82.
しばらくセランダータ達と一緒におしゃべりとした。
女王さまとか自分の意見とかそんな話を続けたのではなく、もっと楽しい話だった。お菓子やお茶を持ち込んでお茶会になっていた。
話題は秋に採れる木の実でたっぷり混ぜてつくるパンは美味しい、夏の野苺も美味しい。冬には脂ののった肉のシチューが体も温まってとても美味しいという食べ物の話から、風景がとても綺麗だから今度ぜひ一緒に行きましょうと約束した素敵な場所の話で、明るい二人にカルシィはセランダータの膝から降りて、笑顔を浮かべられるまで回復した。
カルシィの表情に安心したようにおしゃべり会は夕方、お開きとなった。
太陽もたっぷりと傾き、そろそろ夕食の支度をしなくてはならない時間だったのでセランダータもいろいろ忙しいはずだ。それどころは半日をカルシィに付き合っていたのだから、こなさなくてはならない仕事は山積みになっているだろう。
それにカルシィも、ロゼンの事が気になっていたから。
「あの・・・部屋に戻ってます」
申し出ると、セランダータは
「それがいいかもね。ロゼンもあまり放っておくと拗ねるだろうし・・・。でもいい?もしもロゼンがまだ苛々していたり落ち着いていなかったら、無理せず、さっさと離れる。それがロゼンにとってもいいことなんだから。馬鹿をやらかしてしまったらずっと恥ずかしさと後悔に苛まれるんだからやめた方がいい」
明るい声で茶化すようだったけれど、セランダータは真剣な目をしていて、しっかりと約束させてから、カルシィを部屋まで送った。
扉を開けるとロゼンは戻っていて、壁を背に膝を抱えてぽんやりと考え事をしていたようだった。扉が開き、カルシィの姿を目にすると慌てて腰を上げた。
「さっきは・・・悪い、悪かった・・・。もういいのか?」
「うん。・・・あ、でももしロゼンが、嫌だったら向こうに行っているよ?・・・」
心配そうなカルシィにロゼンはすぐに否定した。
「っんなわけ、ねえよ!」
「うん。・・・じゃあ、よかった・・・」
「あんたと違って、カルシィは繊細なんだ、泣かすなよ」
セランダータがドスをきかせたので、
「わかってるよ!何度も同じことしねえよっ!」
ロゼンは睨み返したが、その様子を見たセランダータは普段に戻っていると安心して部屋を後にすることが出来た。
二人きりになったロゼンとカルシィには、少しぎこちなさが漂っていた。
なぜってそれはーーー。
「あのさ、よくわからないから聞くけどさ・・・おまえって今、女になっているってことじゃん。・・・そうすると、男の俺とこうして一緒の部屋にいるって嫌なのか?」
ロゼンは真剣だ。これは初めての体験である。
「・・・女の場合、言うだろ。部屋の扉は開けとけとか・・・、いや、そもそも男と二人っきりになってはいかん、とかいう話も言われるよな・・・」
聞いたカルシィは、あまりのロゼンの動揺ぶりに、思わずぷすっと笑っていた。
笑うことが出来た。
「ロゼンは女の子相手だと態度がずいぶん変わっちゃうんだね・・・」
「それはっ、そうだろ、女でもおまえだし適当に出来ないし・・・。それに言われた、怯えさせているって・・・」
「・・・ごめんなさい・・・さっきはわたしの態度がわるかったね。・・・いろいろわからなくなっちゃっていて、ロゼンに酷いことした・・・」
カルシィはうな垂れて謝ったが、ロゼンはそんなことはもうそれほど気にしていなかった。
大切なのはこれからだ。これからを怯えさせないようにしないことが肝心だった。
「別にそれはいいけどさ、俺、女にならないからわからない、だから言ってくれ、俺はおまえが言うようにするよ。女になっているときは触ったりもよくないよな・・・じゃあ、そういう間は部屋も別にーーー」
自分のために必死に考えていてくれることがひしひしと伝わるロゼンの緊張と狼狽ぶりがとても温かく、心に浸みたのだ。
だからカルシィはロゼンに跳び付くように抱きついていた。
「おいっ・・・」
「よくわからないよ。・・・ロゼンは、女のときのわたしとそういうことしたいと思うの?」
「俺だって、いきなりそんなこと言われたってよくわからないっ」
怒った声だったが、それほど怒っていないことはわかっていた。
ロゼンはロゼンだったから。
「今までのままがいいな・・・って思う。よくわからないから、今までと一緒がいい・・・」
「・・・ああ。わかった。・・・俺としてもそれがいいなと思っていた。難しくて細かい要求されても、覚えらんないかもしれないからさ・・・」
照れたように笑った。
ロゼンがどきまぎしているのは、普段より抱きしめる身体が柔らかいような気がするからだ。いつもより、か細くてうっかり力を込めたら壊しそうだと緊張してしまうのだ。
「それとね・・・」
躊躇った後、思い切っていった。
「ロゼン、言ったよね。こっそり逃げだそうって・・・」
ロゼンは表情を引き締めて、続きを促した。
「・・・あのね、少しね、外に行きたくなったの・・・」
ロゼンを見上げて訴えた。
「駄目かな?・・・ずっとじゃなくていい。少しの間だ、ここから離れて考えたい。ロゼンも来て欲しい・・・」
「ああ。そうしよう」
ロゼンに異議はない。カルシィがそうしたいのなら、尚のことだった。




