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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第九章 献身と自由
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9-5

 スムヨアは治療が終わると、すぐに身体を起こした。その表情は、目有の知っているスムヨアに近かった。

 彼女は周りを見渡し、わずかに動揺を見せると、先ほどまでのことを思い出したのか、ばつが悪そうな顔をした。


「スムヨア、話を聞いてくれますか」

 潮が尋ねる。


 スムヨアは「ええ」と潮の顔を見て返答したが、こちらを見るべきなのかしら、と潮の手のひらにも視線を向けた。その仕草がとても人間らしくて、ほっとするのと同時に、これでやっと話し合いが始まるのだと、目有は気持ちを引き締めた。


「俺は九頭竜国の久遠組の潮です。宮殿で何度もあなたを見かけました。

 あなたと庵或留と魚冥不のやってきたことは、これから全部明るみに出るでしょう。憑き物にワロドンののど骨を使って命を吹き込んでいたことも、蒼羽隊のためにハカゼの患者を流していたことも、呪術で記憶を消していたことも」


 スムヨアは潮を見つめ、大人しく彼の言葉を聞いている。


「九頭竜国の久遠組、宗方組の人間はもちろん、エノキにもこの話は伝わっている。あなたが殺したハルバが、エノキに呪術で助けを求めていたことで、話はすぐに通じました。彼がこの国の皇帝に話をするのを手助けしてくれるでしょう。

 そしてこちらには、解呪の呪師がいる。あなたのお知り合いの乞除だ。既に、憑き物の解呪に取り掛かっています。それに、蒼羽隊の解呪にも。ここにいる桂班の五人は、既に解呪されています。

 ノウマにも接触して、本当のことをすべて話し、こちらに引き込みました」


 スムヨアは目を丸くし、眉間にしわを寄せている。彼女がどう出るのか分からないため、みなは息を止めて彼女を見守った。

 四蛇が目有を守るように、前に進み出る。


「蒼羽隊と憑き物の関係性を継続するのは、もう無理なんです」


 スムヨアは目を見開いたまま、ゆっくり視線を動かす。何かを考えている様子だ。


「これから、庵或留のところへも、降伏を求めに行くつもりです。あなたたちの行いは、もう、これで終わりだ」


 スムヨアの瞳に、一瞬邪悪なものが浮かんだ。

 それはすぐに消え、悲しい表情になる。それから挑戦的な怒りの表情。

 彼女の表情はころころと変わる。

 何かが起こる予感がして、四蛇が目有をしっかりと背中に庇う。


 スムヨアは、おもむろに天井を仰ぐ。


 絞り出すような声で、スムヨアが言った。

「これで……やっと終わる……」


 彼女の頬を、涙が伝った。


 蒼羽隊らが戻ってきて、一時的に騒ぎになった。

 彼らの制圧を受け、一同は両手を上げて壁際に寄ったが、スムヨアの指示でそれは解かれた。

 蒼羽隊と共に駆け付けた翠羽隊の医療班が、すぐに治療を始めた。入が浮文紙でリオコに伝えて、連れてきてくれたらしい。


 困惑する蒼羽隊を前に、句朗は居心地の悪さを感じた。

 一番前にいた火湯が、敵意のこもった視線で、見張るようにこちらを見下ろしている。彼は全く躊躇せず桂班を弾圧しようとした。この中では、羅愚来と並んで一番おっかない存在だ。この男は仕事を愛しすぎているため、ある意味、話が通じないのだ。


 潮が、九頭竜国の久遠組の潮であることを名乗り、最低限の情報を繕いながら、経緯を説明した。

 ヨアたちが、憑き物及びノウマについて情報を隠匿しており、それを開示してもらうために来たという話と、ここにいる桂班及び他の人間たちは、その協力者であるという話をした。


 翠羽隊は手当を続けたが、それをやめさせるべきか、火湯は迷っているようだった。


 スムヨアは疲れ果てた様子で長椅子に座っていたが、自分のやるべきことを理解している様子で、やがて立ち上がった。


「私は、みなさんを騙していました」


 蒼羽隊が静まり返る。


「ノウマは呪術によって操られていました。憑き物もまた、同様です。本人らの意思にそぐわなくとも、他の生き物を攻撃するように操られていたのです。これからは、甘依の術や攻撃によって彼らを殺すのではなく、彼らにかけられた呪術を解呪する方向で、体勢を見直します。私はこれまで、それを知った上で、隠していました」


 目有は、まだ自分の気持ちが混乱している中で、スムヨアに対して感謝の気持ちを抱いた。


「彼らの説得を受け、私がその罪を認めたのです。近いうちに、全てが明らかになることを、約束します」


「ノウマと憑き物は、いったい誰が操っていたのですか」


 隊長が質問し、スムヨアが言葉に詰まると、潮が引き取って答えた。


「そのへんの事情を話すには、あまりにも時間が足りない。しかし、そう時間を空けず、問題が解決することを、約束しよう。

 既に、我々はノウマを味方に引き入れた」


 蒼羽隊がざわめく。彼らの表情を見るに、嘘だと思っているようだ。

 隊長の叱咤により、また静まり返る。


「本当に彼らを信用していいのでしょうか。今なら、我々で簡単に抑圧することができます。人質を取ることも容易です」


 火湯が言う。脅されたり諦めたりしているのであれば、言ってくれと言う意味だろう。「石頭め」と入が独り言を呟いた。


「この方たちは、油隠のために命を懸けて尽くしてくださっています。私の過ちも、危険を承知で正してくれたのです。まだ少しでも私への信用が残っているのであれば、彼らの味方になり、油隠を救う助けをしてください」


 応急手当が終わり、怪我人が医務室へ運ばれていった。

 残された人間が、これからどうするべきかと気まずそうに顔を見合わせていると、スムヨアが四蛇のところへやってきて言った。


「あなたの叫びで、勇気が出たのです。ありがとう」

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