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其の拾弐

 青一からの提案で、試合場を庭に指定した二十分ほど後。準備の終了を告げた使用人の後にぞろぞろと続いて、庭に造られた簡易試合場まで歩く。赤人と玄の二人だけは、もう一人の使用人にどこかへ連れられて行った。

 正面玄関を出て、建物に沿うように少し歩けば、結界に囲まれただけの簡易試合場が見えてくる。大きさは、いつか二人が模擬線を行った第五実習室よりも少し大きいくらいか。

「準備は完了しております。治癒術使も二人待機済みです」

「わかった。下がっていい」

藍紫の一言で、一礼して去っていく。

「それでは、試合を行うお二方の準備が終わるまで、しばし待機といたしましょう」

結界の検分をしていた青一が振り返り、そんな事を言う。

 反論があろうはずもなく、紫乃はただ黙って中空を見つめた。


 準備を終えた二人が使用人に連れられてやってきたのは、十分ほど後の事だった。気を利かせた使用人が運んできた折畳み椅子に腰掛け、その姿を見やる。

 玄は、今朝着ていた服装。赤人は、道場に用意されている替えのジャージ姿だった。互いに、自らの得物を携えている。

「用意は、整っていますか?」

青一の問いに頷いたのは、赤人だ。

「ええ。いつでも大丈夫です」

その半歩後ろで、玄は申し訳なさそうに微笑んだ。

「申し訳ありません、少々お時間を頂きます」

言うが早いか、踵を返して紫乃たちの方へ向かってくる。

 その時点で、紫乃はその意図を察し、立ち上がっていた。

「ミストレス、戦闘許可を」

大げさに跪き、頭を垂れてみせる玄。その後頭部を見下ろしながら、紫乃は感情を廃した声で告げた。

「許可します。規則に則り、正々堂々と戦いなさい」

「感謝いたします」

立ち上がった玄は、振り返り際、少しだけ唇の端を吊り上げてみせた。


 結界の内部で、五メートルほどの間を空けて相対した二人の丁度真ん中に辺りに青一が立つ。とはいえ安全を確保するために結界の外だが。

「これより、五条赤人と神木玄の試合を開始する」

敬称も敬語も廃したのは、自らが公正な審判であるとの意思表示か。

「試合規則は全日本総合戦闘術協会が定めるものに準拠するものとする。致命傷、及び四肢を切断するような攻撃は特に禁止とし、その兆しが見られた場合即時中止、行った者は敗北とする。また、この試合は真剣試合である。その点、留意するように」

『真剣試合』とは、普段携行している武器と同じ、実際に刃のついた武器を用いて行う試合の事だ。当然の如く訓練用武器で行う『演習試合』とは危険度が桁違いであり、下手な行動は死に直結する。

 それ故ではないだろうが、二人の顔は真剣そのものだ。玄ですら、笑みを消している。

「その他、質問があれば述べるように」

「ありません」

「ありません」

同期した二人の声が、結界の中から響く。

「神木玄。手加減は無用だ。全力で来い」

「ええ。もちろんそのつもりです」

「抜刀!」

声に合わせ、玄は左腰の刀を、赤人は背負った戦斧を、それぞれ引き抜く。

「構え!」

青一が、右手をピンと伸ばして掲げる。

「力を貸して」

そんな呟きが、聞こえた気がした。

結界の中で、赤い靄が広がる。一拍遅れ、それを掻き消すような闇が渦巻いた。

 視界の端で、五条家当主夫妻が身を乗り出すのがわかる。赤人が活性化した時点で自慢げだった分、衝撃も大きいのだろう。それに比べて、その圧力を正面から受け止めて踏み止った赤人は勇敢だとも言える。例えその勇気が、蛮勇と呼ばれる部類だとしても。

 青一が右手を振り下ろす。

「始め!」

「『雷装呪』ッ!」

「『具現武装呪』」

二つの声が重なって響く。赤人の戦斧が黄色に染まり、玄の刀が黒色に飲み込まれた。


 正面で相対する赤人が、地を蹴る。振り上げられた戦斧の軌道を確認しながら、腰を落とした。武装呪が完了した瞬間、赤人の姿は目の前に。

 予測と違わず振り下ろされた戦斧を受け止める。ギリギリとせめぎ合う刃同士の向こう側、赤人と視線が交錯した。

 引き戻された戦斧に追随して鎌を振る。今度は赤人が防ぐ。それ以上押し込む事はせず、一旦間合いの外へ飛び退る。

「『雷弾呪』!」

「『黄泉送り』」

飛来した雷の弾を、鎌で薙ぐ。赤く広がる靄を突き抜け、鎌を振りかぶった。

 金属音が響き、両腕に衝撃が走る。ぶれた体勢を見逃さず、飛来する刃。右、右、左。迫る白刃を掻い潜る。大きく薙ぎ払う。それを避けて飛び退った赤人を深追いせず、左手を突き出す。玄の使う特殊魔法は掌を起点とするものは何もなく、魔術陣も展開されない。だが、それでも余裕があるのならば照準は正確にしておいて損はない。

「『魂狩』」

玄の足元に伸びる影から、刃が三本飛び出した。

「『閃光結界呪』ッ!」

目を剥いた赤人が、左手を伸ばす。衝撃音が響くそこに突っ込むようにして、地を蹴った。

 足元から刃が生まれては結界に突き刺さって消えていく。その中を、鎌を掲げて疾駆する。目まぐるしく足元から突進していく刃を視界の端で捕らえながら、二メートルほどを瞬時に踏破。結界にとどめを刺す。

 結界が破れた衝撃でのけぞった赤人の胸を右の掌底で叩く。痛撃に怯んだ体を蹴り飛ばす。後は、簡単だ。

「『魂狩』」

闇色の刃が宙を疾駆する。吹き飛んだ先で何とか立ち上がった赤人の喉元へ肉薄するそれを、残り数センチでぴたりと止めた。

「勝負あり!」

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