51 邂逅
――あれから、どれだけ走っただろう。
体感的には数時間経ったようにも思える。
だけど、空を見上げれば太陽はまだ高い位置にあった。
「元英雄を探さないと……」
時間の感覚も、何もかもがぐちゃぐちゃな僕だけど、やることだけはわかっている。
元英雄を捕まえて、戦争を止める。
『カイン・リジル』という名前だけで顔も知らない相手だけど、きっと見つけてみせる。
見つけなきゃ、いけないんだ。
「そこのお前!止まれ!」
「っ!?」
突然、聞こえてきた声に顔を上げる。
視線の先には鎧を身に纏った騎士のような人達が10人程、道をふさぐように立ちはだかっていた。
「あれは帝国の鎧か?つまり、もう砦は……」
「いや、近隣の貴族からも魔術師部隊が派遣されたはずだ。幾ら帝国といえど、そう簡単にはいくまい」
「ともかく、あの子供には話を聞かねばなるまいな」
話の内容的に、あの騎士さん達はリベリアの人達なのかもしれない。
あ、それなら……。
「あの、元英雄さんの居場所を知りませんか?知ってたら教えてほしいんです!」
わからないなら聞くしかない。
僕は縋るような気持ちで頭を下げる。
でも、騎士さん達から返ってきた言葉は期待していたような優しいモノじゃなくて――
「元英雄……?英雄といえば、カイン様しかいないが。まさか……」
「カイン様は正真正銘の英雄だ!ふざけるなよガキが!」
「ひぃ!」
怒りと共に吐き出された大声に後退る。
英雄に“元”を付けるのは、リベリアの人にとっては失礼な事だったらしい……。
「あの、ごめんなさい、でも話を――」
「黙れ!」
うぅ、取り付く島もない……。
騎士さん達の態度にどうすればいいかわからなくなり、立ち尽くしてしまう。
だけど、騎士さん達の後ろからもう1人――豪華な鎧を身に着けた男の人が歩いてきた時、騎士さん達の様子が変わった。
「君、英雄を探していると言ったね?どうしてだい?」
「ちょっと、隊長!?」
さっきまで僕をにらみつけていた騎士さんが慌てた様子で隊長さんの肩を掴む。
けれど、隊長さんはそれを軽く払うと、僕の事を真っすぐに見つめて口を開いた。
「こんなところまで子供が1人でやってくるなんて余程の事情があるのだろう。よければ、それを話してくれないだろうか」
この人は話を聞いてくれる、のかな?
見た感じ、他の騎士さん達みたいに怒ってる訳じゃないみたいだし……よし。
「英雄さんを捕まえて、戦争を止めるためです。今もいっぱい人が犠牲になってるから、僕は止めないとダメなんです」
優しそうな雰囲気をした隊長さんに、一生懸命言葉を伝える。
すると、隊長さんは少しだけ驚いた表情をした後、僕に対して微笑み返してくれた。
もしかして、わかってくれたの?
そうだ、誰でも戦うのなんて……戦争なんて嫌に決まってるもん!
僕は嬉しくなって隊長さんを見つめ返して――
「なるほど、それが君の正義なんだね……。それなら私はこの道を譲ることはできない」
え、何で……?
隊長さんの言葉が理解できなくて、一歩後ろに下がる。
すると、その間に隊長さんは剣を抜き……こちらに向けて正眼の構えをとった。
「援護します!」
それに合わせて他の騎士さん達も剣を抜こうとした――けど、隊長さんはそれを手で制して、言葉を続ける。
「君を1人の勇敢な戦士として扱い、対峙しよう!私はリベリア王国第1王子親衛隊近衛騎士隊長、レゼスタムの奇跡『カルセイン・インク』!よければ小さな戦士――君の名前も聞かせてもらえないだろうか?」
どうしてこうなったのかも、何で戦おうとするのかもまったく分からない。
だけど、自己紹介はちゃんと返さないとダメ、だから……。
「僕は窓香 縁です。帝国では、勇者って、呼ばれてます」
「驚いた、勇者か。ふふっ、こんな所に1人で来たうえ、私と対等に話す君にはぴったりの“称号”だな――いざ、参る!」
言い終えた瞬間、カルセインさんは突きの構えを取り、こちらに突進してきた。
ただ、その剣先はどう見ても僕ではなく不壊の剣に向けられていて。
雰囲気も表情も、僕に『殺す』と言った誰とも違っていて……。
戦いの途中だというのに、それを見た僕は何故かクリスさんとの訓練を思い出してしまった。
きっと、この人も“優しかった”人なんだと思う。
戦争がなければ皆みたいに、変わることもなかったんだと思う。
だから――
「ごめんなさい。僕は英雄さんを捕まえないとダメなんです」
僕は突進してきたカルセインさんに向けて剣を振りかぶり、横から叩くように剣を振り抜いた。
「ぐぉおおおおおおお!?」
「隊長ぉおお!?」
案の定、カルセインさんは僕の一撃を受け止めきれずに吹き飛ばされて……綺麗な形で木へとめり込んでしまった。
怪我はリバージョンで治すから、ごめんなさい。
僕はカルセインさんを治した後、お辞儀をしてから先に進もうと――
「よくもぉ!隊長の仇だぁ!」
「こいつ!子供と思って侮るな!魔人族かもしれん!」
「上級騎士の可能性もある!絶対に殺せ!」
……怪我させちゃったのは悪いと思うけど、何かあればすぐに『殺せ』なんて。
剣を抜いてこちらをにらむ騎士さん達を見て、戦場で見た地獄の光景が頭をよぎる。
もう、あんな光景を見るのは嫌だ。
「そこをどいてください!」
不壊の剣を振り上げて、突進する。
怪我なんてさせたくないけど、僕が遅れれば遅れるだけ人が死ぬんだ。
それにこの人達もここで僕が倒さないと……これ以上先に行ったら帝国の誰かに殺されてしまうかもしれない。
だから、仕方ない。
こうするしかない、これ以外ないから。
「はあっ!」
「ぐぉ……」
「嘘だろっ……」
防御に回って攻撃を受け止めようとした騎士さんを剣で叩き潰し、攻撃してきた騎士さんの身体に蹴りを浴びせる。
それだけで騎士さんたちは漫画みたいに吹き飛んで、簡単に倒せてしまう。
僕に力で勝てるわけがない。
勇者の能力は……ズルいみたいだから。
僕は剣を振り回しながらリバージョンの不意打ちも使って、騎士さん達を残らず叩き伏せた。
「はぁ、はぁ……」
砦の人達よりも強かったけど、何とかなった……。
僕は気絶した人達にまとめてリバージョンを使ってから、息をついた。
「大丈夫。僕は、皆とは違う……」
人を殴って、怪我をさせて。
自分がひどいことをしている自覚はある。
けれど、僕はこの人達とも、皆とも違って誰も殺そうとしてないし、怪我もちゃんと治してる。
勇者は人を助けて、人を救うヒーローで……。
僕は世界を救って、勇者になるんだから、ならないとダメなんだから。
まだ、大丈夫。
僕はまだ――
『――おい、聞こえるか!?今どこにいる!?』
「え?」
全員倒したのに、声が聞こえる?
顔を上げて、周囲を見渡す。
すると、木にめり込んだカルセインさんの体に何か光っている物が見えた。
『――こちら、“カイン・リジル”!聞こえるなら何か応答を!』
カイン・リジル!?
急いでカルセインさんに近づく。
どうやら光っているのは紙で作られたお札(?)で、ここから声が出ていたらしい。
魔道具、なのかな?
『おい、誰かいないのか!?応答してくれ!』
……応答してくれってことは、こっちの声が聞こえるって事だよね?
携帯電話に比べれば音質も悪いし、声なんて殆ど機械音みたいになってるけど……。
とりあえず返事をしてみよう。
「あ、あの、えっと……」
『ん!?生きてるやつがいたか!どこにいる?周りには何が見える?』
ん?あれ?
『お前たちは知らないだろうが、砦は既に落とされている!動けないようなら俺が行くが……おい、大丈夫か?』
「は、はい!大丈夫です……」
もしかして、僕を騎士さん達と間違えてる……?
それなら――
「今、砦に向かう道の途中にいるんですけど……何処に向かえばいいんですか?」
『なるほど、道にいるなら話は早い。動けるようなら砦に向かわず駐屯地まで来い。交差点に設営してるから、道に沿うだけで辿り着くはずだ』
道の交差点にある駐屯地。
つまり、このまま歩いていけば……。
「英雄さんもそこにいるんですか?」
『あぁ、だから安心して――待て、英雄“さん”だと……くそっ』
瞬間、お札が光となって消える。
多分、バレちゃったんだろうけど……聞きたいことは聞けたからいい。
「……早く、捕まえないと」
絶対に元英雄を捕まえる。
それだけを心に刻んで、僕は全力で大地を蹴りつけた。
そうして走り続けること数分後――
「見つけた!」
どうやら駐屯地は意外と近い場所にあったらしい。
森を切り開いたような平地に立ち並ぶテントや、入口で警戒しているさっきと同じ鎧の騎士さん達。
それらを確認してから僕は速度を緩めず駐屯地まで駆けこみ、入り口にいた騎士さん達を残らず薙ぎ倒した。
誰が元英雄かはわからないけど、この中にいるはずなんだ。
倒して捕まえて、戦争を終わらせないと。
早く、早く……。
「英雄は、どこにいるんですか!」
テントに飛びこんで剣を振り、リバージョンで他のテントから飛び出して不意打ちをする。
駐屯地にいた騎士さん達は初めて見るリバージョンに対応できず、次々と僕に打ち倒されていった。
ただ――
「あぐっ!?」
テントの中に隠れていた最後の1人を打ち倒したところで、おかしいと気付いた。
全部のテントを見回ったし、外にいる騎士さんも全員倒した……はずなんだけど。
「どこにもいない……?」
駐屯地にいる人は、見て回った感じこれで最後なのに。
サラの絵本で聞いたような強さの人が何処にもいない。
まさか、嘘を言われたの?
僕は今倒したばかりの騎士さんの傍にしゃがみ込み、質問を投げかけた。
「あの、英雄さんはどこにいるんですか?ここにいるって聞いたんですけど……」
「ぐっ!お、お前などに教えるはずがないだろ!帝国の手先め!」
やっぱり誰も教えてくれない。
魔王復活なんて悪いことを企んでるんだから、口が堅いのは当然かもなんだけど……。
でも、それでも頼まないと……。
「お願いします、教えてください。早く――」
「ぐぅ!」
「へ?」
――教えてくれないと、たくさんの人が死んじゃうんです。
そう言葉を続けようとした僕の目の前で、突如騎士さんが体を震わせ口から血を漏らした。
その光景にあ然としている内に、騎士さんはどんどん弱っていって――
「っ!?リバージョン!」
嫌な予感がした僕は急いで騎士さんにリバージョンを使った。
すると、騎士さんは何故か怯えたような表情でこちらを見上げて、
「ひぃ!?し、死ねぇ!」
叫びと共に懐からナイフを取り出して、それを僕に向けて突き出してきた。
「……殺すとか、死ねとか、何で皆そうなの」
呟きながら腕を振る。
それだけで騎士さんの腕関節は逆に曲がり、ナイフを手放し――え?
そ、そんなに力をこめたつもりは、なかったのに……。
「ご、ごめんなさい。あの、英雄さんはどこにいますか?」
僕は急いでリバージョンを使って腕を治し、一呼吸置いてから質問を再開させた。
けれど、騎士さんは真っ青な表情で僕を見て……次の瞬間には目をつむり、動かなくなってしまった。
「え、気絶してる……?」
怪我は全部治したのに、おかしいなぁ……。
ただ、他に話を聞こうにも、この人以外の騎士さんは全員倒しちゃったし……。
「はぁ……」
落ち込みながら立ち上がる。
すると、そのタイミングでテントの外から馬の嘶きと、男の人の声が聞こえてきた。
「おい、返事はできるか?何があった?」
「ぐっ、あなたは……」
え、まだ人がいたの?
急いでテントから飛び出し、周囲を見渡す。
僕が来た方向とは逆の入り口にその人はいた。
「……っ!?」
ただ、その人は他の騎士さんみたいに鎧を着こんでおらず、更に言えば待ち望んでいた英雄のような姿でもなくて。
“宝石のような剣”を持つこと以外は特徴もない、まるで漫画でよく見る冒険者のような雰囲気の、そんな“地味なおじさん”、だったのに。
何で、こんなに――怖いんだろう。
自分でも理解できない感情に、寒気を覚えるなか。
おじさんは見た目とは不釣り合いなほどに視線を鋭くさせて、僕のことを静かに見据えていた。
こちらが英雄視点です(別小説)→ncode.syosetu.com/n7932go/
ようやくダブル主人公という詐欺タグから脱却することが出来ました……。
以降は英雄と絡んだり絡まなかったりで話が進むので、どちらも応援していただけると嬉しいです。




