表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国太子と近衛兵  作者: 佐藤周
終章 『ハイデッガ』にて
PR
48/48

エピローグ

ショウの街の宿屋、『ハイデッガ』。その一階の酒場で、男が酒を飲んでいる。 

男はほかの街の人々と同じく、質素で、清潔な平服を着ていた。


しかし、その男の目つきは鋭く、身にまとっている空気は、どこか普通とは違う。粗野な、とか、野蛮な、とか、そうした形容詞が付きそうな男だ。右ほほにできた、大きな傷と、体中にできた、まだ治りきらない無数の生傷が、その雰囲気を決定的なものにしていた。

 

男は子供を連れていた。十を過ぎるかすぎないかくらいの、小さな娘。娘は酒をすする男の前で、がつがつと、料理をむさぼる。

ほかの客はその様子を見て、目を丸める。娘の前には、成人男性の三人前はあろうかという料理が並び、娘は苦も無くそれを平らげようとしている。


 男と同じように、娘も子供用平服を着せられていた。しかし、その眼つきや、身のこなしは、男と同じく、どこか山野の雰囲気を感じさせる。

 

そんな二人に居座られ、こまった、こまったと、厨房の奥で主人が頭を抱えていた。

給仕のイムリは、そんな彼に、あきれたように言う。

 

「べつに、気にすることないじゃないですか。『司』の、近衛様なんでしょ?」

「もとは、山賊だという話だ。あの男も、娘も……」

「でもいまは、違うんでしょ。テダちゃんかわいいですよ。信じられないくらいご飯を食べてくれるから、ついついサービスしちゃう。」

「ああ、あれも明らかに異常だ。子供の食べる量じゃない。獣みたいにバクバクと……」

「別にいいじゃないですか。儲かりますし。」

「ほかの客が逃げる。」

「逃げてないですよ。」

「嘘だ。」

「嘘じゃないですよ。」


そう言いながら、イムリは主人の袖を引いた。「だから、手伝って。」

 主人はいやいや厨房から出てくる。あの男が居座っている限り、酒場の人々は、逃げてしまっているはずだ。

 しかし、酒場は、いつも通り人であふれていた。男の存在は、街になじみ、その存在を人々は全く、気にしていない。

 

「ほら、オーダーがたくさん出てますから。」

 

そう言い残して、客に呼ばれたイムリが、はーいと愛想のいい声をあげながら歩いていく後姿を主人は呆然と見送っていた。


 

アシムは当然、その主人の様子に気が付いている。

気が付きながらも、文句ないだろ、と思いながら、イチジク酒をすする。

 

その一挙一動を、アシムの近くのテーブルに座った男女が、ひそひそと耳打ちしながら見ていた。その眼に気が付いたテダが、聞いた。

 

「なんか、見られてる?」

「ウワサ好きがこの街には多いからな。」

「ふーん」

 

それだけ言うと、少女は食べかけていた鳥肉の咀嚼に戻る。

赤髪の砦から生き残って帰ってきてから、アシムは自分が、ショウの街の『自称』情報通の間で、噂になっていることを知っていた。聖堂でテダとともに泊まり込みで治療を受けていたとき、クミルが見舞いに来るたびに、その話題を土産にして、散々喋って帰って言ったからだ。

 

太子と同じく、アシムの評価も、二分されているらしい。勇敢な戦士か、野蛮な山賊上がりの男か。ただどっちにしろ、アシムはメイの忠実な部下だ、という点で一致しているらしい。


メイの評価もいまだ定まっていない。家臣を助けに行ってオジンの砦を強襲した手際と勇気は目を見張るものがあるが、その際にまた、出どころの良くない家臣が増えたらしい。

 

大方、隣の男女は、そうしたアシムの評判を確かめるため、直接ネタを確かめに来たのだろう。うっとうしいことには間違いないが、その眼には悪意はなく、ただ純粋に好奇心だけが見えたので、アシムは放っておくことにした。


アシムがそんな話をすると、見舞いに来たカネンは笑いながら言った。

 

「喜べ。そういう噂が立つということは、お前がただの風来人ではなく、街の人間として受け入れられたということだ。」

 

はじめにこの酒場に来たとき、アシムは街に根付きたくて仕方がなかった。しかし、いざ街の人間になってみると、こんなものか、と、どこか拍子抜けした気分になる。

 

「ねぇ。」

 

アシムが物思いにふけっていると、テダがメニューを見せながらアシムに言う。

 

「これ、食べたい。」

「おまえ、食いすぎだ。」

 

アシムはあきれて言うと、テダはほほを膨らませた。

 

「あたしはおなかがすいてるの。聖堂のご飯は、味気なくておいしくなかったし。」

 

アシムはため息をつく。この調子ではいつか、破産してしまいそうだ。

そう思いながらも、アシムは手をあげた。気が付いたイムリが、はーいと声をあげて近づいてきて、街の『自称』情報通たちはその様子を、かたずをのんで見守っていた。


最後まで読んでいただきありがとうございました!

感想などいただけると嬉しいです。

次回作をどうするかは未定ですが、また書き始めることがあればそのときはよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ