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マイ フィロソフィ3   作者: 名草宗一郎
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最後の恋 4

 それに美春は純粋に僕が知らないことに対する驚き(おどろき)の表情をした。

「うん、そうだよ。知らないの?一樹。彼女結構、学校の中じゃあ有名人なんだよ。東堂院香澄(かすみ)。父親はどこかの大企業の幹部で、母親は専業主婦。勉強もできて、スポーツも万能。しかもヴァイオリンまで弾けるって言う、あり得ないくらいスペックが高い美少女なんだから、香澄(かすみ)ちゃんは!もちろん、学年で一番男子に人気があるのは香澄(かすみ)ちゃんだよ!それを知らないの?一樹?」

「ああ。まあ、去年はいろいろあったから」

 確かにそうだった。一年の時はそもそも学校に居続けることが苦痛だったし、それを目的としていた。去年はいじめの問題があって、それを集中的にこなしていた。まったくそういうことを気にする余裕なんてまるでなかったのだ。


「なるほどね。まあ、ともかく、そろそろ授業もあるし、もどろっか、美春」

 そう言って校舎に足を向けたとたん。美春は先回りするように僕の前に来て体を前へ傾けた。

「あ!だめなんだよ、一樹!そう言って逃げ寄ってしてもムダだよ!ちゃんとあ・ら・い・ざ・ら・い吐いてもらうんだから。逃げてもムダなん…………きゃ!」

 そう美春が言ったときにある影に美春はぶつかった。美春もその影もよろめき、そして向かい合ったときに二人とも声を上げた。

「美春」

「浩二」

 それは美春の恋人の佐藤浩二くんだった。浩二くんはその長身で髪を短髪に逆さにさせている美少年。その男子が、美春に物を雑に扱うようにつっけどんなひょうじょうで言った。

「お前、ここでなにしてんの?なんかおもしろいことがあったわけ?」


 美春はさっと夕立(ゆうだち)がすぐにでも降りそうな雲の青さに表情を自然に染め上げた。

「……………別に、なんにもないよ。さ、いこ、一樹。そろそろ授業が始まっちゃう」

 そして、美春は僕の長袖を掴んで(つかんで)引っ張るように離れようとしたが、それに佐藤くんは一言浴びせてくる。

「ここでなんかあったか知らないけど。でもさ、例のこと考えてくれたかな?俺、そろそろ限界なんだけど、そんなに焦らされるととこっちがいらいらしてくる。さっさとさせてくれよ」


 その佐藤くんの言葉に、美春はくるりと振り向いて、青の状態を脱いで鉄仮面の白で立ち向かった。

「それは、ちょっと悪かったって思ってる。だけど、もう少しだけ待って?もうちょっとだけ時間をちょうだい。もうちょっと、もうちょっとでできると思うようになるから」

 美春はどこか荒く削られた(けずられた)材木のような佐藤くんに、真剣に下で出て謝った。

 それに佐藤くんは荒々しく、どこか幼稚さを感じさせる口調で鼻から息を吐いた。

「それはいいよ。こんなことは別に良いけど、しかしいつもつきあいが悪いってことがむかつくんだよ。なあ、俺たちって恋人同士だろ?なら、いい加減許してくれよ?あれもしてくれない、あれをしろ。こんなわがままを言う。ふざけんなよ。正直言ってやってられない。もうつきあえきれない」

「………………………」


 美春は険しい顔をしたまま彼を見つめて、そして、佐藤君は動きを最小限にさせたまま、しかしどこか乱暴な感じで彼は去っていった。

「美春」

 美春はその体に鉄の鎖が巻かれて、ずっしりと体を下に引っ張られて、重圧の体に見えた。

「大丈夫か?」

 僕は綿のような柔らかさで美春に行った。美春は少し重さを感じさせているように見えたが、すぐにハムスターのように機敏(きびん)に振り向いて、明るいひまわりの花を咲かせた。


「一樹?私は大丈夫い!でも、一樹の場合はそうはいかないんだからね!すっかり洗いざらいはいてもらうんだから!ふふふ、ああ楽しみだなぁ。一樹のレ・ン・ア・イかん。どんな青臭い言葉を言ってくれるのかしら?もう!楽しみで仕方ないわ!」

 美春はウィンクをしていったあと、下卑た笑いだけの毒を口から出して、最後に爆発した。

「……………………」

 

美春は黄色いショッピングモールの騒々(そうぞう)しさと、明るさで言ったが、僕は逆にそれが美春がきつさから回避するためにあえて振る舞ったのではないかと思った。

 さっきの場面で明らかに彼氏とうまくいってなかった。それがどの程度悪いのかよくわからないが、根はそんなに浅くないように見える。もちろんぱっと見ただけで主観性に寄るとことも多いし実はすぐに解決するかも知れないが、心の深い所ではこれは終わりだと告げている。

 美春と彼氏、佐藤君の関係の終了。


「そうだな。彼女との初めて見たときのことを語るか。こう言うのはみんなに話すと盛り上がるしな」

 僕は明るい声を出していった。それに美春はベテランドライバーが車に乗って、のっているように親指を突き出してグーグーをした。

「おお、のってるね。良いね、そのノリの良さ!ふふ、すぐに恥ずかしさの毛虫が全身を駆け巡ぐらせてあげるんだから、そのノリの良さが後悔を導いて(みちびい)も知らないんだからね!」

「はは、覚悟しとく」

 僕達はふざけ会いながら教室に向かった。中庭を通るときに2匹のチョウチョがなにも考えてないようにひらひらと舞っていった。



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