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38 舞踏会へのお誘い

 ドレスに、靴に、宝飾品。

 お姫様になるために必要なものたち。


 きれいなものが、きれいな箱に詰まっている。


「なんて、すてきなの……」


 それらを見て、シュエットの深い青の目がキラキラと光った。

 まるで、夜の海に映る月の光みたいだ。ゆらゆら揺れて、楽しそう。

 幻想的で、つい見入ってしまいそうになる。


 ひとまず用意したドレスは気に入ってもらえたらしいと、エリオットはホッと胸を撫で下ろした。


「これを、私に? でも、どうして?」


 二人を少し離れたところから見守っていたピピは、はじめて幼女姿で現れた時のように、偉そうに言い放った。


「最後の試練じゃ。明日はこれを着て、エリオットと舞踏会へ行ってもらう」


「最後の……舞踏会?」


 箱を覗き込んでいたシュエットが、小首をかしげてピピを見る。

 不思議そうな顔をしていても、彼女はかわいい。なにをしていても、かわいくて仕方がない。


 準備は整い、あとは実行に移すだけ。

 すっかりシュエットを手に入れる気になっているエリオットは、恋に侵されたお花畑のような頭で、そんなことを思っていた。


「ああ、そうじゃ。明日はな、ヴォラティル魔導書院の新たな門出を祝う舞踏会が開かれる。魔導書院の者であるエリオットは当然参加しなくてはならないわけだが……」


 先を促すように、ピピがエリオットを小突く。


 自分で言い始めたのだから、最後まで言い切れば良いものを。

 だが、ピピに言わせっぱなしというのも、男としては情けない。

 なんと言えば、彼女は了承してくれるだろう。


 どう言ったものかと思案して、なにげなくシュエットを見たら、視線がかち合った。

 ほしくてほしくて仕方がなかった、恋する瞳がエリオットを見ている。


 エリオットは、嬉しいという気持ちで頭がいっぱいになって、もうなにも考えられなくなった。

 ただただ彼女と一緒にいたいと、それだけになる。


「パートナーを誘っていなくてね。ほら、ここ最近はいろいろあっただろう? だから、せっかくだし、シュエットと一緒に行けたら良いな、と……」


 もじもじ、もごもご。

 言い訳めいた言葉を連ねるエリオットに、ピピは不満そうな顔をしている。


「エリオット」


 あまりにひどすぎる誘い文句に、ピピは待ったをかけた。

 そのままエリオットを部屋の隅まで連れて行き、小声で叱りつけてくる。


「情けないぞ、エリオット。むにゃむにゃと寝言みたいに言いおって。ここはバシッと男らしく、姫に忠誠を誓う騎士のような気持ちで、恭しく舞踏会に誘うのじゃ」


「騎士のように……なるほど」


「公爵位を賜って臣籍に下ったとはいえ、王族に連なる身。姫の扱いは、教わったであろう?」


「まぁ、それなりに」


「大事な女を相手にしているのじゃ。他国の姫よりも優しく丁寧に扱え。わかったな?」


「わかった」


 そうして再びシュエットの前に立つと、彼女は笑っていた。

 せっかくの場面なのにあいかわらずなエリオットだったから、呆れているのかもしれない。


 エリオットは居住まいを正すと、シュエットの前でひざまずいた。

 こういう時の所作は、嫌というほど叩き込まれている。

 エリオットは今になって、家庭教師たちに感謝した。

 さんざん馬鹿にされたけれど、こうしてシュエットにお披露目できたのは、彼らのおかげである。


『いいですか? 目は口ほどに物を言うと申します』


 そう言っていたのは、何人目の家庭教師だったか。

 エリオットはシュエットへの気持ちを視線に乗せて、ゆっくりと顔を上げた。


 見上げた先で、シュエットがほんの少し驚いたような顔をしている。

 エリオットは小さく息を吐いて、緊張で震えそうになる唇を動かした。


「シュエット嬢。舞踏会で、僕と踊っていただけませんか?」


 しばらく沈黙が落ちて、ポソポソと声が聞こえる。

 無意識に呟いたであろう言葉は、返事を今か今かと待っているエリオットの耳に、しっかりと届いた。


「反則よ。ここでこの表情をするなんて、ずるい。だって、かっこいい。すごく、かっこいい」


 顔を赤くして恥ずかしそうに俯く彼女の顔が、ひざまずいているエリオットにはよく見えた。

 一見冷たそうにも見えるシュエットの深い青の目が、熱く潤んでいる。

 そうさせているのが自分なのだと理解した瞬間、ぶわり、と一瞬で全身の血が沸騰したように熱くなった。


(かっこいいだって⁉︎)


 未だかつて、そんなことを言われたことがあるだろうか。

 そんな自問自答なんて不要だ。一度だって、なかったのだから。

 かっこいいはいつだって兄のためにある言葉で、エリオットには与えられることなんてなかった。


 それなのに、愛する女性から、それも無意識に言われたら、浮かれないはずがない。

 ひざまずいていて良かった。そうでなかったら、今ここで、シュエットを抱き竦めていただろう。


「一緒に、行ってもらえるだろうか?」


 とどめとばかりに、上目遣いでシュエットを見つめる。

 彼女はヒュッと息を飲んで、「もうだめ」と観念したように見返してきた。


「行く。行きます、行かせていただきます。だから……お願いだから、そんな顔で見ないで。照れちゃう、から……」


 うぅ、とシュエットはうめき声を漏らして、真っ赤になった顔を手のひらで覆い隠してしまった。

 どんな顔でも、シュエットはかわいいのに。

 照れた顔が見られないのは残念だが、彼女をエスコートする権利を手に入れられた。


(これで、次に進める)


 舞踏会で、すべてが決まる。いや、決めてみせる。

 覚悟を(みなぎ)らせて、エリオットは拳を握った。


読んでくださり、ありがとうございます。


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