夜陰に乗じて
一方そのころ、シオンはココの帰りが遅いことを不安視していた。考えられるのはココに何かトラブルがあったか、それともココが逃げ出したということ。
しかし、彼女には行く当てがない。だから逃げ出したとは考えにくいのだが、それでも嫌になったのだろうかと内心は大きく凹んでいたシオン。
そんな思いを抱きながら夜になる。野営の準備をするシオン。あえて火を使った料理を作った。もし、ココが迷子になっていたら合流できるように。
晩御飯は根菜や葉物の簡単な野菜のスープと黒パンだ。対するコラリーたちは周囲を警戒していた。山は見通しが悪い。いつ襲われるかわからないからだ。
「イン、エメ。お前たちは幌馬車から出るんじゃないぞ」
「はい」
「ん、わかった」
二人にスープを渡しながらそう伝えるシオン。山では何が起きるかわからない。それはシオンもこの世界で身をもって体験していた。死にそうな目にも合っているのだ。
そして襲うのならば深夜、いや明け方であると想定していた。明け方の利点は守備側が夜通しの見張りで疲弊していること、そして攻め手がある程度の明るさにより視界が確保できることがある。
「コラリー、オレは仮眠をとる。任せたぞ」
「あいあい」
シオンは馬車の下に潜り込んで眠る。経験上、ここが一番安全だったのだ。幌馬車の中は荷物が多く、シオンが眠る場所を確保できない。平らで安全なのは馬車の下のみだ。
そして仮眠をとる。愛刀を抱きかかえながら。
数時間後、夜がまだ耽っている時間にシオンは目を覚ます。馬車の下から這い出て空を見上げる。時間はおよそ深夜二時頃だろう。
傭兵の半数が眠っていた。もし、山賊にこの姿を見られていたら今襲われるだろうな。シオンは溜息を吐きながらそんなことを考え、周囲に目を配る。そして見つけた。ココの姿を。
どうやらシオンに見つけてもらえるよう、最大限の努力をしていたようである。しかし、彼女の傍にガラの悪い男の影を見ると全てを察するシオン。どうやら上手く山賊を誘き寄せてくれたようである。
「コラリー、起きろ」
「んんん? なんだい。ちょっと夜這いするにはちょっと遅いんじゃないかい。まあ、お金さえ払えば相手してあげても良いけど」
「そんな冗談を言ってる場合か。囲まれてるぞ」
シオンはバレないよう、コラリーに顔を近づけ、彼女の胸に手を当ててそう呟いた。これは山賊を騙すための策だ。コラリーに襲い掛かる振りをしたのだ。コラリーも周囲を伺う。
「ああ、確かに居そうだねぇ。アタシとしたことが迂闊だった」
「今からオレに襲われて抵抗する振りをして周囲の馬鹿どもを起こせ。奴らは今にも飛び掛かってくるぞ」
そう言うとコラリーはにやりと笑って金切り声を上げた。そしてシオンに平手打ちを食らわせた。全員が驚き目を覚ます。これには山賊たちも驚いただろう。
ワラワラと傭兵たちがシオンとコラリーのもとに集まってきた。シオンは頬を押さえている。何もここまでしろとはシオンも思っていなかった。
「お前たち、お客さんだ。ぬかるんじゃないよ」
集まってきた仲間に小さな声でそう指示する。それだけで彼らは事態を飲み込んだ。そして気づかれないよう、周囲を警戒する。流石はベルグリンデが鍛え上げた傭兵たちだ。
「何人いると思う?」
「二十人はいるんじゃないか?」
「一人で二人を相手するのか。骨が折れるねぇ」
「だから平地を行こうぜって言ったんだよ。おわっ!」
コラリーに突き飛ばされるシオン。これも演技だと思いたいとシオンは考えていた。この一連のやり取りに違和感を覚えたのは山賊の頭目であった。
何かがおかしい。それもそうだ。突然、傭兵たち全員が装備を整え、武器を手に取り始めたのだから。もちろん武器の手入れは傭兵として大事な仕事だ。しかし、全員が行うのはおかしい。そう思っていた。
そして今日の襲撃を止めようとする頭目。しかし、悲しいかな。彼らは山賊である。軍隊ではない。統率が取れていないのだ。
それに、山賊の頭目は手下を統制できずにいた。要するに、山賊の頭目を舐めている輩も混ざっているということだ。
制止の情報が全員に行き届く前に山賊の一部がシオンたちに襲い掛かってしまったのであった。
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