世界を越えし者とは
今回の話は前章で出てきたある言葉について詳しく説明します。まあタイトルを見た時点で察する人は察すると思います。
博麗神社
季節は夏、だが夏至を超えて段々と気温が下がっていく時期だが、この日は真夏の気温と変わらない暑さだった。
「「あ、暑い。」」
博麗神社の母屋の縁側で寝そべっている人が人いた。一人は団扇で顔を扇ぎ、一人は手で顔を扇いでいた。
「何で今日はこんなに暑いのよ。良夢、具合は悪くないかしら?」
「大丈夫ですぅ~、でも暑すぎてしんどいですよお母さん。」
団扇で顔を扇いでいるのが良夢、手で顔を扇いでいるのが霊夢。2人は暑さでぐったりとしていた。
「今日は真夏日を越える気温ですからね。水分はきちんと取ってくださいよ。」
境内の掃除をしている良太が霊夢と良夢に注意をするが、2人は良太の言葉を聞く余裕すらなかった。
「良太、この暑さをなんとかしなさいよ。」
「気温をどうこうするのは無理ですよ霊夢さん。俺だって暑いんです。」
霊夢の無茶振りに良太は呆れながら無茶振りを拒否して掃除を続ける。そうしている間に霊斗がスイカを持ちながら良太の方へ近付いてくる。
「あっ、霊斗さん。」
「お前ら、ちょっとこれから重要な話をするから母屋に入っててくれ。それとスイカを持ってきたから食ってていいぞ。」
霊斗は良太にスイカを渡し一瞬で何処かに消え、良太は掃除を止めて母屋へ向かっていく。
「霊夢さん、何やらこれからここで霊斗さんが重要な話をするそうです。シャキッとしてください。」
「ったく面倒ね、わかったわ。」
霊夢は渋々といった感じで起き上がり、良夢はいつの間にかスヤスヤと眠りに入っていた。
「霊夢さんは良夢を寝室に運んでください。枕元に氷水を置いてあげてくださいね。俺は貰ったスイカを切ってきます。」
「一人で食べるんじゃないわよ?」
「霊夢さんじゃないんですからそんなことしませんよ。」
この後、良太は霊夢から夢想封印を喰らったのは言うまでもない。
博麗神社 母屋
「さて、幻想郷の重要人物は大体そろったな。」
あのあと霊斗が幻想郷で重要な人物を集めてきた。メンバーとしてはレミリア、幽々子、紫、永琳、幽香、映姫、神奈子、さとり、白蓮、阿求の10人。もちろん霊夢と良太もメンバーとしている。
「聖人や健二とかは呼ばなくていいのかしら?」
「あいつらには別で俺から説明する。さて、これで全員だな。んじゃ重要な話を始めるぞ。」
霊斗はそう言い、いつの間にか自分の後ろに黒板を設置しており、そこに話の概要をチョークで書いていく。
「この黒板はどこから持ってきたのかしら?」
「俺が作った、あとで撤去する。」
紫の質問に霊斗はぶっきらぼうな感じで答え、概要を書き終えた霊斗は黒板の端側に移動する。
「重要な話ってのは『世界を越えし者』についてだ。まず、世界を越えし者について知っている人はいるか?」
「少なくとも私は聞いたことありません。」
霊斗の質問に映姫が最初に答え、周りの人もうんうんと頷いていた。
「まあ知らなくて当然だな。逆に知ってたら何処で知ったのか教えて欲しいくらいだ。」
「それで、名前から察するに規模の大きい話になりそうな気がするのだけれど?」
「察しがいいな紫、まず世界を越えし者とはなんなのかを説明するぞ。ちょっと長いからな。」
霊斗はスイカを食べながら質問してきた紫を見て少し驚いた後、背後の黒板に文字を書いていく。
「まず今から説明する世界っていうのは俺達がいるこの世界だけじゃなく、宇宙に無限に広がる世界全てをひっくるめて1世界という風に捉えてくれ。」
「つまり、並行世界等を全て含めて1世界という認識で宜しいんでしょうか?」
「まあそんな感じだな白蓮。で、その1世界の総合的な力で上回った人の事を『世界を越えし者』って呼ばれるんだ。」
そこまで説明し、霊斗は傍に置いてあった麦茶を一気に飲む。尚、霊斗達がいる部屋は窓を開けたり氷水等を置いたりして涼しくなるように工夫はしているが、それでも外より気温が高い。なので脱水症状が起きないよう皆の傍に麦茶を置いてある。
「いまいちしっくりこないわね。」
「まだ触りの部分にしか説明してないから質問はもう少し待てよレミリア。もう少し詳しく説明すると、俺達はこの世界無しには生きられないだろ?ここが何もない虚無の空間になったら生きることが出来ない。」
「何か世界に縛られてるみたいねぇ~、その表現。」
幽々子が餡蜜を紫から貰ったバニラアイスにかけながら呟く。
「鋭いな幽々子、つまり世界の中で生きるなら世界に縛られるって事だ。だが、もしその世界の縛りから解き放たれたならどうなる?」
「霊斗、もう少し具体的に話してくれ。抽象的過ぎていまいち理解できん。」
「わかったわかった、まあ何が言いたいのかと言うと俺達は鍛練とかすれば自然と強くなれるだろ?だけどある一定のラインまで到達すると成長がピタリと止まるんだ。」
「言うなれば世界から成長を押さえ付けられているって事だ。これ以上強くなってはいけないと言われてるみたいにな。」
霊斗が神奈子の質問に答えていると部屋の扉が開き、そこには人数分のかき氷を乗せているトレイを持った白がいた。
「遅くなって悪かったな霊斗、ちょいとかき氷の味付けに悩んでた。」
白は霊斗に説明しながら皆の前にかき氷の器を置く。
「説明を始めたばかりだから気にするなよ。それでその世界からの成長の抑制をある条件で振り切ると驚異的な膂力を発揮することが出来るんだ。」
「驚異的な膂力って、例えばどんなのがあるのかしら?」
「色々とあるが、0秒で動けたり、空間を飛び越えて攻撃出来たり、能力が形になったり、自分に対する害を無視出来たりかな。」
幽香の質問には白がかき氷を食べながら答える。だが白の答えに幽香は納得していない表情をしていた。
「説明の続きをするぞ?世界を超えた人にも様々な違いがあって、さっき言った事の全部を必ず身に付けるが、出来る範囲に差が出てくるぞ。」
「それに、抑制を振り切る為のある条件も人に依って全然違う。ある者は"大切な事を思い出して強い意志に変えた"事で世界を超え、ある者は"理不尽や不条理に対する怒りを力に変えた"事で世界超えたり、ある者は"ある人との愛を再認識した"事で世界を越えたりと、条件は色々あるな。」
「一つ質問なのですが、世界を越えるというのは生まれる前から越えてる人もいるのでしょうか?」
「それはないぜさとり。世界を越えし者は後天性だ。世界に生まれておきながら最初から世界を超えているなんて事は絶対にありえない。まあ、境界を越えれば話は別だけどな。」
そこまで白が説明すると皆の前にあったかき氷があった空の器が無くなり、いつの間にか新しいかき氷が入っている器が皆の前に置いてあった。
「白さん、やはり貴方も世界を越えていたんですね。」
「ちょっとどういうこと?白、あんた何したのよ?」
「皆がかき氷を食べ終わってたみたいだから、器を流し台まで持っていって別の器に乗せて保存していたかき氷を持って皆の前に置いただけだが霊夢?」
ちなみに白が今言った事は1秒経過する前に全て行っていたものである。白の動きが見れたのは霊斗と良太の二人だけだった。
「ちょっとどれ程の速さなのか皆に体験して貰いたくてな。ちなみにこれでもまだまだ遅い方だぜ。」
「遅いとはどういうことなのですか白さん?」
「世界を越えた者の出来る事は説明したよな映姫?だが世界を越えた者には強さの段階があるんだ。領域の差とでも言うか。」
白はそこまで言って黒板の空いているスペースに文字を書いていく。
「俺や霊斗が知っている限りだと9段階までだな。第1段階、到達者。第2段階、覇者。第3段階、踏破者。第4段階、掌握者。第5段階、極者。第6段階、核変者。第7段階、烈記者。第8段階、絶者。第9段階、断世者。」
「白や霊斗は何段階なのかしら?」
「俺はぶっちゃけるとわからん!!まあ少なく見積もっても第4段階以上だな。ちなみに良太がこの前の紅霧異変の時に新しく習得した『終末の超騎士』は第1段階、白は第2段階か?」
「いや第3段階だぜ霊斗。あと説明し忘れてたが、領域っていうのは強さを表す段位だと思ってくれ。段階が上がるほど強さも増していく、何故そういう名前なのかは長いから省かせてくれ。」
「白さん一ついいですか?世界を越えし者は誰もが条件さえ整えばなれるものなのでしょうか?」
良太はかき氷をかきこんで頭を押さえている霊夢の頭に氷が入った袋を乗せながら白に訊ねる。
「条件さえ整えばだけどな。まあその条件ってのが中々に厳しいからな、だから世界を越えし者についてはあまり知られていないんだ。」
「大体分かってきたわ。でも強さについての事をもう少し聞きたいわね。0秒移動はどの段階だとどのくらい出来るとか、ね。」
「はいはい、詳しく説明してやるよレミリア。まず『0秒移動』についてだが、時間の経過出来ない速さでの動作が可能になるんだよ。世界を超えるってのは時間の縛りからも解き放たれるという事だからな。」
つまり、現代の言葉を使うと世界を越えし者には相対性理論は通用しない。
「つまり、世界を超えたら皆0秒移動が出来るから速さに違いは無いということなのですか白さん?」
「それは違うぜ白蓮。『到達者』は0秒移動が出来るのは大体30秒程度なんだ。これは世界を越えし者達の体内時計が時を刻むから時間とは関係無く経過し、これを超過すると一旦0秒移動から抜け出すんだ。」
「その為、0秒移動中に打ち込める攻撃数にも限度が有り、『到達者』は億から兆までの数を打ち込めるということ。」
「続いて1段階上がって『覇者』だが、0秒移動が出来るのは3分程度だ。攻撃数は兆から10京までの数を打ち込めるぞ。『踏破者』以上の段階に関しては調査中だぞ。なあ霊斗?」
「そうだ、ちなみに移動時間とは違って、攻撃数に関しては0秒から抜け出す事は無いから継続して打ち込める。けど、段階が変わると致命的な速さの違いが0秒の中で生まれるから、これを対処するのが能力や仲間や自身の領域上昇だ。」
ちなみに最後の領域上昇に関してはかなり望みが薄いので、期待してはいけない。
「話が壮大過ぎて付いていけません。」
阿求は今までの説明をメモしていたが、頭から煙が吹き出していた。阿求には少し早すぎた話かもしれない。
「後で阿求に説明の内容を書いた紙を渡しておいてくれないかしら白と霊斗。それで、膂力に関しては世界を越えていない者は絶対に太刀打ち出来ないということかしら?」
「力やスピードや耐久力に関してはな紫。けど必ずしも世界を越えし者には勝てないという訳じゃねえぞ。膂力で負けてるならそれ以外の部分でどうにかすればいい、例えば能力とかでな。」
「次行くぞ?次は『空間飛躍』についてだな。まあ世界を越えた者は抑制、つまり壁を越えたから今の力を持つ。だから越えられない壁を越えることが出来る。例えば遠く離れた敵等に対して攻撃を全くの威力減衰無しで当てられたり、防御をすり抜けたりとかな。」
「何よそれ反則じゃない。」
今の説明を聞いてレミリアは口をへの字に曲げ、良太は何処か納得した表情をしていた。
「あと、結界や世界障壁も世界を越えた者だけだが飛び越える事が出来るぞ。例えば博麗大結界も容易に飛び越えられる。」
「うわぁ、想像したくないわ。紫、なんとかしなさいよ?」
「いや無理だからな霊夢?あとは領域が高段階の者は次元、過去や未来、果ては世界の外にも介入出来るようになるぞ。今度神界へ行ってみようかな。」
白の発言に霊斗以外の人はギョッとした表情で白を見る。何も知らない人が今の発言を聞いたら何言ってんだこいつ?みたいな雰囲気になるが。
「次に『能力が形になる』についてだが、これは人によってたくさんあるから省くぞ。」
「大雑把過ぎないかしら?例えば白の場合だとどうなるのかしら?」
永琳の質問を受けて白は少し考え込んでいた。
「俺は能力が進化して新たな技術を身に付けたな。じゃあ最後に『害悪無視』についてだな。これは『能力が形になる』時に出来る構築を元に自身の体質を形成するんだ。この耐性は体質だから奪われる事も失う事も無く、体が入れ替わってもその人の存在そのものであるから、遺憾無く効果が発揮されるんだ。」
「種類としては【操作系】【封印系】【事象系】【状態系】【干渉系】【物理系】【空想系】【特殊系】だな。これらを1つ~2つ世界を越えた者は身に付ける。高段階になると増えることもあるな。」
「ここまでが説明したかったことだ。何か質問あるか?あるなら手を上げてくれ。」
白の発言に良太、紫、神奈子が手を上げた。
「俺からいいですか?世界を越えし者には力に『遠慮』というのが働くみたいなんですが、これは何ですか?」
「世界を超えて力が上がる事で『遠慮』と言う力の抑制が掛かるんだ。ただこの力の抑制はその人の全力を抑えるモノでは無く、『殺さない程度の力』で済ませるものだけどな。無論、これでも殺す事は幾らでも可能だ。」
「この『遠慮』を無くすと力の抑制が外れ、『殺す力』を振るえるようになって、如何に手加減しても対象を殺せるような力を発揮出来るぞ。こんな説明でいいか良太?」
「『遠慮』についてはわかりました。あと段階によって『遠慮』を無くした際の力の幅というのは変わるんですか?」
良太の二つ目の質問を聞いた霊斗が黒板に文字を書いていき、その間に白は器を片付けていた。
「第2段階の『覇者』は遠慮を無くした到達者10人分、第3段階の『踏破者』は遠慮を無くした覇者20人分、第4段階の『掌握者』は遠慮を無くした踏破者35人分だな。これ以上の段階は調査中だ。」
「なるほど、わかりました。紫さん質問していいですよ。」
「この話をこのメンバーだけにしたって事はどういう意図があるのかしら?」
「宴会の時でも良かったんだが、世界を越えし者の事を変に捉える人がいるかもしれないからな。」
白の答えに紫は納得したらしく、笑みを浮かべた。
「最後に私だな。単純な興味なのだが、『到達者』が『覇者』並みの膂力を持つことはあるのか?」
「いい質問だぜ神奈子、例えば『到達者』が『覇者』並みかそれ以上のスピードを持つこともあるにはあるんだ。何事も例外というのは付き物だからな。無論、世界を越えし者にも当てはまるぜ。」
「まあ、あくまで今回の話は頭の片隅にでも入れといてくれ。良太以外な。」
この後、良太は白と霊斗から更に詳しい説明を実戦を交えて受けた。
この『世界を越えし者』の設定は発案者に使用の許可を得て使用しています。




