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出会い

俺はこの物語を、今はもう会えない状況になってしまった未希のために書こうと思う。いつか偶然、未希が読んでくれることを祈りながら…。


俺の心の中で、未希と過ごしたあの時間がどれだけきらきら輝いているか、どれだけ俺が未希との思い出を大切にしているか、伝えたい。


そしてこれから先、長い人生の中で未希の心に寂しさや不安が芽生えたとき、未希が悲しみに飲み込まれそうになったとき、俺はこの物語を通して「大丈夫だよ!元気出して!」と励ましてあげたい。


未希の心を嬉しい気持ち、楽しい気持ちでいっぱいにして、二度と不安や寂しさが芽生えなくなるような物語、未希の心を永遠に守り続け、温め続ける物語を、俺は本気で作ろうと思った。

 俺は未希に初めて会ったとき、すぐに「この人は、他の人とは違う」と感じた。もちろん、良い意味でだ。たぶん俺はそのときから既に、未希に惹かれていた。


 俺はその日、いつものように教室の机で次の授業を受ける準備をしていた。次の授業は算数だったから、分度器やらコンパスやらをランドセルの中から出していた。するとクラスの学級委員である斎藤という女子が俺のそばに来て、こう言った。

「鶴川君、国語クラブの部長だよね?隣のクラスに編入してきた女子が、入部したいって言ってるみたいよ。読書が趣味なんだって」

 俺は「そう。じゃあ…放課後、B棟の入り口で待ってるように伝えてくれるかな?」と答えた。俺が部長を務める国語クラブは、俺達六年生の教室が並んでいるA棟とは別の建物、B棟にある。

 「了解!じゃあ、伝えておくね」

 斎藤はそう言って、教室から出ていった。俺は「入部希望者…どんな人なんだろう?女子って言ってたよな?」と、ぼんやり考えていた。放課後になり、俺はB棟へ向かった。その日はよく晴れていて、A棟とB棟を結ぶ渡り廊下を歩く俺の眼には、陽射しを受けてきらきら光る樹々の葉が眩しく映った。気持ちのいい、爽やかな日だった。歴史を感じさせる古びた赤煉瓦のB棟の入り口の前で、一人の女子生徒が立っていた。それが、未希だった。

 「あの…鶴川君?」

 俺が近づいていくと、未希の方から声をかけてきた。それほど緊張している様子もなく、少し微笑んでいた。

 未希は薄紫のとても細い金属フレームの丸い眼鏡をかけていて、それがとても似合っていた。うちの学校の女子の制服は薄くも濃くもない普通のグレーに黒のラインが二本入ったセーラー服で、下は黒のプリーツスカートに黒いハイソックスだ。俺はこの制服についてそれまで、「なんとも地味な制服だなあ」くらいにしか思っていなかったが、未希がそれを着てB棟の入り口に立っている姿を見たとき、「この制服って、こんなに素敵だったのか!」と、初めてそのデザインの素晴らしさに気づいた。極めて清楚、極めて上品。うちのクラスの女子だけを眺めていたのでは、永遠に気づけなかっただろう。あいつらの前で言ったらボコボコにされるだろうが、疑う余地の無い事実である。

 俺は「うん。俺が鶴川だよ。国語クラブへの入部希望者っていうのは、君?」と訊いた。未希は黙ってコクリと頷いた。その頷き方が可愛くて、俺は少し胸がキュンとしてしまった。「部員が増えるのは嬉しいよ。部室は二階だから、ついて来て」と俺は言った。B棟は古い建物なので中はA棟に比べ、薄暗い。でも俺は歴史を感じさせる独特の雰囲気がとても気に入っていた。二階へ上る階段も横幅が広く、手すりも重厚な造りになっている。二階の廊下を進み、最奥から二番目、右側にあるのが『国語クラブ』の部室だ。普通は『文芸部』という名前にするのだろうけど、顧問の青木先生のこだわりで、『国語クラブ』という名称になったらしい。俺は廊下を歩きながら、「あ、名前をまだ聞いていなかったね。お名前は?」と訊いた。未希は少し慌てた様子で、「あっ。ごめんなさい。工藤未希です。」と答えた。俺はこのとき早くも、『どうも俺は、この子の一挙手一投足に、いちいちキュンキュンする性質があるらしい』と気づいた。


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