最後の恋 40
僕達がハンバーガーを敷きつつ美春は最初に切り込んだ。
「じゃあ、お話をしようか。何から話す?まず、受ける大学からお話ししましょうか?私から話すけど、私の第一志望は法政大学だよ。私が狙えそうなところでやるとしたらそこがいいなって思ってる、学部が多いのも魅力的だしね」
その美春の話に僕達はぬか漬けされた野菜のようにじっくり考え込む。
「法政か……………。僕には無理だな、そんな偏差値の高い所…………。美春は法政のどこの学部を受けるつもりだ?」
「確かに、どこの学部を受けるつもりなの?美春。ここで結構勉強する質が出てしまうから、重要な場所よ。どの学部を受けるの?」
それに美春は玉虫色の表情をしていった。
「う〜ん、そんなに考えていないな。ただ、政治系の所に関わり合いたいから政治学部か、社会学部を狙ってる、かな?あんまり深く考えていないよ」
それにキャサリンはすっと前のみになろうとしたが、しかしそれをやめた。
「まあ、理系ならともかく、文系を狙っているならそんなに学部の差はないか。私は岡山大学か桃花大学を狙ってる。私の家は岡山市通わないとだめだといわれてるから、私は特に岡山大学の経済学部を狙っているわ。ただ、結構私の学力でもきつめだけどね」
「ふ〜ん、確かにそれは難しいな。でも、なんで経済学部?将来はエコノミストになるつもりなのか?」
そう僕が小石を池にひょいと投げるようにいったら、キャサリンは馬のように力強い口調で言った。
「いいえ、そこまで考えてないけど、将来は仕事を優先的に考えているわ。エコノミストになるか独立するか、それともどこかの会社に勤めるかわからないけど、キャリアアップを中心に考えているわ」
「なるほどね。将来は仕事優先に考えているか。これについてどう思うみんな?僕は別にそんなことは考えていないけど、できるだけ哲学や政治の分野に関わっていきたいな、と思ってるけど、みんなは仕事を優先してキャリアアップをしようと思うか?」
僕の言葉にみんなはこんにゃくの煙を出した。そのうちの美春が言う。
「う〜ん、私、私はできれば将来は仕事したくないな〜。結婚したい」
「俺はなにも考えていない。仏教系の学者に興味はあるが、そこまで固まっていない」
僕とキャサリンは目を見合わせる。どっちから、いうか、それを決めていたのだが、キャサリンが言いたそうだったのでバトンを渡した。
「まあ、光の話はわかるわ。そんなに将来が決まらないというのは私にも理解できるから。しかし、美春。あなたの話しは何なの?仕事よりも結婚を優先に考えてるの?と言うか仕事したくないの?」
そのハリネズミが体を攻撃的に寄せてくるのに、美春はますます縮こまった。
「やだー、そんなに怖そうな顔でいわないでよ、リンちゃん。うん、私はあんまり仕事を、正社員になりたくないかな。だって、きつそうだし、成果主義だよ!そんなきつめのところで仕事をしたくないよ!適当に勤めて寿退社したいな、私は」
それに僕が仕方なく言う。
「でも、それは結構きつい道だよ、美春。その前に美春は結婚して、そのまま専業主婦になるのか、パートとかするのか、どっちをしたい?」
それに美春は手裏剣が高速で投げられたようにさりげなく瞬時に話した。
「それはパートがいいな。やっぱりじっと家にいたら逆につかれてしまうもんね!でも婿さんは正社員でばりばりに働いてくれる人が良いな。それで私がその人の面倒を見るの。どう!?この完璧な乙女ロード!我ながら恐ろしいまでの完全無欠の乙女シナリオだわ!」
それに僕はカエルが田んぼとは逆方向の泥をぴょんぴょん跳ねている所を見るように美春を見た。
「ちょっと、いろいろ言いたいことがある。まず、美春。夢を見るのは自由だが、現実に何かをしようと思ったら夢を抱いても良いが、それがどれだけ実現可能か?と言うことも考えないといけない。まず、寿退社といったけど、そのために法政大学に行くのは言い判断だ。収入が多い男性には大企業に就職するのが手っ取り早いから、その判断はいい。
だが、その大企業に大変だし、中堅ぐらいではもう解雇されることがない人を見つけることが難しい。今は不況だし、どの社員も給料が下がっているし、どう考えてもよほどのエリートじゃない限り解雇をされやすいからな。
やっぱり解雇されない前提で話すと大企業に就職するのが良いだろう。その大企業に就職することも大変だけど、そこから一握りのエリート社員の心を掴むのももっと大変だし、女子はみんなその人達は狙っているからな。つまり二重、受験を含めると3重の困難があるが、それに勝てる自信はあるか?美春」
そう僕が言ったら鳩が豆鉄砲を食らって魂が抜けたような顔を美春がした。どうやらなにも考えていなかったようだ。
「は!やばいやばい、ソウル○サエ○ィにもうちょっとで行く所だった!えーとなんだっけ、一樹の言う競争に勝てるか?だったよね?私は、わ〜た〜し〜は〜……………………大丈夫、かな?きっと大丈夫だと思うよ。どんな女子にだって勝てる気がするし、多分法政から出れば大企業に就職できる、かな?よね?きっと。だから、大丈夫!」
その美春の言葉に僕達は蛇の目で美春を見た。僕達がそう見ていることに全く美春は気づかず大丈夫、大丈夫と呪文のように唱えていた。
一つ、呆れ(あきれ)の濃度が色濃く混ざり合ったため息をキャサリンがして、僕と光の方を向いていった。
「大丈夫とは思わないけど、一つ証拠を出しましょうか。一樹、光。美春って異性から見て魅力的な子だと思う?」
それに間髪入れずにハンミョウがかける。
「いや、全く異性的魅力を感じない」
「うん、そうだね。女の子とは思えないよ」
「のっほおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
僕達が発車された徹甲弾に美春車は完全に破壊された。
ように見えたが、そこからがっ!がっ!と崖から這い上がってきた。
「ちょっと!一樹!どういうことよ!この私に異性的な魅力を感じないなんて!あまりのかわいさに胸きゅんしていつもどぎまぎしてんじゃないの!?そして、その胸に密かな想いを秘めてるわけだよ。「今日の美春は素敵だな」っていう!そんなことを考えてるんじゃないの!?
は!そんなこと一樹は考えているんだ。ごめんね、一樹。私ちっとも気づかなくて。やっぱり私って鈍いね。ごめん、この鈍さをこれから何とかするわ。でも、やっぱりあなたの気持ちには答えられない。友達から一気に恋人になるなんて今の私たちには考えられないよ。だから一樹、私たちは…………………」
「ちょ!ちょっと待って!なんだ、その話しは?」
どこまでもとどまることを知らない暴走列車に僕は止まれの敬礼を出した。暴走列車は何事も知らない赤子のような無垢な疑問を浮かべていう。
「え?何て?そりゃあ決まってるよ。一樹が私に恋をしてるって話しだよ」
「……………………そんな話にいつなった?それはお前が勝手に暴走した結果なったんだろうが」
「………………あれ?そうだっけ?」
どこまでも暴走している美春号にキャサリンと光は地上の人間達の所行を冷ややかに見ているアオサギのような表情をして、無関心なしらけた白い沈黙をした。
そういう気持ちはわかるがこれは現実なんだ二人とも。一応友達だからこれからも温かい気持ちで美春を応援しようじゃないか。友達なんだし。
その白い茶番に、コホンとキャサリンが咳をしたあといった。
「まあ、ともかく、話を戻すと美春が専業主婦になる=エリートの男子を捕まえるということ=女子達との競争を勝ち残ること=美春は魅力的な女子である、と言うことの証明は二人の男子から明確に否定されたわね。その道をとることはもうやめた方がいいと思うわ、美春。あなたでは無理だわ」
そのキャサリンの言葉に美春は眼をぱちくりさせた。
「へ?そうかな?」
「そうだよ!」
僕も思いっきりキャサリンの言葉に同意をしたら美春はすねたように唇を尖らせた。
キャサリンは十分人の意見の渦に巻き込まれている美春をそれ以上追跡せずに僕のほうへ照準を合わせた。
「一樹は将来は仕事を中心に考えている?それとも何かやりたいことがある?」
「………………いや、無い。今のところは全く考えていない。今の日本でもっと共同体の再構築に興味はあるが、それで一生ボランティアを続けるって覚悟はないし、仕事もあんまし美春と同じでやりたくないし、なにも考えていないな。
ただ、結婚をしたいという願望があるから正社員にはなろうかな、と思ってる。しかし、あまり仕事はしたくないな。楽な仕事をしたいということじゃなくて仕事があまり想像がわかないから正直言ってしたくないというのが気持ちとしてあるし、共同体の再構築も具体的に何をやればいいのかさっぱりわからないので宙ぶらりんなままだ」
「ふ〜ん」
それにキャサリンは校内で重要なことを陳腐であり大袈裟に宣伝する張りぼてのポスターを見つけた人のように肯いた。
ちりっ。
そのキャサリンの乾いた無関心の相づちに僕の心のほんのわずかに、しかし確実に一部が一瞬あぶられた。その火は決して心地いいものではなかった。
しかし、僕の心を知らない故何気なく光が言葉をフォローする。
「まあ、キャサリン。高校生になってそんなに夢が確実に思い描けないものだろ。俺も仏教系の研究に興味を持っているといったが、俺自身もそんなにハッキリ未来の道の進路を確定できてるわけではない。
普通に働いてもいいと思ってるし、そこら辺はかなりあやふやなんだ。それで一樹に、高校生にそこまで確たる進路を決めさせるのがおかしいだろう。だから一樹が言ったことはあまりに当然なことだ」
「確かに、そもそもキャサリンが今の段階で夢が確定しているということはおかしいだろう。むしろどうしてそんな夢を今になってみれる?
僕には高校生の段階で自分の進路を決めている人を見て奇異に思えてならない。何故、そこまで自分の夢を具体的に見れる?そこの所を教えてくれよ、キャサリン」
その僕の言葉に白い体内が青白い月の光で、青く、白く自身の体内を一つの音のノイズのように体内の中を変え、動き回っていたが、やがてその口を開いた。
「確かに、それはおかしいことかも知れないわね。一般常識からいっておかしいということは私も認める。でも、私は早く社会を出て自分の身一つで社会がどういう物か体験したいの。自分がどれだけやれるか挑戦してみたいのよ。その一つの手段で仕事というのが思いついたわけ。
一樹達は私は具体的な夢が見れているといっていたけど、とんでもない。私はまだ、どんな仕事をしたいか全く決めていないわ。外資系の会社、とりわけ接客ではなくて自身のインテリジェンスが問われる会社に就職したいな、と思うけど、まだ具体的なことはこれからだし、どんな職種を選ぶか何てまだまだ決まっていないわ。
だから、一樹の言うように私は具体的に夢を見れているわけではないわ。そこのこところをいっておく」
そのキャサリンの言葉に僕らは理解の沈黙を出した。キャサリンも自分の道をそんなに確実に見えてるわけではないことに納得し、しかし、どこかまだしこりのように納得できない場所もあった。それはどこかというわけではないが、自分があまりそういうのには見えてるわけではないのに、キャサリンはおぼろげながら見えていて、しかもそれを自分が進むべき道というのを心得ていることになんとなく承伏できない箇所だった。
しかし、それはキャサリン自身の問題ではなかったので、僕は次に話を進めた。
「じゃあ、次は光。自分の志望校をいってくれ。光ならどこでもうけれそうだけど、何か目標はあるか?」
それに光は刀のように研ぎすまされ、それ自身が独特の美の様式である自信を出しながらいう。
光は学年で一番の成績をほこり、しかも全国でも通用する学力だったはず。そんな自信にあふれた表情をするのは当然なことだ。
そう僕は思ったが、しかし次の光の言葉には驚かされた。
「俺は東大か、京大を目指そうと思っている。どっちかといえば京大が第一志望だが、東大に入ってもいいと思っているんだ」
「東大!?京大!!!!!?」
気化爆弾の言葉に僕達は吹き飛ばされもみくちゃにされながら落下した。当の爆弾発言をした当人はそんなことを全く気にせずにいう。
「ああ、そうだが、何か問題はあるか?俺の学力なら何とかいけそうなのだが…………………」
「問題があるとかじゃないよ!」
光のクールな言葉に、しかしそんなにクールになりきれないイタチが興奮して猛然と光を見つめ言ってくる。
「そんなの問題もなにも、大歓迎だよ!光!やだ!こんな身近な所に金の卵があったじゃない!もう!私のバカバカ!ここで光に接近すれば私の夢が叶うかも知れないじゃない!よ〜し、美春やるのよ。あなたならきっとできる!……………………おーほっほっほ、ごめん遊ばせて、今宵もよい月夜ですね、光さん。私もこの季節になると憂愁のコオロギが鳴いて寂しくありますわ。あなたはいかがですか?光さん」
「お前は誰だ?」
優雅さを装うとしてかなり怪しい人になった美春を光はばっさり切った。うん、そうだな。誰だってそうするし、今やっても逆効果だよ、美春。
ばっさり切られた美春は陰気そうに下を向いて口からヤスデの行進を吹きだしていた。
「何よ、そんなにばっさり切らなくても良いでしょう。ここは幼なじみのよしみでちゃんと答えてくれても良いじゃない。私って今だめだったのかしら?男子に印象が残るアピールの仕方ってなんだっけ?う〜んすっかり忘れちゃったよ。最近はこっちから仕掛けたことはなかったしな〜。いや!これからが本番よ。これから4月までアピールしまくって私の夢を実現するのよ!」
ぶつぶつ言ってる美春を無視して僕は話を切り出した。
「そろそろお開きにするか?いろいろ話したし、まだ勉強が残っているからな。あんまりだべっているばかりというのもなんだし、キャサリンは晩ご飯を食べていないからそろそろ解散と言うことにしよう」
まだ、ぶつぶつ言ってる美春を置いといて光たちも肯いた。
「ああ、そうだな。そうするか。受験はこれからが勝負だし、さっさと解散することも良いだろう」
「ええ、そうよね。私自身もおなかがすいたし、さっさと帰りたいわ。是非、そうしましょう」
みんなが、そう納得してくれたそうだし、僕はこう宣言をした。
「じゃ、解散。また、勉強会を持とうな。あと、美春もう話は終わったから、いい加減戻ってこい」
「へ!?」
ぶつぶつ言うのをストップした美春は急いで顔を上げた。だが、その前に僕らはさっさと席を立っていたが。
美春は食物が見つけられないリスのように困惑した表情で言う。
「待って!待ってよ!みんな!………………あ〜ん!まだポテトが残ってる〜!!………………でも!みんなにおいて行かれるしー!!!!みんな!せめて一樹だけでも残ってー!!!!!!」
そんな黄色い悲鳴が光りの楼閣に消えた秋の日だった。




