Rem:7 光
春から夏に代わる季節。少し暑い日に、慎は光の前に現れた。
朝の会と呼ばれるいわゆるホームルームの時間に、慎は教卓の横に立たされた。
「今日からこのクラスに入る、皆のお友達。瀬谷慎くんです。お父さんの転勤で、お引っ越しをしてきたそうです」
担任の女の先生は目の悪い子にも見えるように、『せやまこと』と、平仮名で大きく黒板に文字を書いた。
「じゃあ瀬谷くん、いきなりだけど、皆に自己紹介をしてもらえるかな?」
「……せ、瀬谷慎です」
一度転入生に対するたくさんの好奇心の眼差しを見、担任の顔を見上げて彼女がにっこり笑うと、少し間を置いて慎は口を開いた。
しかし、一言で終わり。
時計の秒針が二周しても、慎は何も言わずに立っていた。
まさかそれだけ?そんな雰囲気が漂い始めたとき、担任が声をかけた。
「好きなことは何かな?」
「……本を読むこと」
「好きな本はある?」
慎は頷いて答え、うーん、と担任が呟いてからもう一回声がかかる。
「好きな教科は何かな?」
「……国語。あと図書の時間」
答えると担任は頷いて微笑み、窓側の一番後ろの席を示した。
「瀬谷くんの席は、あそこね。目が悪いとかはないかな?」
質問に頭を振って答えたら、
「じゃあ席に着いてね」
と促され、慎はようやく席に落ち着くことが出来た。
光は机に頬杖をついて、何気なく慎の姿を目で追った。
話す間ニコリとも笑わず、また声もやや小さかった彼を、
(変な奴。女みたいだし)
と思った。
クラスメイトが増えて、最初の休み時間。
やはり子どもながらの好奇心で、数人が慎の周りに集まって、何やら質問をしていた。
光は慎を嫌いではなかったが何となく話し掛ける気にはならず、中休みにはいつもサッカーをしているメンバーと、外に出ていった。
クラスで作る班も給食などの当番でも、二人が一緒になることはない。
まだ話したこともないまま夏休みに入り、それも無事に終わった。
二学期に入り、後に慎と光を結ぶきっかけになる出来事が起こった。
今日は始業式だ。まだ授業はない。式が終わり、残った時間に先生が言った。
「じゃあ、係りと委員会決めをしましょう」
係りはクラス内の仕事。掃除当番や日直、給食当番は皆公平にローテーションをするので、それ以外。
例えば、クラス委員や落とし物チェック、実験準備や宿題を集める仕事だ。
委員会は学校全体で、四・五・六年生が自分たちに可能な範囲で、学校運営に取り組むものだ。
その委員会で、光はなりたい委員があった。それは、飼育委員だ。
その名の通り、学校で飼育している動物の世話を任される。
小屋の掃除や餌やりの当番をほぼ年中無休、交代で行う。
その代わりに、当番の日に見つけた鶏の卵の持ち帰りや、産まれたばかりの動物を優先で触れる特権があるため、競争率は高い。
とは言え、男子には女子ほどの人気はなかったし、元々じゃんけんにも強いので、あっさり委員の座を獲得できた。
光は、女子が先生とじゃんけん勝負をしているのを見ていた。
好きな女の子がいた。その子が飼育委員を希望している話を聞き、だからこの座を狙ったのだ。
ところが、なかなかそううまくは行かないもの。勝負に負けた彼女は、園芸委員になってしまった。
がっかりにも程がある。




