Ver.0.1.0 "不具合"
──落ち着かない
智己の頭には学校に登校してから平穏が訪れていない。否、あの両親を失った日からかもしれない。
智己はリビングの椅子に腰掛け、頭を抱える。そのそばでは香枝が自宅のように寝そべっている。
「飯は食べて」
「ありがとう!」
「ですよね……」
香枝は待ってたかのように満面の笑みと共に返事をする。まだ夜とは言い切れず始まったばかりの時間だ。一緒にした部活が終わってからの経過時間を考えると、食べている確率は低かった。
「冷蔵庫に何も無いし、ちょっと買ってきます」
「んじゃー、私もいくよ」
他人を家に残し出かけようとしていたことに恐ろしさを一瞬感じたが、一緒に行くなら、と安心する。
店がが閉まる前にと部屋の電気を切り、早速出発する。
玄関を出ると外はかなり冷えていた。いつも使っていた店は徒歩でも行ける範囲だ。
智己が思っていたよりも寒く、その上薄着だった。
「手でもつなぐ?」
寒そうな智己を見て香枝は純粋にそう言った。すると近所の前で話していた人にはクスクスと笑われているような気がして諦めるしかなかった。
「ゲット、ふふ」
照れてそっぽを向いて黙っていると香枝いた方の右手だけ掴まれる。智己は点火されたように体温が上がり季節はずれの汗をかく。
初体験で何を言えばいいかも分からず黙って歩き始めた。
店につき品を見ながらメニューを考える。智己の頭のメニューの本は薄く、人にごちそうできるほどではない。
反対に近くにいた香枝は智己と繋いでいる手を引いてカゴに次々と入れていった。
「もしかして料理できる人ですか?」
引っ張られながらの質問に回答はない。いつしかカゴはいっぱいになっていた。
会計を済ませ帰宅する。家で気づいた時の右手にはまだ香枝の手があった。
レジ袋の中身を広げ、冷蔵庫へと入れているとエプロンをした香枝がいた。先程まで締まっていたカバンは開いていたため、元々持ってきたものだった。
「さて、白河くんはお勉強しててね。出来たら言うから」
手伝いの時間を勉強へと回された。学校の勉強ではなくプログラミングの勉強だ。智己は香枝の腕前を気にかけながらもパソコンを立ち上げて始めた。
智己がお世話になっているサイトの単元が二つ進んだところで香枝からお呼びがかかった。見ていなかったテーブルに目をやるとパーティーのような豪勢な食事がいくつか置いてあった。
「作りすぎじゃないですか!? 僕は比較的少食なので残るかもしれないですよ」
「ちょっと作りすぎちゃった。でも作っちゃったし食べようか」
そんなテーブルを挟んで対面して座る。小さい頃から言い続けている挨拶で食事は開始した。
作りすぎるというだけあって腕は確かなものだった。食べている時は静かな方の智己も一つ一つに感想を付けて食べ進んだ。頭にエネルギーを使うのか、智己が思っていた以上に香枝は口へ運んだ。
食事が終わると片付けをそのままに部活再開。硬式野球部以外にやっている所はない。文化部なら夜に部活はありえない。
「白河くん、ここに顔描いてくれる?」
「こうですか?」
接続されていた黒い板に適当に思いついたアニメのキャラクターの顔を簡単に描く。描く線はリアルタイムに画面に表示された。
「絵うまっ! 私はからっきしだからいつか頼るね」
智己には人以上に絵をかける才能があった。こんなところで使うとは思っていなかった。
出来た絵を眺めていると、顔の各部位として書いたところにポイントが当てられる。
香枝の考えに智己は理解できなかった。
「絵が上手かったとは運がいい。じきじき必要になるんだよね。それでこれは画像認識をしてるの」
「僕より上手い人なんていくらでもいますよ。先輩も描いてみてくださいよ」
興味本位で言って見ると香枝の顔は硬直した。何も考えていない様子で描き始めると、智己には衝撃を与える絵だった。
認識するためのポイントは散らばり、不具合を起こしたような動作をする。香枝の目にはなんの感情も見当たらない。
「なんかすみません」
謝る以外の次の行動の選択肢はなかった。二人は元の作業に戻る。
テレビのゴールデンタイムが終わるときも二人のモニターは点灯していた。香枝は飽きずに熱中しているものの智己机に伏していた。彼の意識は眠りの中。そして香枝が伸びをすると智己が寝ていることに気づく。近寄って頬をつつくが起きようとしないことを確認し、カバンを漁って部屋を出ていった。
それから数分後智己は眠りに浸かりながらも起きる。
朦朧とする意識の中『歯磨きを終えてから部屋で寝る』ということだけが支配する。智己は自分の予想以上に疲れている。重く痺れた足を伸ばして、半開きの片目を頼りにで辺りを見渡し洗面台へ向かった。




