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03 お願いされたら仕方ない

 “やっぱり”メイドさんだったんだ……!


 漫画やアニメではあるあるなのに、現実には見たことがなかったメイドさんが目の前にいる!すごい!

 そんな風に感動しながらお姉さんをじーっと観察していると……いつの間にか心配そうな表情を浮かべていたお姉さんと目があった。


「勇者様、どうかされましたか……?」


 しまった、いきなり見つめるなんて失礼だったよね……。

 初対面なんだから、まずは自己紹介しないと。


「あ、えっと、僕は窓香 縁っていいます。その、セーノ……ミーゼス、さん?」


「あぁ、私の名前はセーノと呼び捨てにしてもらって構いません。マドカ ユカリ様ですね、承知いたしました」


 そう言って、お姉さん――セーノさんは嬉しそうに微笑んだ。

 どうやら、この世界は前世の外国みたいに名前が前に来るらしい。

 そっちに関しては今度から気をつけるとして。

 それよりも、だよ。


「僕の事も縁って呼び捨てにしてくれていいからね……!」


 流石にフルネームを様付けで呼ばれるのは恥ずかしすぎる……!

 僕は遠慮するセーノさんを必死に説得して名前で呼ぶことを約束してもらった。


「あの、それでセーノさん。もう一つ質問があるんだけど」


「はい。勇者様――いえ、縁様。私にお応えできることなら何でも」


 ほっ、よかった。

 セーノさんが名前で呼んでくれたのを確認してから、僕は気になっていたもう1つの質問を投げかけた。


「何で僕が勇者様なの?」


 ズバリ、これだ。

 出会った時から今までセーノさんは僕を勇者と呼んでいるけど、この世界に来たばかりの僕に絵本の勇者のような活躍や逸話なんてあるはずもない。

 それなのに勇者と呼ばれるこの状況が、僕には不思議で仕方なかった。


「縁様が勇者である理由、それは縁様が勇者召喚“魔法”の呼び掛けに答えてくださったからに他なりません」


 え、魔法!?

 セーノさんの言葉に耳を疑った。

 しかし僕が疑問を口にするより早く、セーノさんの説明は次へと進んでいってしまう。


「そして、もう一つの理由は召喚時の服装と持ち込まれた品々です。私も拝見しましたが、ひと目でこの世界のモノではないとわかる――つまり、別の世界から持ち込まれた物でした。ふふふっ、間違いなく縁様は勇者様なんですよぉ」


 そう言い切って説明を終えたセーノさんは頬を赤く染め体を震わせた。

 僕は何となくセーノさんから距離を取ってから、さっきの説明で気になった部分を質問することにした。


「勇者召喚魔法って何?僕は召喚されたってこと?」


「それについては、私も詳しくは存じ上げませんが――」


 そう前置きをしてから、セーノさんは勇者召喚の魔法について教えてくれた。

 曰く、『勇者召喚魔法とは別世界にいる人間をこちらの世界に呼ぶ魔法』とのことだった。

 つまり逆に言えば召喚されたものは勇者で、だから僕は勇者である、ということらしい。

 僕の場合は呼びかけに答えるというか、神様に送り込まれたって感じだけど……まぁ、殆ど同じだよね、うん。


 それにしても、魔法かぁ。


「うーん……」


 顎に手を当て、思わず唸ってしまう。

 魔法とか召喚とか前世じゃ空想の中でしか存在しなかったし、現実にあると言われても違和感しかないんだよね。

 更にはセーノさんが言っていた勇者の定義、あれじゃまるで……。


「ねぇ、セーノさんにとって――いや、この世界にとっての勇者ってなに?何をすれば勇者なの?」


 言うまでもなく、僕にとっての勇者は困ってる人を助けて、いろいろな人を救う正義のヒーローのことだ。

 でも案の定、セーノさんからの説明は全く違うモノだった。


「何をすればということはありません。この世界とは違う世界から訪れた使者、それが勇者様ですから」


 別の世界から来ただけで勇者なんだ……。

 そうなるとやっぱり、僕の考える勇者とこの世界の勇者は違うみたいだ。

 でも、それなら僕の思うような正義のヒーローはこの世界ではなんて呼ばれているんだろう?

「これも聞いてみよう」と考えた、その時だった。


「なので、縁様――勇者様にお願いがあるのです。希望と、言い換えてもいいかもしれません」


 あれ、この流れって少し前にも見たような……?

 真剣な表情でこちらを見つめてきたセーノさんに、思わず姿勢を正す。

 すると、セーノさんは今にも泣き出しそうな表情で“お願い”の内容を口にした。


「どうか、我が国の危機をお救いください。これは勇者様にしか頼めないことなのです」


 言葉と共に、まるで今にも土下座しそうな勢いでセーノさんが頭を下げる。

 その必死な様子に思わず「うん」と言いかけたけど、『国の危機』なんて絶対に大変なことだよね?

 前世じゃ人に頼られたことなんて一度もなかったのに、そんな僕が何とかできるとは思えないんだけども。


「本当に僕にしか、頼めないの……?」


「……はい、勇者様にしかできないことです。もう、私達は貴方を頼る他ありません」


『僕に頼るしかない』

 再び繰り返されたその言葉に、僕の脳裏には神様のお願いと、その時の会話が浮かび上がってきた。


 ――そうだ、できるとか、できないじゃないんだ。


 僕の身体から不安と緊張が解けていくのを感じる。

 あの時、神様は『貴方は、貴方の心のままに生きてください』と言ってくれた。

 それなら僕は、僕のやりたい生き方は――


「うん、わかった」


 セーノさんに顔を上げさせて、その悲し気な表情に頷きを返す。

 確かに、前世で役立たずだった僕に、国の危機なんて荷が重いかもしれない。

 でも、それは助けない理由にはならないし、逃げていい理由にもならない。


 だって、それが“勇者”だから。

 困っている人は絶対に見捨てないのが、僕の憧れた勇者だから。


 もちろん、この世界の勇者が僕の知っている勇者と違うのはわかってる。

 だけど、助けを求める声を、すがるようなお願いを断ってしまったら。


 皆に優しくて、頼りになって、人を助けて。

 悪いモノは全部倒す、あの絵本の勇者に――僕が目指す勇者になれないと、そう思うから。


「僕でいいなら助けになるよ」


 僕はセーノさんの手を握り、安心させるように笑顔を向けた。

 そもそも、右も左もわからない別世界に生まれ変わって最初に出会った人がこんなにも困ってるんだ。

 できる限り助けになりたいと考えるのは勇者じゃなくても当然のことだと思うし、それに人助けをしていたら目的(女神様)の情報が集まるというのは漫画やゲームでもお約束だったもんね。


 つまり、これは一石二鳥なんだよ、うんうん。


「っ、ありがとうございます!」


 セーノさんは一瞬だけ複雑そうな表情をしていたけど、すぐに笑みを浮かべてくれた。

 人を笑顔にしたんだと思うと、僕も嬉しくなる。


 僕は天井を見上げて、どこかで見守ってくれているはずの神様に心の中で感謝を呟いた。

お願いに弱い縁君でした

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