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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第一章
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残暑の日

 荒川の河川敷には、草野球が出来る広いグラウンドがある。


 9月の残暑とはいえ、まだ夏の強い日差しで肌がジリジリする。天気にも恵まれ、青空が気持ち良い。

 土曜日の昼間に、半日ほど借り切って野球大会が行われた。


 名目は、【代理店対抗野球大会】。営業部が主催する、代理店同士の交流会みたいなものだ。

 営業に関わる人は全員集合で、決められた仕事はないが、休日に駆り出された。総務部の人や、野球が得意だという、一部の技術部の人も助っ人として参加した。


 人見知りの私は、知らない人が多い中は苦手。同期の松井ちゃん、木村ちゃん、広野さんと一緒にいた。


 不思議と、私は昔から中年以降の男性に人気があった。若い人にはモテず、ずっと年上の男性ばかり。嬉しく無いわけではないが、少し微妙な気分ではある。


 木村ちゃんの課に、松木さんという40代後半くらいの男性がいる。労働組合の役員もやっている人。私の何処を気に入ったのか、「椎名ちゃん、椎名ちゃん」と、可愛がってくれていた。

 私の気持ちは、きっと松木さんにもバレていた。


 「井沢くん、写真撮るぞ!」


 そう言って、珍しくイベントに参加した井沢さんを呼びつけた。私のカメラを奪うと、2人をくっつけてシャッターを切る。


 井沢さんは、サッカーが好きな人だから、野球など何の興味もなさそうだけど、青空の下で楽しそうに皆と笑っている。


 彼の写真など1枚も持っていなかった私は、それはもう、本当に嬉しかった。フイルムを現像に出している時間が、もどかしくて待てないくらいに。


 今でも大切に飾っている写真が、1枚だけある。

 井沢さん、佐藤さん、松井ちゃん、広野さん、そして私。赤く焼けた顔で、皆が楽しそうに笑い、写っている。


 あの日のまま止まっている写真って、すごい。

 眺めているだけで、気持ちが戻ってしまう。


 気温が上がり、真夏のような日差しが降り注いでいた、あの日。


 あの頃の私は、文句なしに幸せだった。



 残暑の日から1ヶ月が経つ頃。営業本部が、そっくりそのまま階下に移動することになった。

 半年にも満たない短い間だったけれど、思い出が残るフロア。


 引越し当日は休日返上で、椅子や机を黙々と移動させていた。力仕事は男性で、掃除は女性。次々に運び出される荷物や什器を見送り、次第に物が無くなり寂しくなっていく場所を見つめた。

 そんな気持ちを振り払うように、移動先の2階フロアに下りて行く。


 何やら、壁に貼り紙がある。――座席表?

 「どれどれ…」と、自分の席位置を探す。


 (ええっ? 井沢さんと離れてる……! 振り向かないと、彼の姿が見られない!?)


 ――いや、ちょっと違う。

 振り向いたら、目の前には佐藤さんの背中が見え、彼の向かいが井沢さん。ということは、佐藤さんが邪魔だ。……なんてコトは、言ってはいけないか。


 これまでの3階フロアでは、鰻の寝床のような一列配置だったものが、今度はふたつのブロックに分かれた。私は残念ながら藤村課長が座るブロックになったが、課長とは一番離れた席。それだけでも、ラッキーか!?


 でもまあ、外出時に行き先を書くホワイトボードの目の前だから、視力が悪い私には楽だし、書類棚も近い。

 何かと便利になった。……ということにしておこう。


 そうして、また新しい毎日が始まった。

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