表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第十章 生生流転
110/124

10-1

 桂班らを乗せた黒駒は、大きな丘を迂回したところで止まった。

 南からは見えなかったが、丘の隣に大きな凹みがあり、そこに洞穴があった。その洞窟から、庵或留の元へと行けるようになっているらしい。


 憑き物の進入路へ到着したことを、史紋が四蛇に浮文紙で伝えると、六人は黒駒を降りた。憑き物が何体もいたが、ヘドリアがいるおかげか、襲ってくることはなかった。

 六人は、洞窟の中へ足を踏み入れた。


 蝋燭が燃え尽き、二本目に差し替えた頃、潮から史紋の元へ連絡が来た。庵霊院の奥で、庵或留の遺体が見つかったらしい。


 桂班の五人は驚いたが、「継承されたということでしょう」とすぐにヘドリアが言った。


「向こうも、そう考えているらしい」

 史紋が浮文紙を見ながら言う。


「ヨアは?」

 鼓童が短く確認する。


「返事が来た。無事なようだ」


 庵或留が継承されたということは、彼の血縁の、彼よりも若い誰かが死んだということだ。

 ヘドリアがこうして傍にいるので、他の候補者であるスムヨアの身に、何かが起こったのかもしれないと考えたのだ。


「でも、継承した後の庵或留が、そう書いているのかもしれない」

 入が指摘する。


「ちょっと待て」

 史紋がまた潮の方の浮文紙を読む。


「庵或留の遺体は、死んでからかなり時間が経っているらしい。二、三十日くらい前に死んだ可能性があるとのことだ」


「じゃあ、ヨアとヘドリアは違うね」

 入はほっとしたように言う。


「少なくとも、ヨアには継承されていないだろう。この旅に出る前に何度も、魂の見られるワロさんと顔を合わせているから」

 史紋が言った。


「私には継承されている可能性は、一応あるみたいですね。ただその場合は、ノウマの時に乞除に解呪されて、ここに至るまで、全てが演技ということにはなりますが」

 ヘドリアは静かに言った。


「考えられないよ」と入が首を振る。


「きっと、庵或留の継承候補は他に何人もいるんだろう。七人呪師を絶やさないことが彼の目的の一つだから、継承候補が多くいても不思議じゃない。庵或留の姿が変わっているということだけ、覚えておこう」


 洞穴は、大型の憑き物でも通れるように、十分に広い作りだったが、それでもその暗闇と閉塞感に、句朗の気持ちも塞いだ。暗闇は、人の心を挫けさせる。

 四蛇にイクチの巣穴の話を聞いたことがあるが、きっと彼もこんな気持ちだったのだろう。彼は又旅の吹く笛が慰めになったと言っていたが、句朗もそれを懐かしく思った。


 休憩中に一度、桂班に追いつくように、憑き物が現れた。

 ヘドリアが前に立つと、憑き物は去るでもなく、うろうろした後、その場に座り込んだ。


「何か飲み込んでいる」


 ヘドリアがそう呟いて傍に寄り、憑き物の腹をさすると、口のような穴を大きく開けて、野干を吐き出した。そして憑き物は、仕事を終えたかのように洞窟を引き返していった。


「ハカゼの野干を運びに来たのね」

 傘音が言う。


 ヘドリアは何も言わず、不器用に左目だけを閉じると、ぐったりしている野干の上で両手を動かし始めた。しばらくすると、野干は震える四肢で身体を起こし、力を振り絞るように、とぼとぼと出口の方へ歩き始めた。


 史紋と入がそれを追いかけると、水を手のひらに出して与え、食べ物も少し与えた。野干は考える余裕がない様子で、口元に差し出されたそれを舐め、また歩き始めた。


「普段そいつの肉を食ってるくせに、こんな時だけ優しくするのは矛盾してる」

 鼓童が、いじわるを言った。


 何本ものろうそくが燃え尽きた頃、庵霊院の近くだと思われる場所に着いた。ぽつぽつと、電球がついている。いつのまにか、地面も壁も、なめらかな白い石に変わっていた。

 スイッチを見つけたので操作すると、明かりがついた。


「変な匂いがする」

 入がそう言って、不安気に傘音の傍に寄り添った。


 空気が淀んでいるような気がする。身体が拒否するような、鼻の奥がツンと痛くなるような不快な匂いがする。奥の方から漂ってくるようだ。


 白い通路は、いくつかの道に分かれていた。適当に探索していると、ハカゼの生き物が集められた檻を見つけた。既に絶命しているように見える生き物もいる。

 憑き物が連れてきたハカゼの生き物は、ここへ集められるのだろう。匂いの元はここのようだ。狭い場所に詰め込まれ、糞尿にまみれている。餌は与えられていない様子だ。


 檻の入口は、外から簡単に開いた。ヘドリアは躊躇せずその中に入ると、近くにいた生き物から、すぐにハカゼの治療を始めた。


「みんなを治療するような時間はないと思う」と入が遠慮がちに言う。


「ええ」

 ヘドリアはそう答えながらも、治療を止めない。


 入はそっと彼女に近づくと、それを熱心に見る。魂が見え始めている自分にも、治療ができるかもしれないと思ったのだ

 。隣のハカゼの生き物の上にそっと手を伸ばしてみたが、魂の管は指に触れず、すり抜けた。ただし、入の指を避けるようにふわりと歪んだ気がして、入は驚いた。


「おい!」

 鼓童の声が、遠くの方から聞こえた。一人で離れて探索していたようだ。


 みんなが声の元へ行くと、鼓童は、ある檻の前に突っ立ち、その中を見つめていた。

 狭い檻の中に、膝を抱えた女性が、ひとり座っている。


「あれは……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ