Rem:7 光2
「ちぇっ。面倒臭せえ」
光はぶつぶつ悪態をつきながら、当番の日に鍵を持って飼育小屋に向かった。
放課後友達とドッジボールする約束をしているのに、掃除当番な上に飼育当番なんて運が悪い。
小屋を囲うフェンスが見えたとき、足を止めた。慎はそこにいたのだ。
(あいつは確か、転校生の……)
フェンスに両手をおいて、慎はじっと小屋の中を見ていた。そして一度、腕で目元を拭った。
(まさか泣いてる?)
無視して小屋を開けるのも躊躇われ、ゆっくり歩み寄って口を開いた。
「あのさ、君……」
「!」
慎の肩が飛び上がるように揺れ、ばっと振り向いた。驚きが大きいのだろう。目が見開かれている。
「……」
「えーと……。ええっ?」
何も言わず、慎は光の前から走り去った。
光は呆気に取られて呆然と立ち尽くし、ぐんぐん小さくなるランドセルを見ていた。
次の日、慎はけろりとした感じで学校に来ていた。
光は何だか昨日の様子が気になって、他の友達と喋ったりしながらも、何回か慎の方を見るようになっていた。
朝の会が終わって五分の休憩になり、慎は席を立った。
教室の端にある担任の机の前に行き、彼女と何事か話している。
そして、何か封筒のようなものを差し出した。
光がもしそのようなことをしようものなら、
『先生にラブレターかあ?』
なんて、クラスメイトにからかわれただろう。
ところが、あまり目立たない慎の行動は気にされていない。
(何だろう、あの手紙みたいなものは?)
慎は静かに席に着き、そして、ふとこちらを見た。
バチッ。途端に二人の目線が綺麗に合わさり、相手は少し驚いたような顔になった。
三秒くらい見つめ合い、慎はふいっと顔を背け、校庭を眺め始めた。
(んにゃろ……)
人懐こくて当たりもいい光は、今まであまり他人からつれない態度をとられた経験がない。
そんな自分にとって初めてのタイプの慎は、興味を引くには十分過ぎるくらいの存在だった。
今まで以上に、何度も慎の姿を目で追うようになった。
新発見が増えて行く。
授業は真面目に取り組んでいるように見えて、意外にボーッとしているらしい。
集中していない時は、外を眺めているようだ。
空を見ているときもあれば、グラウンドでどこかのクラスが体育をしている時など、それを見ていた。
放課後は何日かに一回、教室の花瓶の水を変えている。
それから帰ったり、図書室に寄ったりする。
図書室ではもちろん本を読むのだが、やっぱりたまに窓の外を見ている。
だから座る場所は、窓際の席。
一度など、前の日に夜更かしをしたのか、うたた寝をしていた。
今日は特に友達との約束もないし、光は慎の後をつけて行くことを決めていた。
慎が席を立ち、光も真似た。
景色を見ながら帰っているらしく、足取りは遅い。
少しじりじりしながら離れて追っていき、そして不意に足が止まる。
(何だ……?)
光が近づいたら、慎が見ているものがわかった。
ゴミ捨て場でもないところに、不釣り合いな段ボール。
中から茶色の生き物が鳴きもせず、足を止めてくれた人間を、大人しく見上げていた。
(捨て犬……)
『拾って下さい』とは書いていないが、そういうことだろう。




