第七十二話 詩恩くん、友達にプレゼントする
学校に行く準備をするため自宅アパートに戻った僕は、制服に着替えたあとで自分の母親に桔梗ちゃんと付き合い始めたことを伝えていなかったことを思い出し、朝早い時間ではあるが電話をかけることにした。僕達の仲を気にしていたので、付き合い始めたことを知ったら喜ぶと思う。
『詩恩、こんな朝からどうしたのよ?』
「桔梗ちゃんとお付き合いを始めたので、その報告をしようと思いまして」
『あら本当!?』
電話の向こうの声が弾んでいた。息子に彼女が出来たことに加え、その女の子が自分のお気に入りの子だから、この反応も納得だ。
「本当ですよ。詳しい話をしたいところですがこれから学校ですから、また放課後改めてかけます。そのときは桔梗ちゃんと一緒に」
『楽しみにしてるわね。じゃあ、精々愛想尽かされないようにしなさいよ』
「ええ。それでは」
通話を終え、携帯をポケットにしまい込む。あちらの両親に交際を許可された状況で愛想を尽かされたら、本気で生活が成り立たなくなりそうなので、母さんからの忠告を胸に刻んだ。アパートを出て桔梗ちゃんと二人で登校していた途中こんなことを言われた。
「あの、私達がお付き合いしてること、どこまで話したらいいですか?」
「あー、確かにそうですね」
冷やかされるのも慣れているから別に公表しても構わないと個人的には思うけど、男女交際に厳しい先生に知られると目を付けられそうなので、その辺は考えどころだ。
「明日太や御影さんをはじめとした友達に言うのは確定として、あとはどうします?」
「クラスの皆さんや、天野先生辺りですね。先生にも私達がお付き合いしていることを知っている方がいれば、何かあったとき困りませんし」
「わかりました。では今のうちに友達に報告しておきましょう」
「ですね」
一旦立ち止まり、僕達は携帯のメッセージアプリを起動し、ひとまず明日太に御影さん、雛菊さん達や土橋さん達に付き合い始めたことを知らせた。朝の忙しい時間だからほとんどの人から返事は無かったけど、御影さんからはおめでとうと返ってきた。
「とりあえずひと安心ですね。では改めて行きましょうか」
「はい」
登校し教室に着いたところ、やはりというか何というか、明日太が掃除していた。今日の日直は別の人のはずだと思い黒板に書かれてある名前を見ると、二人とも陸上部の生徒だということを思い出す。
「朝練だから代理でしてるんですね」
「そういうことだ。ブランクを早く取り戻したいから、どうしても代わって欲しいと土曜日に言われてな」
「そんなことよりも、桔梗ちゃんに桜庭くん、おめでとう」
「はぅぅ、ありがとうございます」
「ええ。無事にお付き合いを始められました」
「......ああ、お前達恋人同士になったのか。おめでとう」
普通に祝福してきた御影さんに対し、明日太は一度驚いた顔をしていたので、多分彼は携帯を見てないと思われる。
「一応登校中にメッセージ送ったですけど」
「見てなかった」
「明日太らしいですね。それと僕達昨日デートしてたんですけど、お二人にちょっとした贈り物があります」
「あの、お花の栞です」
僕と桔梗ちゃんは、それぞれ彼らに栞を手渡した。御影さんはすぐに花の種類にピンときた様子だったけど、明日太はそうでもないみたいだ。
「わざわざありがとう。これ、鈴菜の花だよね?」
「僕のこの花は、裏にエゾギクって書いてあるが?」
「エゾギクの別名はアスターです。花弁が放射状であることからそう呼ばれているそうです。ちなみに僕の紫苑は、アスター属に含まれるんです」
ただややこしいのが、エゾギクはアスター属に含まれないところだ。かつてはアスター属だったそうだけど、現在はカリステプス属になるそうだ。その名残から、エゾギクは今でもアスターと呼ばれている。
「そうか。つまり僕とお前は似て非なるものだと」
「簡単に言うとそうなりますね。僕も昨日、明日太の名前も花に関わりあると、初めて知りましたよ。もしかしたら、僕達みたいに誕生日と誕生花も一致してたりするかもしれませんね」
「そもそも誕生花があることすら知らない」
「ですよねー」
僕も桔梗ちゃんから教えて貰うまで知らなかったくらいだ。花に縁がなさそうな明日太が知らなくても何の不思議もない。
「お前らが同じでも御影や僕がそうだとは」
「ウチの誕生日四月一日は、鈴菜が誕生花だけど?」
「えっ!? 御影さんエイプリルフール生まれなんですか?」
「......僕とほぼ一年違うじゃないか」
頼れるクラス委員長が、誰よりも年下だったという衝撃の事実が明かされ、それと同時に明日太が四月生まれだということもわかった。
「ほぼ?」
「僕の誕生日は四月三日だからな」
「嘘!? その日の誕生花、エゾギクなんだけど」
「そうか。だったらそれも僕と御影の共通点だな」
「う、うん///」
明日太との思わぬ共通点に、照れて顔を赤くする御影さん。まさか気まぐれで用意したプレゼントが、友達二人の仲を深めるきっかけになるとは思いもよらなかった。なお、このあとクラスメートに僕達が付き合い始めたことを宣言したのだけど、全員から今更と返されてちょっとヘコんだ。ちなみに天野先生にも報告したのだけど、とても嬉しそうに微笑んでいた。
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