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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第九章 献身と自由
108/124

9-8

 あらかじめ決まっていた通り、白駒には四蛇、潮、ワロ、スムヨアが乗り、名曳の身体も一緒に乗せられた。黒駒には、桂班が乗った。

 それとは別で、同行を申し出た皇子とエノキは、数人の蒼羽隊や翠羽隊と一緒に鳩車に乗って、九頭竜国へ向かった。そこで久遠組と宗方組の執政官を乗せ、庵霊院へ向かうらしい。

 目有も同行を望んだが、エノキらの反対を受け、断念した。万が一、魚冥不が目有に継承されると、非常に厄介なことになるからだ。


 句朗は黒駒に揺られながら、この日が油隠にとって、歴史的な日になるのではないかと思った。気が立っているはずだが、夢の中にいるみたいに現実味を感じられなくて、不思議な心地だ。何も具体的なことは考えていないのに、意識は研ぎ澄まされている。

 木偶が先ほどから句朗の髪で遊ぶように、顔の横をうじうじと動いているが、句朗はそれに気づかない。


 ふと、入がこちらを見ているのに気づいた。少しだけ首を傾げている。入は句朗と目が合うと、なんでもない、という顔をして目を伏せた。

 句朗の魂を見ていたのだろう。入は解呪されてから、魂に興味津々のようだった。自分の正体を告げられるのだとしたら、ワロさんか、入か、どちらから聞くのが傷つかずに済むだろうか。


 ザムザに到着すると、又旅、茶々、ヘドリアが出迎えた。乞除は同行しないらしい。庵或留の件が片付いてから始まる大仕事を思うと、気が重いから、今回は休ませろとのことだった。

 佐治も乞除に付き添うため、同行するのをやめた。


 ヘドリアは黒駒に乗り込み、歯を食いしばるような表情をした。代表で史紋がヘドリアと握手し、みんなを簡単に紹介した。特別な感情を含まない、堂々とした態度だった。それからヘドリアに口を挟ませずに、史紋は一番前の席への、着席を勧めた。


 彼女に謝罪させる隙を与えてはいけないと、又旅から言われていたからだ。謝らせる機会を与えてしまうと、彼女の心は壊れてしまうかもしれない。また、一番前の席を勧めたのは、言うまでもなく、魂を見させないためだ。蒼羽隊の魂には、ヘドリアの罪が刻まれているため、今はそれを見せたくなかった。


 又旅は、心配そうに手を振りながら、黒駒を見送った。又旅らは、人数と作戦の関係で、あとから来る白駒に乗る予定だった。


 スムヨアとヘドリアの話を合わせると、庵或留の住居は庵霊院にあるらしい。

 ただし、憑き物が、ハカゼの生き物を連れ帰るのは、当然別の場所である。それは庵霊院から、半日ほど蕪呪族の村の方向へ歩いたところにあるらしい。潮らは、その憑き物の進入路と庵霊院が物理的につながっているのではないかと読み、二手に分かれることにしたのだ。

 白駒は庵霊院、黒駒は憑き物の進入路へ向かっている。万が一、庵或留が逃げようとした時のため、同時に侵入する予定だった。


 又旅はヘドリアと離れることを心配したが、彼女は桂班の方へついて行くと申し出た。その辺のことは自分が一番詳しく、また憑き物の数も多いだろうから、というのが理由だった。


 白駒が門前市へ着いたのは、夜中だった。そのまま待機し、夜が明ける頃に、史紋から連絡が来た。黒駒の方も目的地に着いたらしい。


 又旅、茶々、四蛇、潮、ワロが白駒から降りた。

 スムヨアは、エノキらの乗る鳩車を動かす仕事があるため、庵或留の居場所が分かるまではいったん同行せず、名曳の身体と一緒に白駒内に待機することになっていた。鳩車がどちらへ向かうのかは、状況次第だ。


 一行は、スムヨアに一旦別れを告げ、門前市を歩き始めた。早朝の門前市は、静まり返っている。庵霊院までの道中、酔っ払いと一度だけすれ違った。彼は物珍しそうにじろじろとワロを見た。


 庵霊院の門は、当然閉まっていた。近くに来客を知らせるブザーのようなものは見当たらない。客が来るような時間帯は門を開放しているため、必要ないのだろう。

 茶々が軽々と門を飛び越え、内側から器用に閂の鍵を開けた。


 玄関の脇にあるブザーを押してみたが、誰かが出てくる様子はない。庵霊院に何人の従業員が暮らしているのかは不明だが、みんな眠っているのかもしれない。庵或留が事情を察して、迎え撃つ準備を整えている可能性もある。


 一行は、侵入できるところはないかと、辺りをうろついた。

 又旅がみんなを呼び、そちらへ集まると、彼女は薄いガラスの小さな窓の前にいた。人が通るには小さすぎる上に、高すぎる位置にある。

 まず潮が手を伸ばし、その窓から中を覗いた。誰もいないようだ。持参してきた道具で窓を割り、又旅が茶々に憑いてその中へ飛び込んでいった。

 玄関の前で待っていると、やがて又旅が鍵を開けた。又旅は術を解き、自分の身体に戻った。


 入ってすぐの広間は真っ暗で、静かだった。ワロがすべての通路を見て回って、誰もいないことを告げた。魂が見えるので、一見して誰かが潜んでいるのかどうか分かるのだ。

 おそらく、庵或留がいるのは、庵霊院の奥の方だと思われる。怪しいのは、彼が普段ハカゼの治療を行う部屋だ。その近くから、庵或留の生活している場所へ行けるのかもしれない。四蛇は昔訪れた時の記憶を辿ろうとした。


 ワロを先頭にして明かりを灯し、慎重に進んでいく。四蛇のうろ覚えの記憶から、何度か通路を間違えながらも、なんとか、庵或留が治療を行う部屋の前までたどり着いた。

 ワロが細く扉を開け、中を覗く。

 そのまま中へ入るのかと思いきや、一度扉を閉め、ワロの指示で通路を引き返した。


「手前の棚の上、右と左にそれぞれ一人ずつ潜んどる」


「名前は分かりますか?」

 又旅が素早く問う。


「いや、分からんかった。一目しか見ていないからなあ。人間だということと、今の背格好が子供のようで、二人がよく似ていることしか分からんかった」


「シャン坊とプー坊かもしれない」


 四蛇はシャン坊とプー坊について素早く説明した。


 又旅に考えがあるのか、茶々にムネンコの術をかけると、又旅の身体を邪魔にならないところに置くよう指示して、三人を扉の前に集めた。

 又旅は発声する位置を調整するため、ワロの肩の上に乗った。

 扉の両脇には、武器を構えた四蛇と潮が準備する。潮は、鎖に鉄球がついた不思議な形状の武器を持っている。掌を塞がなくて良いように作られた、手の目専用の武器だ。


「シャン坊、プー坊、こっちへ来なさい」

 又旅は、庵或留の低くしゃがれた声で、堂々とそう言った。


 耳を澄ましていると、「シッ……。アノアとその山彦だ」という声が、扉の向こうから聞こえた。


 いとも簡単にばれてしまったので、又旅は術を解き、戻ってきた。

「なんでばれた?」と首を捻る。


 潮が近くに寄るよう指示し、素早く次の提案をした。

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