43 皇帝陛下からの命令
部屋から連れ出されてからしばらくして。
僕はスタネアさんやクリスさん、騎士さん達と共に大きな扉の前に立っていた。
「ふふふ、私達が貴方を召喚してから早4ヶ月、初めての対面ですがー。準備はよろしいですかー?」
「う、うん。大丈夫、だけど」
スタネアさんに言葉を返しながら、ちらりと周囲を見渡す。
もう引きずられてはいないけど、相変わらず僕の周りは全身鎧の騎士さん達で固められていて、何だか物々しい雰囲気になっている。
今から“皇帝陛下に会う”らしいから、当然なのかもしれないけど……。
「ねぇ、クリスさん。もしかして、僕、何かやっちゃったのかな?怒られるのかな?」
何だか不安になって、僕は隣を歩くクリスさんに話しかけた。
いつもなら優しく『縁殿』って呼んでくれたり、笑ってくれるクリスさんなんだけど、今日は何だか様子がおかしい。
「それは皇帝陛下がお決めになることですので、お答えできかねます」
やっぱり、こうして距離を取るような……寂しい言葉しか言ってくれない。
部屋に来た時も謝っていたけど、本当にどうしたんだろう?
「はいはい、お話はそれくらいにしてくださいねー」
スタネアさんはそんなぎこちない僕達の様子に一言注意をしてから、次いで扉の横に立っている衛兵さんに何かを耳打ちした。
衛兵さんはスタネアさんに頷きを返すと、扉を開いて、僕達を“玉座の間”へと先導し始める。
「あれ……?」
あんまりキョロキョロすると怒られちゃうかもだし、よく観察はできないんだけど。
玉座の間は広い部屋に最低限の装飾や調度品が置いてあるだけで、意外にも質素(?)で少しだけ驚いてしまった。
例外として部屋の奥にいるお爺さんが座っている椅子だけはとても金ぴかに作られていて、周りと比べてもすごく目立つんだけど――って、もしかして、あの人が?
「スタネア・ファーレン上参位、命により勇者様を連れ参じましたー。“陛下”に至っては――」
「口上などよい。お前は下がれ」
「つれませんねー。ふふふ、勇者様ー?あとは頑張ってくださいねー……ふわぁ」
椅子に座ったお爺さん――皇帝陛下の一言を受けて、スタネアさんは欠伸をしながら玉座の間から出て行く。
しかも、それに釣られるように騎士さん達も部屋から出て行ってしまい……。
「これで静かに話ができるな」
皇帝陛下の言葉に周りを見渡してみれば、いつの間にか玉座の間には僕とクリスさんと皇帝陛下だけになってしまっていた。
――って、え?どうするのこれ?
「……縁殿!私の真似をしてください!」
突然の事態に困惑していると、クリスさんが小声で――そして“安心するような”声音で耳打ちしてくれた。
何だか嬉しくなりながらも声に目を向ければ、クリスさんは皇帝陛下に対し跪くような姿勢で頭を下げていて――
あ、そっか、皇帝陛下って偉い人じゃん!
僕は慌ててクリスさんの真似をして皇帝陛下に跪いた。
「うむ、ラインハルト上級騎士よ。しっかり職務を果たしているようで安心した。今後も引き続き励め」
「はっ、この命に代えましても」
皇帝陛下の言葉にクリスさんがキリッとした声で返事をする。
よかった、クリスさん元気になったみたいだ――
「勇者よ、其方の方はどうだ」
「ふえっ!?」
まさか話しかけられるとは思わなくて、変な声をあげてしまった。
えぇと、僕の方はどうって?何が?
「……いつも頑張っている訓練の事です!」
あ、訓練の事を話せばいいの?
小声でアドバイスしてくれたクリスさんに頷きを返し、僕は心の中で気合を入れる。
よ、よし!
「は、はい!“発表”します!」
僕はぴしっと手を上げて、皇帝陛下に向かって上達した結果を発表することにした。
発表なんて小学校の時以来だけど、頑張らないと!
「さ、最近はアスカルさんとも打ち合えるようになって、いや、まだ全然勝てないんですけど、能力ありなら勝負がつかないぐらいには耐えられるようになりました!えぇと、あとは――」
「待った、もうよい。其方の献身は高く評価しよう」
あぅ、もっと話したかったのに。
未だに女神様って呼んでくるライルさんとの訓練の事とか、クリスさんに手も足も出ずボコボコにされる事とか、サラの魔法でボロボロの雑巾みたいにされる事とか……。
あれ、思ったよりも上達した感じがしないような……?
「さて、本題だが――此度の戦、其方らには我が帝国の勝利に貢献してもらうことにした、よいな?」
え、いきなりなんのこと?
勝利に貢献って、どういうこと?
皇帝陛下の言葉に首を傾げていると、クリスさんが僕の腕を引っ張りながら小声で話しかけてきた。
「……私の真似をしてくださいね!」
ま、また真似するの?
何だか真似してばかりな気がするけど……でも、これって、それだけ僕がクリスさんに頼ってばかりって事なんだよね。
それならせめて、真似ぐらいは完璧にできないと……!
よし、頑張ろう!
「クリス・フォン・ラインハルト上五位、謹んで命を賜ります」
「うむ」
じーっと見つめる僕の目の前で、クリスさんは皇帝陛下に深々と頭を下げると、キリっとした声でカッコいい言葉を話し始めた。
これを真似すればいいんだよね、よーし!
「窓香 縁!えぇと、勇者です!謹んで命を賜ります!」
「うむ、期待している。追って沙汰は伝える故、下がってよい」
よ、よかった、合格だったみたい。
僕は安心してクリスさんの方を――って、あれ?クリスさん?何で目を逸らすの?
何故か、クリスさんは僕と一切目を合わせてくれず……。
結局、何が何だかよくわからないまま、僕達は玉座の間を後にした。
縁君は現代日本の出身なので、この世界から見ればかなりズレた感性を持っています。
更に色々と事情もあって、前世では両親と主治医くらいしか交友関係もないので……。
残念な所もありますが、生暖かく見守っていただけると幸いです。




