【Fish's swim in bed①(ベッドで泳ぐ魚たち)】
エマが珍しく泣きだした。
「すまない。最初から分かっていたのに」
そう。エマに渡したアラスカのカクテル言葉は『偽りなき心』そして俺のイエロー・パロットは『騙されない』
エマが俺を騙しているとは思っていないが、何かを隠していることは分かっていた。
だから、それを聞きたかった。
DGSEの活動は、国家の機密情報に携わる。
それは家族や恋人、たとえ敵に捕まったとしても決して話すことは出来ない。
隠されて辛い思いをしたのは俺の方ではなく、寧ろ隠さなければならないエマの方が辛い思いをしていたと言うのに……。
泣いているエマの体を優しく包み、ベッドへ運ぶ。
「ナトちゃん……」
「すまない。どうやら俺はマダマダ人間としての経験が浅いようだ」
お姫様抱っこをされているエマが顔を俺の胸に埋める。
バスローブがはだけそうになり、胸がくすぐったい。
優しく寝室のベッドにエマを横たえると、手を引かれた。
エマのバスローブがはだけて豊かな胸が露わになり、俺は抵抗もせずその手を受け止めエマに覆いかぶさる。
「脱いで」
両手を広げた、まだ目に涙をためているエマが鼻声で言う。
「困ったお姉さんだな」
目の前にある艶やかな唇に自分の唇を合わせると、エマの腕が俺の背中に回る。
そして灯りの消された寝室の広いダブルベッドの上で、俺たちは魚になる。
キスをして、じゃれ合っているうちに、お互いにいつの間にか眠っていた。
エマが起きた気配を感じて、目を覚ます。
時間は、夜中の2時。
「どうした?」
「ううん、どうもしない。ただ……」
「ただ?」
「――喉が渇いちゃった」
エマが俺に心配させないようにと思って嘘をついたのは分かったが、スルーした。
俺に隠していることが、よほど重要な事なのだろう。
そして、それが俺自身に関係がある事も。
「カクテルを作ろう」
スッとベッドから起き上がる。
「もうアラスカは勘弁してね」
エマが穏やかに、そして優しく笑う。
「任せろ」
俺はそう言って、エマのおでこにキスをしてバーに向かった。
ラムベースの、アイオープナーは少し作り方が難しい。
1人前で、ホワイトラム30mlに対してオレンジキュラソー、アブサン、クレーム・ド・ノワヨーが各2dash(振り)ずつで、そこに砂糖が1tsp(小さじ1)と卵黄が1つ入る。
砂糖と卵黄が入るので材料をシェーカーに入れたあと軽くstirしてからアイスを入れ少し強めにシェイクしてグラスに注ぐ。
丁度2杯目をシェイクしているときに、バスローブを羽織ったエマがリビングにやって来て窓を開け、ベランダのチェアーに座り笑顔を向けて手を振った。
出来上がったカクテルを2つ、トレーに乗せて俺もベランダに出る。
冷たい風が火照った頬に心地いい。
テーブルにトレーを置くと、直ぐにエマがグラスを取り上げ、中の液体をクルクルと揺らしながら「また黄色いカクテル。アイオープナーには、まだ早いわね」と言って笑い、グラスを差し出した。
俺もグラスを手に取り、エマのグラスに合わせる。
「運命の出会いに」
「乾杯!」
カチンっと透明で高い音が夜の空に吸い込まれ、星々が瞬く。
“運命の出会い”
俺はこの出会いを生涯大切にして生きたいと思う。
“エマは、どうなのだろう?”
そう思いエマの顔を見ると、いつの間にかその顔は、もうそこまで来ていた。
“私も、よ”
エマは声を出さずに、口だけ動かせて、伝えてくれた。
そしてそのまま俺の膝の上に座ると、顔を被せて唇を求めて来た。
「もう。エマったら、誰かに見られちゃうよ」
「あら、また女言葉ね。それにさっきベッドで魚になったばかりなのに、もう恥ずかしいの?初心ね」
「意地悪」




