其の拾肆
同時に話し出した二人の言葉は当然ながらまったく噛み合っておらず、紫乃と宏緑は頭上にクエスチョンマークを浮かべた。
「十塚様、先に」
「ああ、そうさせてもらう。今回の襲撃、『グローリア』の犯行だ。ほらそこ、黒地に金の線が入ったリストバンドをしているだろう? それはグローリアの構成員がつけている目印のようなものだ」
確かに、転がっている死体のどれもが右手首にリストバンドをしている。目印らしく、目立つようになっているようだ。
「……これ、どこかで」
見覚えがある。何か、どこかで見たような。けれど、紫乃の呟きは玄がちらりとこっちを見ただけで誰に反応されるわけでもなく霧散した。
「だが、動機がはっきりしない。教育機関への同時多発テロというわけではない。確認されているのはここだけだからな」
苦虫を噛み潰したような顔の黄衣に、宏緑が不思議そうな声を上げる。
「グローリアって、『反帝国主義』『反魔術主義』を掲げたテロ組織だろ? なんでこんな、辺鄙なとこの学校を。いくら公立とはいえ神奈川だぞ」
「そこだ、そこがわからない。ここを襲うメリットなど、奴らにはないはずなのだ。学校一つを襲うには人数が多かった。おそらく、総戦術を重視する八校でなければ落ちていた。神木のおかげで初期対応が早かったのも理由だろうが。問題は、あれだけの戦力は奴らにとってもバカにできない人数であることだ。このテロ、メリットなどない」
「テロ組織にメリットを求める事自体が間違いではないんですか?」
紫乃もまた、自分の中にある知識を引き出す。教科書に則ったものでしかないが、この状況では、やれる事をやるしかない。
「いや、奴らは宗教的なものではない、どちらかと言えば革命家寄りだ。筋や理屈は通っていた。今回までは、の話だが……」
黄衣と宏緑が、揃って頭を掻き毟る。どうやら古い知り合いのようだが、行動まで似るほどなのだろうか。そんな意味のない考えが紫乃の頭を過ぎる。
その思考から紫乃を引き上げたのは、
「ミストレスがいるから、ではないでしょうか」
玄の声だった。
「どういうことだ」
詰め寄った黄衣の剣幕にも怯む事なく、玄は死体の右腕を掴みあげる。
「ミストレス、このリストバンドに見覚えがない?」
記憶を探る。つい最近、どこかで見た事があるはずなのだ。
「……入学式のときの、不良?」
「うん、家を脱走した君に絡んだ不良の一人が、このリストバンドをしてた」
「つまり、そのときの恨みだってか?」
宏緑の仮説を、黄衣が否定する。
「そんなもののためにここまでの戦力を注ぎ込みはしないだろう。何か別の理由だ」
「ええ。僕はそのときの不良を殺してもいなければ口止めもしていません。おそらく、『信頼できる仲間からの上奏』という形で、ミストレスの通う高校がここだと割れてしまった」
「普通、数の血族の子供はあまり表沙汰にならんからな。貴重な情報だったろう」
「ええ。その情報を確かめるために監視を始めた。その過程で、五条様も一ノ瀬会長も発見されたでしょう。十塚様、あなたも」
「なるほどな。数の血族がここまで一堂に会するのも珍しい。奴らにとって、千載一遇のチャンスだったって事か」
「おそらくは。監視がついてから襲撃まで約半日。隊の統制も連携も行動も、国を相手取るテロ組織にしては練度が低かった」
「慌てたわけか」
「ええ」
ここまでくれば、話は見える。けれど、紫乃の中にはまだ解決していない話が残っている。
「それで、神木は何に同行するのよ」
「ああ、それは……」
「グローリア東日本支部の壊滅作戦だ」
黄衣の発した言葉に、紫乃と宏緑が同時に声を上げる。
「何も驚く事はないだろう。神木は三枝のガーディアンだろう? ならば、主人に害をなし、今後もなすであろう存在を抹消するのは仕事の一つだとも言える」
「お前さん、玄はまだ十五歳、この間入学した高一だぞ。そんな危険な仕事……」
「いいんです、山代先生。それが僕の仕事ですから」
「しかしな……」
玄の目を真正面から見つめた宏緑は、参ったとばかりにため息をついた。
「わかった。けどな、一応俺も同行するぞ。監督義務だ」
「相変わらず、教師バカな奴だ。いいだろう。三枝は待機でいいか?」
「嫌です」
黄衣の有無を言わせない確認に、首を横に振る。はっきりと、口に出した拒絶。その反応は予想外だったのか、黄衣が目を白黒させた。
「神木一人を危険な場所に行かせて、自分は待機など納得がいきません」
「まるで映画の共闘カップルみたいな台詞だな」
「いいじゃないか、あれはロマンだぞ」
大人気なく冷やかす大人二人を睨みつけて、言葉を紡ぐ。
「わたしだって戦えます。神木だけに背負わせるわけにはいきません。わたしは女主人ですから」
言い切った紫乃を見据えて、今度は黄衣がため息をつく。
「まったく。ガーディアンとそっくりな目をするな。いや。この場合ガーディアンが主人にそっくりなのか?」
「どちらでもありません」
頑なな声を出した紫乃に小さく笑った黄衣は、肩を竦めて立ち去った。
「いいか、一応許可はするけどな、危なくなったら即逃げろ。仕事よりも何よりも、命を大事にしろ」
「ええ、了解しました」
強い口調で念を押した宏緑もまた、「教室に戻れよ」と一声掛けて去っていく。その後に続く形で、どちらともなく歩き出した。




