10-3
「おーい、こっちにも」
傘音が呼ぶ方へ行くと、同じような螺旋階段が見つかった。
広間の奥の方まで様子を見に行くと、他にも螺旋階段がいくつか見つかった。それでも、反対側の壁はまだ見えない。
地面は不自然に盛り上がったり凹んだりしており、その理由が分からないので不可解だったが、辺りを見回していた史紋が、「ここは、天井裏か?」と呟いた。
適当な螺旋階段を一つ選び、六人はゆっくり降りて行く。明かりの元は、螺旋階段の外側についた窓だった。
「なんだこれ」
鼓童が小さな窓の一つに寄り、声を上げた。
句朗も、彼より数段下まで降りて、隣の窓を覗く。
視界が一面金色だ。よく見ると、何か装飾品のようなものが、たくさんぶら下がっている。紙のように薄く、見たことのない文様を描く金の飾りが、いくつも繋がって吊るされている。
自分たちは、天井から降りてきたところらしい。装飾品の量が多すぎて、遠くの方や下の方があまり見えない。
六人は階段を下りながら、次々と窓を覗き込んだ。どうやらこの階段は、天井から突き出た大きな柱のようなものの、中のようだ。柱の中は白色だが、外側は金色らしい。
やがて六人は、その空間の全容を見下ろせるところまで階段を降り、窓を覗いた。
そこは地下であるとは信じられないほどの、広い空間だった。視界に入るもの全てが金色だ。
天井からは、金色の柱が氷柱のように生えている。地面までは届いていない。金色の装飾が、天井やその柱の下からぶら下がっている。その薄く繊細な大量の装飾が静止しているのが、なぜだか不気味に感じる。おそらく、自分たちがいる柱も、下までは届いていないのだろう。
下に降りるには、別の階段を探す必要がありそうだ。
天井からは、九頭竜国のぼんぼりのようなものもぶら下がっている。白い紙のようなものの上に、金色の細かい装飾が張り巡らされている。丸い紙の中には光源が入っているらしく、この空間全体を煌々と照らしている。民家が丸ごと入りそうなほど巨大だ。そのぼんぼりからも、波を描くような形の金の装飾が連なり、ぶら下がっている。
金色の壁には、様々な生き物が、半分埋まっているような形で造形されている。筋肉隆々の人間、鳥、獣、植物、何やら分からぬ者。その迫力が、この場所からでもうかがえるほど、巨大なつくりだ。像がない部分は、見たことのない文様で埋め尽くされている。
地面は段になっているようで、通路を開けるようにして、それぞれの段には何かが並んでいるようだ。ここからはよく見えないが、像か何かと推測できた。
段の下の方がこの空間の正面だろうか。そこには、壁に埋まっているものよりも一回り大きな像が鎮座している。
あれは、母……?
句朗はその像に目を奪われる。母を知らない彼が、母を連想するほどの、強烈な観念が伝わってくる。どうしてそんなふうに感じるのだろう。像の顔を見ると、人間のように見えるが、どこかカシャンボにも似ているように思える。息を呑むほど美しい。彼女のどこにでもいいから、触れたいという気持ちに駆られ、句朗は動揺した。
それは他のみなも同様だったらしく、口を小さく開け、その像に魅入っている。像の周りには金の柱、金の屏風、金の灯篭などが、整然と並んでいる。
「こんな空間、いったい、どうやって」
傘音が、感動したものか、あきれ果てたものか、どういう態度を取ればよいのか分からないといった様子で首を振る。
庵或留の生きてきた年数と彼の呪術を知らなかったら、いったい、何百人の人間が何十年かかって作ったのだろうと思ったことだろう。ただ、彼の呪術があったとしても、句朗に想像できるものではないが、とてつもなく長い時間をかけて作ったのではないかと思った。
「俺でも分かるぜ」
鼓童が溜息をつく。
芸術に興味のない彼であっても、とんでもない場所だということが分かるという意味だろう。
「あれ」
入が何かを指さす。
句朗が彼女のいる窓から下を覗くと、女性の像の足元に青いものが見えた。
その青が見つかるんじゃないかと、句朗はずっとどこかで予期していた。




