第七十一話 桔梗ちゃん、家族にお付き合いを報告する
連載再開です。よろしくお願いします。
しーちゃんとお付き合いすることになり、一夜が明けました。あのあとしーちゃんとお話ししていたのですが、結局いつも通りの時間に眠ってしまいました。
(もう少し、夜更かししたいです。せっかくしーちゃんと恋人同士になれたのですから)
キスとかそういうのは私達にはまだ早いと思うのですけど、それはそれとして恋人同士の時間がもっと欲しいと思えてきます。せめてあと三十分は起きていたいと思いながら目を開けたのですが、私の目の前には、気持ちよさそうに眠るしーちゃんの寝顔がありました。
(は、はぅぅぅぅぅ!!)
そういえば眠る前に、しーちゃんに添い寝して欲しいと頼んだことを思い出し、さらに彼と抱き合って眠っていたことに気付き、起きて早々心臓の鼓動が早まりすぎて、危うく意識を失いかけてしまいました。
(はぅぅ、そ、添い寝は危険です!!)
前に一度しーちゃんと添い寝したときは、彼に抱き付かれていて、起きた瞬間に気絶してしまいました。今回は二度目ですので、多少耐性が出来たみたいです。しかし、それでもギリギリなことに変わりはありません。
(早く抜け出さないと、しーちゃんにご迷惑が)
自分でもいつ気絶するかわからないため、このままでいると最悪彼が起きたとき、私が気絶していて、朝から騒動になりかねません。どうにかして抜け出そうともがいていたのですが、非力な私ではしーちゃんの腕はピクリとも動かすことは出来ず、そればかりか彼が強く私を抱きしめ、耳元で囁きました。
「桔梗ちゃん......愛しています」
「はぅぅ!!」
しーちゃんからの愛の告白で、私の心臓は限界を超えてしまい、その瞬間意識が途絶えてしまいました。次に目覚めたとき、案の定しーちゃんが私を心配そうに見つめていました。
「桔梗ちゃん、大丈夫ですか?」
「はい......」
「そうですか。でしたら申し訳ないですけど、気絶したときの状況を覚えていたら、出来るだけ詳しく教えてください」
しーちゃんの問いかけに、私は正直に起きてから気絶するまでにあったことをお話しました。すると彼の表情が罪悪感で曇ったかと思うと、居住まいを正し私に土下座しました。
「完全に僕が原因じゃないですか。桔梗ちゃん、申し訳ありませんでした!」
「その、謝らないでください。添い寝を頼んだのは私ですから」
「だとしても、寝相や寝言であなたが気絶する可能性に思い至らなかった僕の落ち度です」
「それは私も同じですから、お互い様です。ですので、両方が悪かったってことにしましょう」
二人共が自分に非があると主張し、言い合うのも不毛なので折衷案を出しました。いつもならしーちゃんが私を宥める側ですから、ちょっと新鮮な感じがしました。
「......わかりました。それでその、とりあえずしばらく添い寝は自重しましょう。泊まる機会がいつあるかは置いておいて」
「そう、ですね。ですけど、添い寝だけでしたら何とか大丈夫でしたよ?」
「砂上の楼閣かバベルの塔みたいなものを大丈夫とは言えないでしょう? トドメを刺した僕が言うのもなんですけど」
「はぅぅ」
というわけで、しばらくの間、私としーちゃんは添い寝禁止になりました。いつか一緒に寝られるように、少しずつでも気絶癖を治していかないとと心に誓い、朝ごはんを食べに一階に下りました。
「おはようございます、桔梗ちゃん、詩恩くん。朝ごはんは出来てますよ」
「では、いただきますね」
ママの作った朝ごはんを食べている途中で、鈴蘭お姉ちゃんと雪片お兄ちゃんが下りてきて、食べ終わる頃にパパが起きて席に着いたので、しーちゃんがお話ししたいことがあると言い、私達に注目が集まりました。
「皆さんに報告があります。昨晩、僕と桔梗ちゃんはお付き合いを始め、恋人同士になりました」
「その、よろしくお願いします」
「「「「おめでとう(おめでとうございます)!!」」」」
私達の発表を聞き、全員が声を揃え一斉にお祝いしてくださいました。特に喜んでいたのがパパで、知らせを聞いて一度お部屋に戻り、交際記念だと言ってしーちゃんにウッドリングを渡しました。
「これは?」
「前から作ってたんだけど、渡すタイミングが無くてね。ついでに保管ケースも渡しておくよ」
もちろん私達と同じコンセプトで、紫苑の花がデザインされたものでした。その上、いつ測ったのかわかりませんが、しーちゃんの右手薬指にピッタリの大きさでした。
「ありがとうございます。大切にしますね」
「そう言ってくれるとありがたいね。ただ一つ、学校には着けていかないこと。没収されたら困るからね」
「こう見えて真面目ですから、大丈夫ですよ。それでは、そろそろアパートに戻りますね。着替えとかありますから」
「なら、俺も食い終わったら戻るとするか。詩恩、今日は俺達のこと待たなくていいぞ?」
「だね。お付き合い初日くらいは、二人きりで登校したいだろうし」
鈴蘭お姉ちゃんと雪片お兄ちゃんのお気遣いで、私達は二人で登校することになり、お着替えなどのためしーちゃんは一度お部屋に戻りました。はぅぅ、登校デートです。
お読みいただき、ありがとうございます。




