山賊は訝しむ
「ココ」
「はいはーい!」
シオンがココを呼び出す。元気よく飛び出すココ。インやエメと仲良くなり、すっかり元気になっているようだ。
そして、最終試験といわんばかりにシオンはココにこう命じた。山賊や盗賊の類が居ないか見て回ってくれと。
「もし、居た場合は?」
「その時はオレたちのところまで誘導してくれて構わないぞ。近くに賊が居たら安心して寝られないだろ? ああ、ただその場合は賊が居ることをオレたちにだけは予め伝えてくれよ」
「かしこまり!」
それだけを言い残して森の中に駆け込んでいくココ。そして考えるココ。コラリーにも無暗に突っ込むなと叩き込まれていた。自分ならどこをアジトにするだろうか。ココは考える。
アジトは全体を見渡せる山頂に陣取る。そう結論付けた。その場合、帝国を北上する場合でも南下する場合でも山を降りるまでに対応することが出来るのだ。賊は見通しの悪い山中で仕掛けたいはず。彼女はそう考えたのである。
山の中を先行して走るココ。といっても、彼女も体力がある方ではない。別に鍛えていたわけではないのだ。これは今後の課題である。
息を切らせて山頂へ登った。そしてゆっくりと全体を見渡す。時間は既に夕暮れ時だ。近くの大木に登って山から全体を俯瞰した。すると、ある一か所から煙があがっているのがわかる。
煙が立ち上る。つまり、何かを燃やしている。煮炊きしているということだ。それは人がいる証拠である。近寄って確かめるべきか。それともこの状況下でシオンに報告に行くべきか。悩むココ。
決断する。近寄って大体の人数を把握してからシオンに報告に戻ろうと。そしてたくさん褒めらてもらおうと。
いわば打算である。するすると木から降りたココはそのまま煙の方角に走っていく。そして案の定、賊に発見されてしまった。
それもそうだ。彼女が斥候として動き始めたのはたったの五日前からなのだから。これで狼煙を発見しただけでも斥候としては才能があると言えるだろう。
問題は、今をどうやって乗り切るかだ。見つかった以上、走って逃げることも出来たが、彼女はそれをしなかった。いや、出来なかったというのが正しい。何故ならば既に体力が底をついていたからだ。
「お前、見ねぇ顔だな。こんなとこでを何やってる?」
「あ、ああ。ちょっとお前たちの協力を得たくてやってきたんだ。オレに上手い話がある。乗らないか?」
ココは男のフリをして山賊の見張りに返答した。内心は心臓が飛び出るほど緊張しているココ。口八丁で乗り切ろうとしているのだ。
「上手い話だと? それはお前をひっ捕らえて奴隷として売り払うよりも良い話か?」
「もちろんだ。オレなんか売り払ったところで銀貨一枚にもならないだろ。それよりも何人いる?」
「二十人だが、それが何だってんだ?」
「よし。それならば何とかなるか。いいか、これからお貴族様がこの山を通って北上している。その幌馬車には荷がわんさかと積まれているそうだ。どうだ、一緒に襲わないか?」
訝しんだ目でココを見る山賊の見張り。見張りは人を呼び、今のココの話を仲間に話した。山賊の仲間もココを怪しんだ目で睨み付ける。
「おい、ちょっと誰か確認してこい。話はそれからだ」
一番下っ端であろう男がココの示した方向に駆けて行く。それまでココは待機だ。それから山賊たちに生い立ちを聞かれたので正直に告げる。孤児であり、今までは盗みを働いて生き抜いてきたと。
この山賊の誰も彼もが似たような境遇だ。ただ、山賊の頭目だけは違った。彼は元々は騎士だったのだが、家が没落し、仕方なく山賊に身を窶していた。なので、彼は貴族に対し、人一倍の恨みを持っている。
「おい、若いの。本当に貴族なのか?」
「間違いない。宝剣を持ってるのを見たんで。ありゃ、相当の金持ちですぜ」
三十半ば過ぎの屈強な頭目に話しかけられ、応対するココ。若干ノリノリである。知り過ぎていたら怪しまれるが、知らな過ぎても動いてくれない。この塩梅が難しいと思っていた。
「親方! 本当に幌馬車の一団がありやした! 貴族かどうかはわからねぇですが、周囲を十人ばかしの傭兵で固めてます! ありゃ、幌馬車に何か積んでありますぜ!」
戻ってきた下っ端が頭目に報告する。頭目は手を顎にしたに持っていき、ゆっくりと何度も顎を撫でた。どうするか考えているようだ。
「おい、お前はこの情報料として何が欲しいんだ?」
「分け前を貰えればそれで。言い値で結構ですぜ」
ココは下手に出る。彼女など、頭目の胸三寸でどうにでもなってしまうのだ。ならば、頭目に委ねてしまった方が良い。そう考えたのである。
「そうか。それは殊勝な心掛けだ。今後もそうやって生きて行けよ。考えといてやる。さて、じゃあ手早く襲って一杯やるとするか!」
どうやら襲うことを決めたようだ。そうと決まれば善は急げ。今夜に決行するという。雄叫びを上げる山賊たち。ココはこの声がシオンに届いていることを願うばかりであった。
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