表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/78

30 迷子と人助け

祝!30話!

じ、次節には英雄とも会える……はず、です。

今後ともよろしくです!

 道中何事も起きることはなく、僕達は予定通りの日程で聖都へと到着した。

 移動時間は4日程で、車や飛行機が無い世界の移動距離の長さに今更ながらびっくりしたけど……。

 ともかく無事に到着した僕達は綺麗な門から聖都へと入国(?)し、その街並みに感嘆の息を漏らすこととなった。


「あの遠くに見える大きい塔が摩天楼かな?昔、クイズ番組であんなの見たよ」


「ふふん、ハズレね。あれはマテンロウ?じゃなくて、聖女が住んでる“大聖堂”よ!絵本で見たから間違いないわ!」


「ぐふふ、サラ様、正解でございます。ちなみに今回の会談場所でもありますから、あとで訪問する予定ですよ」


 ヘンゼルさんの言葉にサラは飛び上がって喜び、笑顔を輝かせた。

 悪いやつとか言って毛嫌いしてたのに、現金だなぁ。


 サラの様子を微笑ましく思いながら、僕もサラに見習い遠くに見える大聖堂を眺めた。

 太陽の光を受けて輝く“純白”の大聖堂はとても大きく、この世界に来てから見た中では一番高い建造物だった。

 あんなに高いと地震が怖い――ん?そういえば、この世界に来てから一度も地震がないような……。


「では、ヘンゼル上四位。また後ほどお伺いしますので」


「ぐふっ、いえいえ。勇者様に貴重な経験を積ませてあげてください。それでは」


 って、あれ?

 ヘンゼルさんの馬車がどこかにいっちゃった?


「クリスさん、ヘンゼルさんは?」


「ヘンゼル上四位は外交官用の屋敷に向かいました。私達は、こちらの宿です」


 クリスさんが指さす先を見ると――なに、あの大きな建物、あれが宿なの?


「ここで縁殿とサラには市井を経験してもらい、箱入りから一歩外に出てもらいます!」


「でもクリスさん、あの宿、入っていく人の身なりが……」


 僕の価値観が間違ってなければだけど、あれは多分、最高級宿ってやつなんじゃ――


「王宮周辺の宿と比べれば貧相で、小さい、一般的な宿ですが。学ぶにはこれくらいがちょうどいいでしょう」


「え、あれが一般的なわけ?宿ってもっとこう、酒場とかと合体してるイメージがあったわ」


 うん、サラのイメージは間違ってないと思う。

 僕が前世でやってたゲーム中の宿は、全部そんな感じだったし。


「酒場は酒場でしょう?宿とは違います」


「でも、絵本の中には宿で飲んだくれが騒ぐって――」

「絵本は現実とは違いますし、私はサラや縁殿と違って箱入りではないので信用してください。さぁ、話は後にして、とりあえず部屋を取りましょうか」


 ただ、クリスさんがここまで言い切るってことは、もしかしたら僕達の認識の方が間違いなのかもしれない。

 僕の知ってるファンタジーの宿とはちょっと――いや、かなり違うみたいだけど。

 きっと、これが別世界ってことなんだろうね、多分。


 宿に入って受付を済ませ、案内された部屋に入ると、そこは2つの部屋が合体している上にバルコニーまでついている豪華な部屋となっていた。

 しかも、個室のお風呂まである!

 王宮では朝しか入れなかったけど、夜にも入れたら嬉しいなぁ。

 ふふふ、観光――じゃなくて、外交は楽しいね!


「浮かれているようですが、くれぐれも宿からは離れないように!いいですね?」


「はーい!」


 クリスさんに返事をしてから、早速僕はサラの手を取り、一緒に宿を探検することにした。

 部屋に備え付けられた見たこともない果物や豪華なシャンデリア、びっくりするくらいにふかふかなベッド。

 あとは宿内にあった教会?みたいな部屋なんかを見物しながら、宿の中を練り歩いていく。


 ちゃんと手はつないだままだったし、はぐれないように、迷子にならないように気を付けながら探索してた――はずだったのに。


「ふえぇ、ここどこなのぉ……?クリスさん、サラぁ……」


 なんということだろう。

 “いつの間にか”僕は宿の外に出て……何故か、見知らぬ路地裏をさまよっていた。

 まるで時間が飛んだかのような出来事に、頭の中は大混乱だったけど……。

 ともかく、急いで宿まで戻らないと2人に心配かけちゃう。


「なんで、こんなに道が入り組んでるのさ!帰れないよぉ!」


 だというのに、ここは迷路みたいに道が入り組んでいるし……おまけに言えば、暗くて狭くて、何だか怖い。

 僕は泣きながらも、なんとなく人がいそうな方に歩いて、歩いて、歩き続けて。


 そうして勘だけを頼りに辿り着いた、道の先――曲がり角の向こうに、ふと誰かがいるような気配を感じた。


「よかった!これで帰り道が――」

『この容姿なら金貨2枚、いや5枚にはなるか?持ち物もそこそこ良い物が揃ってるみたいだし、今日はツイてるぜ!』


 帰り道が聞けると、思ってたんだけど……?

 角の向こうから聞こえてきた声は、なんというか、とっても嫌な雰囲気に感じられた。


「何してるんだろう……?」


 そーっと、角の向こうを覗きこんでみれば、そこにはナイフを持った男の人に女の子が押し倒されている光景があって――


 それを見た瞬間、僕の体は勝手に動いていた。

 多分、無我夢中だったんだと思う。


 結果として、女の子は助けられたんだけど、その。


「あの、大丈夫ですかー……?」


 男の人に声を掛けてみるも、返事はない。

 まぁ、木箱に頭を埋めた状態でどうやって返事するんだって話なんだけども……。

 ピクピクとは動いてるから、大丈夫だよね……多分。

 手にナイフを持っている人だったから、怖くて近づくこともできず。

 僕は男の人にリバージョンだけ使って、さっきまで襲われていた――壁を背にして俯いている女の子に声を掛けた。


「あの、もう、大丈夫だよ。男の人は僕が何とかしたから――」

「た、たすけっ、いやっ……」


 ただ、女の子はさっきのことにすごくショックを受けているみたいで、僕の言葉にも虚ろな様子で『助けて』『嫌だ』と口にすること以外、できない様子だった。


 困っている人、助けを求めている人が目の前にいる。

 ……こういう時こそ勇者の出番、だよね。


 よしっ!


「大丈夫、安心して……僕が守るから」


 必死な様子で顔を上げた女の子に微笑みかけながら、できるだけ優しくそう言い聞かせる。

 同時に、不安なんてないよと、安心していいんだよと、ゆっくり頭を撫でれば――何とか、伝わってくれたらしい。

 女の子は僕を見上げて、安心したような表情で意識を失った。


 絵本の勇者の真似だったけど、上手くいってよかった。

 とりあえず足の怪我をリバージョンで治して……ん?あれ?


「これ、リバージョンで宿まで帰ればよかったんじゃ……?」


 リバージョンじゃ女の子を連れて帰れないから、今気づいたところでまったく役に立たないわけだけど……。

 結果的に女の子を助けられたから良しということに、する!

 そうだ、結果が良ければいいんだよ、うん。


 ともかく、この女の子を安全な場所まで運ばないと。


 ――と、ここまで考えたところで、ふと気づいた。


「このまま宿まで連れて帰っても大丈夫なのかな……?」


 よくよく見れば、女の子の服はすごく立派で装飾がキラキラした――どう見ても目立つ格好で。

 例えば大通りに出て僕がこの子を担ぎながら右往左往と歩いたりなんかしたら。


「怪しまれて大騒ぎに、なるかもしれない……」


 迷子になった上に通報されたりなんかしたら……今までで一番、怒られる、絶対。

 僕はとっさに女の子を着ていたローブで包み隠し、人目を避けるように移動を開始した。


 そうして、いろいろと頑張りながら路地裏を歩き回ること、数十分後。

 僕は無事、女の子を宿へと運び込むことに成功したのだった。

「何で女の子を助けただけなのに、こんな苦労してるんだろう……?」と不思議に思いながら、僕は晴れやかな気分で部屋の扉を開け放った。


「ただいまー」


「誰!?って縁!!!あんたどこ行ってたのよ!」


 声と共に入室すれば、サラがプンプンと怒りながら僕の側まで駆け寄ってきた。

 サラが怒っているのは――そうだ、探検の途中で僕が勝手にいなくなっちゃったから、だよね。

 これは怒られても仕方ないかも……。


「ご、ごめん。なんか、勝手に宿から出ちゃってて……」


「勝手にぃ?そんなわけないでしょ!どうせあんたのことだから珍しい屋台とかに釣られて――って、その子どうしたのよ」


 ん?その子?

 急に言葉を止めたサラの視線を追えば、僕の腕の中には未だに抱えたままの女の子がいた。

 そっか、説明しないとダメだよね。


「さっき路地裏で怖い男の人に襲われてたから助けたんだ。そういえば、クリスさんはどこにいるの?」


 できれば女の子のことをクリスさんに相談したい。

 そう思って聞いてみれば、サラは素早く僕から離れていき、何故か険しい表情で隣の部屋へと入っていった。

「隣の部屋にクリスさんがいるのかな?」と、呑気にそう考えた瞬間――大きな物音と共にクリスさんが隣の部屋から飛び出してきて、すごい勢いでこちらに詰め寄ってきた。


「縁殿!人を拾ってきたとはどういうことですか!?」


 サラ、説明が足りないよ。


「違うよ、クリスさん。僕は勇者らしく困ってる人を助けて保護したんだよ。ふふん、勇者らしくね!」


 自分で言ってから気付いたけど……思えば、この世界に来てから人の役に立ったと言えるのは、今回が初めてな気がする。

 オークの件は結局サラが全部倒しちゃったし、正直僕は何もしてなかったし。


 それに比べれば今の僕は……すっごく勇者をしている、気がする!

 絵本の勇者に一歩近づいたような、そんな誇らしい気持ちでちらりとクリスさんを見てみれば――


「え、これ、どうすればいいんですか……」


 そこには褒めてくれるどころではなさそうな……何故か、困惑しきったクリスさんの姿があった。


「……えっと、クリスさん。大丈夫?」


 もしかして、まずかった?

 クリスさんの反応が思っていたのと違って不安になっていると、クリスさんは腕の中にいる女の子を観察するように見下ろしてから口を開いた。


「一応、確認なのですが。縁殿はこの子を助けるために、ここに運び込んだのですよね?」


「え?あ、うん。気を失った状態で放っておくわけにもいかないし、病院の場所なんてわからないから……安全なのはここかなって」


 素直にそう答えると、クリスさんは少しだけ笑ってから僕の頭を撫でてくれた。


「で、あれば仕方のないことでしょう。問題は私達には任務があるということですが……それはこの子が起きた時にでも話し合うとしましょうか」


「う、うん」


 なんだかわからないけど、僕はクリスさんを困らせちゃったらしい。

 でも、何が悪いのか――あ、そっか。


「……勝手に出歩いてごめんなさい」


「いえ、こうして人を助けられたのですから。むしろ、お手柄ですよ。縁殿」


 お手柄……そうだよね、人を助けられたんだから、結果オーライだよね。

 クリスさんも許してくれたし、ひとまず、この子をベッドに寝かせないと――って、あ、あれ?


「は、離れてくれない」


 寝かせようとした瞬間、女の子は強い力で僕の服にしがみついてきてフルフルと震え始めた。

 女の子の反応に、どうしたものかと困っていると――不意に、視界の端から女の子に向けて手が伸びてきた。


 目を向ければ、いつの間にかそこには難しそうな表情をしたサラがいて、


「この子、闇魔法をかけられてるわね。しかも、くっっっそ下手くそなやつ」


 そんな衝撃的な事実を僕に告げてきたのだった。


 えっと、確か闇魔法って特殊属性だったっけ?

 特殊属性が何なのか、あんまりよくわかってないけど……サラの様子を見る限り、良い事には思えないんだよね。


「それって、どうなるの?」


「このまま放っておけばそのうち解けると思うけど、効果の残留が長引いたら最悪死ぬわね。早く光魔法で打ち消さないと危険だわ」


 え、死んじゃう!?


「光魔法以外じゃだめなの?打ち消せないの?」


 光と闇魔法以外ならサラは全部使えるし、なんとかならないのかな?

 そう思って聞いてみたけど、サラは首を横に振った。


「ダメね。特殊属性っていうのは文字通り特殊で、相反する属性でしか打ち消せないのよ。しかも、一度かけたら制御もいらないし、こめられた魔力を消費するまで働き続けるし。だから早く光魔法を――って、そうよ!」


 言葉の途中で何かを思いついたのか、サラは勢いよく僕を指差した。


「リバージョン!あのズル技使えばいけるんじゃないの?」


 ズル技って――いや、でも、確かにサラの言う通り、やらない手はないよね。

 今度は傷じゃなく闇魔法を解くように意識して、僕はリバージョンを発動させた。


「ううぅ――ぅ、ふへ、ふへへ」


 すると、女の子の様子は一変し、すぐに穏やかな寝息を――穏やか、なのかなこれ。


 と、とにかく、闇魔法を消すことはできたはず。

 リバージョンを使った後の独特な感触から、僕は成功を確信していた。


「やっぱりズル技ね。闇魔法にも効くとか意味わからないわ」


 やらせた張本人からのぞんざいな高評価に、なんとも複雑な気持ちになる。

 僕自身この能力のことは完全に把握してるわけじゃないし、闇魔法に効くのがどうすごいのかよくわからないし。

 意味がわからないことがわからない……ってややこしいね、うん。


 ひとまず、リバージョンの事は置いておくとして。

 今のことで僕はサラに1つ聞きたいことがあった。


「ねぇ、あの闇魔法が下手くそだって、なんでわかったの?」


「え?あぁ、体に残留して闇魔法を発動させてた魔力の大体がサボってたのよ。詠唱と運用が噛み合ってなかったのか、そもそもイメージすらできてなかったのかは知らないけど。魔力量だけのゴミクズっていうのがよくわかる魔法だったわ」


 魔力がサボるのも驚きだったけど、魔法と詠唱が噛み合わないことなんてあるんだね。

 あれ?でも、サラの魔法ってほぼ詠唱がなかったような気がするけど……それはどうなんだろ。


「サラは大体いつも『火よ』とか『雷よ』って属性指定の部分しか言ってないけど、同じことにはならないの?」


「“短詠唱”のこと?ふふん、あたしはちゃんと過程も結果もイメージしてるから問題ないわ。そこら辺の雑魚魔術師と一緒にしないでほしいわね」


 なるほど、属性だけの詠唱は“短詠唱”っていうんだ。

「とりあえずサラは大丈夫って認識でいいのかな?」と、そんな事を考えながら、僕は今度こそ女の子をベッドに寝かせて、肩の力を抜いた。


 この子が誰なのか、何で襲われていたのか、気になることは多いけど。

 それを聞くには目が覚めるのを待つしかない。


 僕達は女の子が目覚めるまで、部屋から出ずに待ち続け。



 それから事が進んだのは、その日の夜――晩御飯が終わるくらいの遅い時間になってからのことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ