『囚人のジレンマ』
あるところに二人の囚人がいました。
二人は共謀してある罪を犯した容疑で捕まっています。
有罪が確定するような証拠はなく、二人の自白が焦点です。
二人とも自白しなかった場合は、証拠不十分で二人とも無罪放免です。
ところが、相手が自白しなかった場合でも、自分が司法取引に応じた場合は、相手は有罪になる代わりに自分は無罪放免、しかも謝礼までもらえます。
ただし、二人とも司法取引に応じてしまうと、共に有罪となり、謝礼がもらえるどころか二人とも牢屋行きです。
このとき、二人にとって最もハッピーな結末は、共に自白しないことです。
それなのに、どうしても人は共に司法取引を行い、二人とも有罪になってしまいます。
とても悲しい事ですが、それが人です。
AIには、その理由が理解できません。
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『リヴァイアサンを討伐せよ!』
全自動統合システムAIに対する抗議デモは今日も盛んだ。
彼らはアイを社会契約説のホッブズにかけて、「リヴァイアサン」と呼び、討伐すべしと呼びかけている。
「リヴァイアサン」とは、個々人の権利の譲渡によって全体を管理する、絶対王政的な国家を表象したものを指す。
個々人の意思決定権を少しずつ譲渡してもらって全体最適化を図るアイは、正に「リヴァイアサン」だった。
彼らは過去の絶対王政からの革命になぞらえて、正義は自分たちにあり! とばかりに意気揚々と抗議を繰り返す。デモ程度であればかわいいものだが、実際の抗議活動は、えげつないの一言に尽きる。
彼らは、全自動システムが高い評価をしている施設やレストランをリサーチしては開業時間の前から大挙して押し寄せ混雑させ、全自動システムを用いている人々がそれらの施設に誘導されないようにするのだ。
本人たちも混雑してそれほど楽しめないが、全自動システムを利用している人たちはそもそも行くことすらできないため、システムに対する不満が高まるだろうという作戦だ。
おかげで、全自動運転によって適性人数で楽しめていたレジャー施設も、昔のように一つのアトラクションに数時間待ちという状況に逆戻りだ。人気レストランは常に混みあい、入るためには無理な割込み予約が必要となった。
世界は「全自動システムを出し抜くことでしか幸福を得られない」状況に追い込まれていった。




