序章
魔王と戦う事を宿命付けられた者…勇者
しかしその実態は、マオウシステムという名の…人間の集団深層意識に作られたシステムだった。
マオウシステムを巡り様々な思惑が渦を巻く中、勇者は遂にマオウシステムの破壊を決意。
勇者は覇者へとクラスチェンジして、全ての人間と魔族に己の思いを告げ………
遂にはその存在を揺るがし、一矢報いる事となる。
…だが
その破壊までは叶わず、勇者はマオウシステムに敗れ去ってしまった。
そして…光りの海の中で、ナビゲーションシステムと名乗る存在に導かれる勇者。
マオウシステムを破壊するための手段として…
力を保持したまま再び冒険を始める「つよくてニューゲーム」を行う事となった。
●序章 ―つよくてニューゲーム―
―勇者の自室―
??「お兄ちゃん起きて、今日は村のお祭りの日だよ。競牛でぬいぐるみを取って来てくれるって約束でしょ?」
俺を呼ぶ声が聞こえる。
俺はその声に促されるまま体を起こす。
勇者「………」
??「やっと起きた…遅いよお兄ちゃん、何?また変な夢でも見てたの?」
勇者「あぁ…俺が勇者になって、エレナや色んな人達と一緒に冒険する夢を見た。それで……夢の最後にこんな事を考えるんだ『もしかしたら…この世界は誰かの見て
いる夢で、本当は俺なんて存在していないんじゃないのか』ってな」
??「何それ?変な夢…」
勇者「だろうな、自分でもそう思……………ん?」
??「どうしたの?」
勇者「いや待て、お前は誰だ?」
??「何言ってるの?自分の妹の事忘れちゃったの?ぷんぷん!」
勇者「いや、俺には妹なんて居な…はっ…………」
勇者「まさかお前…ナビゲーションシステムか!?」
??「よく気付いた、さすがは勇者。ただその名では長いので、ナビと省略して呼んで欲しい」
勇者「成る程………やはりあれは夢では無かったという事なんだな。前回と違って、頭の中にお前の声が響いて来なかった物だから、油断していた」
そう…前回は目覚めと共に勇者に覚醒し、こいつの声が聞こえるようになって…それで勇者になった事を理解したんだ
だが今回は、まさかの……
ナビ「ちなみに…勇者の見た夢は、夢であって夢では無い。前回の記憶を夢として勇者の記憶に刻み込んだ物」
勇者「成る程な…でもそれだと、結局前回の記憶は夢で…前回の世界は……」
ナビ「問題なのは、それが誰かの夢なのか否という事では無い。それが勇者の記憶であり、今の勇者が今の力で何をしたいかという事」
勇者「そうだな…違い無い。それで…ついでに聞いておきたいんだが、何でお前がこっち側に人間として存在してるんだ?しかも…俺の妹という立ち位置か?」
ナビ「正確には、義理の妹。勇者の両親に拾われて、勇者と共に育った謎の美少女…という設定にしてある」
勇者「…その設定はお前の趣味なのか?」
ナビ「その通り、肯定する」
開き直られた以上、これ以上突っ込むのは難しい。話を戻すとしよう
勇者「システム側の存在である筈のお前が、どうして人間としてこちら側に存在している?」
ナビ「マオウシステムと同様の方法で実体化が可能になったため」
勇者「質問を変えよう。こちら側に存在している動機は何だ?」
ナビ「その方が面白そうだったから」
勇者「……………」
あ、ダメだ。これは突っ込みきれない
ナビ「さて…つよくてニューゲームにより追加された要素の説明をして行こうと思う」
勇者「………頼む」
ナビ「ではまず、勇者自身が所持しているスキルの確認を行って欲しい。確認方法は、前回と同様に目を閉じて自分の内を探れば良い」
ナビに促された通り…前回と同じく、目を閉じてスキルを確認する俺。そしてそこで幾つかの事に気付く
勇者「覇者の叫びと軌跡描く奇跡が灰色になって使えないようだが…」
ナビ「そう…その二つのスキルは条件が揃わなければ使う事が出来ない仕様となっている」
軌跡描く奇跡はともかく、覇者の叫びは…マオウシステムを倒す上での必須スキルの筈
勇者「それはつまり………また、魔王であるノーブル様を倒してスキルを取得しなければいけないという事か?」
ナビ「それが最も確実な手段…としか言う事が出来ない」
確実…か、つまり、不確実でも良いなら他に手段があるという事だろう
取り敢えずその問題は先送りにして、次の質問に移ろう
勇者「次に、この『盟友の絆』というスキルの事を聞きたいんだが…」
ナビ「それが、つよくてニューゲームにより追加された要素の一つ」
勇者「どういう効果があるんだ?」
ナビ「勇者とパーティーを組んだメンバーに…勇者特性を与え、勇者のレベルに応じたステータス増加を行う自動発動スキル」
勇者「それってつまり…」
ナビ「今の勇者程では無いが…仲間が全員、ある程度のレベルの勇者と同様の力を持った状態になる」
勇者「それって、物凄く心強いんじゃないか?」
ナビ「当然。だがマオウシステムを相手にする以上は過信は禁物」
ナビはこう言っているが、俺としては過信をせざるを得ない
勇者「それで、次に…この、セーブとロードって言うのは何なんだ?スキルとはまた別枠みたいなんだが…」
ナビ「それは勇者の意思での使用が可能になったシステムの一部」
勇者「システムの一部?……それはつまり、物凄い物なんだよな。詳しく説明してくれ」
ナビ「概要としては、つよくてニューゲームの機能制限版と考えてもらって問題無い」
勇者「どう違うんだ?」
ナビ「まず、セーブを行う必要がある。実行して欲しい」
勇者「枠が三つあるな…とりあえずここの一番上にセーブして……」
その枠の中に『●序章 ―つよくてニューゲーム―』という文字が付いた
ナビ「では次にロードを実行して、そのセーブデータを選択する」
勇者「よし…」
.
.
目の前が一瞬だけ暗転して、また元の景色に戻った
ナビ「では次にロードを実行して、そのセーブデータを選択する」
さっきと同じ事を言っているが…もう一回同じ事をするのだろうか?
とりあえず俺は、ナビの促されるままロードを行った
.
.
目の前が一瞬だけ暗転して、また元の景色に戻った
ナビ「では次にロードを実行して、そのセーブデータを選択する」
勇者「いや、同じ事を一体何回やらせるんだ?」
ナビ「………状況把握。セーブのタイミングが悪く、ループを起こしていた物と推測。しかし、これで説明が容易になった」
勇者「…これは一体、どういう事だ?」
ナビ「勇者は私が同じ事を何度も言ったように感じたのだろうけれど、実際に私がその発言を行ったのは一回のみ」
勇者「……つまり?」
ナビ「セーブによって記録された時点に、ロードによって巻き戻った。その結果、何度も同じ言葉を聞き…何度もロードを行い…」
勇者「それの繰り返しになっていた…という事か」
ナビ「もし途中で状況に疑問を抱かなければ、勇者はそのまま永遠に繰り返していた可能性が…」
勇者「いや、さすがにそれは無い」
ナビ「ともかく…それによりセーブとロードの概要は理解して貰えたと推測する」
勇者「つまりこれは……時間の逆行と、遡るまでの基点を決める事が出来るって事か?」
ナビ「肯定する」
勇者「………これは…何と言うか………いや」
時間に干渉するスキルなんて滅茶苦茶も良い所だ。このスキルの使い道は幅が大きすぎて、逆に限定して使い所を選ぶ事すら出来ない
ナビ「ただし、このスキルを使う上での注意点が幾つか存在する」
勇者「説明を頼む」
ナビ「まず、ロードをした時点で持ち越す事ができるのは勇者の記憶のみ。所持金や所持品。レベルやスキルといった物は、セーブした時点の物に戻る」
勇者「そのくらいは仕方ないな…」
ナビ「次に、マオウシステム自体はこのセーブとロードの対象外。今回マオウシステムの干渉を直に受けた物も同様」
勇者「マオウシステムは巻き戻らない…という事か」
ナビ「肯定。それ故に、マオウシステムに関わる行動を起こす際のセーブとロードは慎重に行わねばならない」
マオウシステムに関わる事以外にも使う時があるような言い方だが…まぁ、そこはあえて流しておこう
勇者「下手をすれば袋小路に迷い込む、諸刃の剣…という訳か」
ナビ「そう……そして、以上で今回追加された要素の説明を終了する。あ、後…私が実体化した事で何かしらの不具合が起きているかも知れない」
勇者「いや、最後の最後に取って付けたように言うな」
●第一章 ―新たな冒険のやり直し― に続く