花が、鉢植えごと用意された。
「その花は薔薇でした。お姫様が棘に刺さって眠り続けると言われてから、王宮の薔薇は、王様の指示で、全て焼かれていました。その為、お姫様は薔薇を見た事がありません。でも無いはずの薔薇が、どうしてこの王宮にあるのでしょうか。お姫様は、見た事がない薔薇に夢中で、つい小屋の外に出てしまいました。小屋のドアには、外からは絶対に開けられない魔法がかかっていたのに、お姫様は自らドアを開けてしまったのです。」
「綺麗な赤いお花ね。摘み取って小屋に飾りましょう。皆きっと驚くわ。」
「お姫様が薔薇を摘み取ろうと触ると、薔薇の棘がお姫様の指に刺さりました。」
「ああ、痛い。」
「お姫様は、その場にぱったりと倒れました。眠り始めたのです。眠りから覚めるためには、王子からのキスがなければ、なりません。」
もう一度、妖精達の出番だ。
「ああ、お姫様。あれほど、小屋の外には出ないように言っておいたのに。」
「この様な所では、可哀想ですわ。運んでベッドに寝かせましょう。」
「とびきりのベッドを用意しましょう。眠り続けるお姫様の身体が少しも痛くならない様に。」
「それから、お姫様は眠り続けました。知らせを聞いて、王様と王妃様が駆けつけます。」
「姫、どうして眠ってしまったのだ。薔薇の花は全て焼いたはずなのに、なぜこんな所にあるのだ。」
「姫、可哀想に。きっと助けが来ますからね。」
「そうだ。早く婚約者の王子を呼ぶのだ。あの者なら、姫を救える。」
「こうして、隣国の王子様がお姫様の国から呼ばれました。」
「姫、眠られてしまったのですね。私が助けに参ります。」
「王子がお姫様の国に行くのに、何の障害も無いはずでした。隣の国の為、馬車で一日で着くはずでした。しかし、王子の前には、意地悪な魔女の手先が、剣を構えて待っていたのです。」
ここだけは、台本の変更がはいった。
ハンレーとショーンが木刀で戦う事になったのだ。
「ここから先は通さない。通りたければ、俺を倒してからにしろ。」
スッ。
鞘から、剣を抜く。
「力ずくでも通らせてもらう。愛する姫を助けるためだ。覚悟しろ。」
スッ。
ショーンも鞘から剣を抜いた。
ゴン。
二人の剣が重なる音がする。
結構迫力がある。
そして、ショーンの台詞から、愛する姫というアドリブが入った。
台本は、ただの姫だったはずなのに。
舞台袖にいるアリッサの顔が、赤くなる。
愛する姫か、苦いアドリブだ。
ハンレーとショーンは二、三度打ち合い、ハンレーが倒れる。
「魔女様、申し訳ありません。」
「その後、王子は馬を走らせ、お姫様の待つ王宮の小屋の寝台へと急ぎます。」
「姫、お待たせしました。」
「王子は、姫に近づき、そっとキスをしました。」
「あれ、ここはどこ?」
「美しい人、名前は何と言うのですか?」
「私の名前はアリッサですわ。」
「アリッサ姫。私の名前はショーンと言います。是非、私と結婚してください。」
「はい。喜んでですわ。」
「こうして、二人は無事に結ばれ、楽しく暮らしました。おしまいです。」
拍手の音が鳴り響く。
「アドリブを入れてみたのだけれど、どうかな?」
「とても良いと思います。台本を直します。」
「うん、頼むよ。」
「かしこまりました。」
「学園祭まで、後二週間だ。ナレーション以外のものは台詞を覚える様、頑張る事。その為にパーティーのシーンで使ったデザートを皆でこれから食べよう。せっかくなら、力を合わせて皆で最優秀賞目指して頑張ろう。」
「「勿論です。」」
ショーンの一声で、クラスがまとまる。
棒読み以外は、何もかもがプロ並みだから、そこが良くなれば全てうまくいくでしょう。
ハンレーとショーンのシーンはかっこよかった。
中身は木刀とはいえ、見た目は本物の剣の様に色が塗ってあるし、振るスピードがあるから迫力もある。
私も劇を成功させる為に、台詞を噛まない様に気をつけないと。
デザートは、大変おいしかった。
こうして、二週間はあっという間に過ぎていった。
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