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七つ色SHINE ー絆ー  作者: Mayu
22/97

Rem:7 光3

慎はじっと見てはいたが、手を出すことはなかった。

その代わりに体操服が入った袋を地面に置き、その上に腰を下ろした。


「ごめん。うちは、蒼が動物アレルギーだから、連れて帰れないんだ」


慎の言葉が分かったのか、仔犬は段ボールの中をとことこと回り、慎のように座った。

彼と犬は、ずっと二人で座っていた。

図書室を出たときが、四時過ぎだ。

地面はオレンジ色に染まって、日が暮れようとしている。


(いつまでやるんだ?)


光は痺れを切らして来て、置いていくか、声をかけるかを迷った。

しかし、声をかけても光の家はマンションだから飼ってはやれない。

電信柱の影でため息をついた時、ゆっくりとした声がした。


「どうしたの?坊や」


少し腰の曲がった老夫婦が、買い物袋を下げて慎たちの前に立っていた。


「お母さんにでも、怒られたがね?」


おじいさんの問いに首を振って、慎は目線を仔犬に移した。


「可愛いねえ。坊やのわんちゃん?」


これにも否定を示すと、おじいさんは唸った。


「捨て犬かい。まだ子どもじゃけえ。酷いことをする飼い主がおるもんだの。なあ、ばあさん」

「ええ。僕はもしかして、このわんちゃんと一緒に、飼い主が見つかるのを待ってたの?」


慎は頷いた。


「……うちは、飼えないから」

「そう。優しい子だね。おじいさん、どうします?」

「んでも、うちも飼えないからなあ……」


その言葉に慎ががっかりと肩を落とし、おじいさんは笑った。


「まあ、そう落ち込みなさんな。わしらの知り合いに、聞いてみよう。源さんなんかいいかもしれんぞ」

「そうですね。あそこは奥さんを亡くしたばかりですし、新しく家族が増えれば喜ぶかもしれませんね」

「じゃあ、とりあえず、わしらが連れて帰ろうか」

「そうしましょう」


おばあさんは微笑み、仔犬を抱き上げた。

慎が顔を輝かせ、立ち上がった姿を見ておじいさんが驚いた。


「こりゃたまげた。ランドセルのまんまじゃけえ!まだ学校の帰りだったんか。悪い人がおったりするけ、早よう帰らな危なかが」

「家はどこ?お家の人が心配していますよ」


慎は家が近くだと説明をして、老人と一緒に帰りの道についた。

光は道に伸びる三つの影の後を追いかけながら、とても温かい気持ちになっていた。そして。


(あれ?ここって……)


一日の最後にたどり着いた慎の家は、自宅から徒歩でも十分以内のところにあった。

意外と近くにいた存在なのに、全然交流が無かったなんて驚きだ。


「よーっし!」


光は両手に拳を作って、高く上げた。明日から、楽しくなりそうだ。






翌日の中休み、机に本を広げていた慎の前に、立ちはだかってみた。


「おい!」


嬉々とした様子の自分に若干引き気味な表情で、でも慎は光と目を合わせた。


「お前、いい奴だな。昨日見たぞ」

「!」


残っていたクラスメイトが何だろうと、視線が集まる。

注目されていることに慎はぎくりとして、それから席を立った。


そして何も言わずに教室の後ろのドアに向かい、駆け出した。


(やっぱり!)


大丈夫だ。これも想定内。元々いたずらっ子の光はにやりと笑い、前のドアに向かってダッシュした。


「ちょろいね!」


逃げた級友が廊下に飛び出すと、既にそこには両手を広げて立ち塞がる光がいた。


「残念でした。俺はこのクラスで一番足が速いんだぜ」

「……」


対峙する似合わないカップルに、面白いもの好きの男子がまず食いついた。


「何だー?諏訪もっちゃん、転校生いじめかー?」

「ちっげーよ!」


光は否定をしつつ、慎が次にどう出るのかを待った。

自分の背後を指差して、『あ!』などとありきたりなことを言われたくらいでは、反応をしない余裕がある。


(さて。どう出る?)


慎はじっと光を見て、それから体当たりをするように飛び込んだ。


「危ないっ!」

「うわ?」


急に押され、光は尻餅をつく。慎もバランスを崩して、床に膝と手をついた。


「大丈夫?」

「え?いや、うん……」


初めて話し掛けられ、戸惑いながら返事を返すと、慎がすっと立ち上がった。

そして、一瞬にしてその場から走り去った。


「??……はい?」


正反対な行動に呆気に取られるが、すぐに己の失敗に気付いた。


「しまった!」


危ないことなど、最初から無かったのだ。弾けるように光も立ち上がり、後を追った。


「待てーっ」


短い休み時間の間、二人は追われ、追い掛けを繰り返した。

囃し立てるばかりで、止める者もいない暴走列車。

ブレーキをかけさせたのは、甲高い声だった。


「コラッッ!」





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