↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/16

第1話 召喚で出てきたモノ

薄暗くて寒い場所。


「返して」


大切なものを奪われた気がした。


「お願い!」


足音が聞こえる。


「それだけは!」


遠ざかる。


「返して!!」



――ハッ、と目が覚める。


「……夢?」


彼女は涙を流していた。


でも、こんな記憶はない。何の夢だったのか。


窓の外を見る。外はいつもの森。日はまだ見えないがぼんやりと明るくなり始めていた。



森の中に、小さな家があった。


人里からはかなり離れている。


森を抜けても、そこから広い草原を越えなければ街には辿り着かない。


好き好んでこんな場所に住む者は少ない。


魔女エリーセ・ナットヴィンドは、その少ない者の一人だった。


もっとも。

彼女がここに家を建てた理由は、単に人付き合いを避けるためだけではない。


家の地下には、古代の遺跡が眠っていた。


石造りの地下室。

壁面を埋め尽くす文字。

崩れた柱。


そして、その中央に残された巨大な魔法陣。


エリーセは長い時間をかけて、それを調べていた。


「……使い魔召喚」


魔女特有の青い目に古代の文字が映る。


古い石板を指先でなぞる。


ようやく術式の意味と起動方法が分かった。


術者に従う存在を呼び出す魔法。


召喚されるものについての記述はほとんど残っていない。


だからこそ期待した。


古代の魔法。

巨大な魔法陣。

膨大な魔力を要求する術式。


ならば呼び出されるものも、それに相応しい存在のはずだ。


竜。

幻獣。

あるいは、古代人に信仰されたイフリートやシルフィードなどの神獣に近い精霊。


エリーセは期待と、一抹の不安を感じる。


「始めましょう」

自分に言い聞かせるように呟き、杖を掲げた。


床の魔法陣が青く光る。


一本。

また一本。


刻まれた線を魔力が走っていく。


地下室全体が震え、


渦巻く魔力に魔女帽子がはためき長い黒髪が浮き上がる。


青白い光が渦を巻く。


エリーセは目を細めた。


魔力の奔流が魔法陣の中央へ集まり――。


光が弾けた。


「…………」


何かがいた。


青い。

丸い。

白い腹。

大きな口。

短いヒレ。


エリーセは杖を構えたまま固まった。


魔法陣の中央に立っていたのは。


――サメ。


いや…サメのぬいぐるみだった。


「…………え?」


ぬいぐるみがこちらを見る。


黒い丸い目。

丸みを帯びた申し訳程度に並んだペラペラの歯。

表情はない。


しばらく…エリーセとぬいぐるみは見つめ合った。


やがて、ぬいぐるみが両方のヒレを勢いよく動かした。


ぱたぱたぱたぱた。


「え……攻撃?」


さらに激しく動く。

ぱたぱたぱたぱた。


エリーセは一歩下がった。

「違うの?」


ぬいぐるみは止まった。

そして。

こくり。

頷いた。


「……私の言葉は分かる?」


こくり。


「あなた、話せる?」


首を傾げる。


「声は?」


首を傾げたまま。


エリーセも首を傾げた。

「……何なの、あなた」


ぬいぐるみは再び両ヒレを動かした。


それが何を意味しているのかは分からない。

ただ妙に嬉しそうにしている気はした。

もちろん、ぬいぐるみに表情などないのだから、気のせいかもしれない。


エリーセは杖を壁へ立て掛ける。

そして、しゃがんだ。


布。

縫い目。

中身は綿。


触れてみる。


普通のぬいぐるみと何も変わらない。


ただし自分で立ち。自分で動き。


こちらの言葉も、ある程度は理解している。


「強大な魔獣を期待していたのだけれど」


サメはヒレを動かした。


「あなたが使い魔なの?」


こくり。


エリーセは額に手を当てた。

「古代人の趣味って分からないわね……」


サメが片方のヒレを上げる。

挨拶しているようにも見える。


エリーセはしばらくそれを見ていた。


やがて、両脇へ手を入れる。


ひょい。

持ち上がった。

軽い。

当たり前だ。

中身は綿なのだから。


「……本当にぬいぐるみなのね」


抱きかかえてみる。

ふわふわしていた。

思ったより柔らかい。


サメは抵抗しない。


むしろ腕の中へ収まったまま、両ヒレを小さく動かしている。


「…………」

エリーセは少しだけ強く抱き締めた。


なぜそうしたのかは、自分でもよく分からなかった。


一人暮らしが長かったからか。

単に柔らかかったからか。

それとも。

昔から、こういう可愛いものが嫌いではなかったからか。


「まあ、いいわ」


エリーセはサメを抱いたまま階段へ向かった。


「研究は明日にしましょう」


サメが片方のヒレを振った。



その夜。


エリーセはベッドの上に座っていた。

目の前にはサメのぬいぐるみ。


「名前が必要ね」


サメが首を傾げる。


「使い魔一号」


首を傾げたまま。


「青いの」


変化なし。


「……サメ」


片方のヒレが上がった。


「サメちゃん」


両ヒレが動いた。

ぱたぱた。


「それでいいの?」


こくり。


エリーセは笑った。

「じゃあ、サメちゃん」


サメちゃん。

そう呼ぶと、また両ヒレが動いた。


エリーセは横になる。


少し考えてからサメちゃんを引き寄せた。


枕元ではなく腕の中へ。


「ぬいぐるみなんだから、こういう使い方でもいいでしょう?」


サメちゃんは抵抗しなかった。

エリーセは頬を柔らかな頭へ寄せる。


暖かくはない。

鼓動もない。

呼吸もしない。


それでも、いつもよりベッドが広く感じなかった。


「おやすみ、サメちゃん」


返事はない。

ただ、胸元でヒレが一度だけ動いた。

初めての執筆ですが、サメのぬいぐるみが好きなので、ただただ完走を目指したいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。