73.
セランダータに説明して貰うつもりだったけれど、レネドになってしまい予定外だったけれど、今さら引き返せない。若長だからレネドに聞いた方がいいのだろう、不満はあるがメルヴィアに聞くよりかマシとロゼンも思い直した。
「あの、メルヴィアさんが言ったこと・・・ロゼンが新しくて、古いって、そうじゃなければ排除っていうお話・・・よくわからなかったです。ロゼンは排除されてしまうところだったのですか?」
聞いてからカルシィは不安に包まれている。ロゼンの反応によっては引き離されたのかも知れないという恐怖感がじりじりと湧いていた。
「ああ。あれは少々言葉が強かった」
レネドは穏やかに言った。
「排除はしないよ。でももっとロゼンを警戒するようにとメルヴィアはカルシィくんに言っただろうね。身を守る手段が相手に通じないならば、当然だよ」
首を傾げるカルシィの代わりにロゼンが、
「新しいというのは人間交じりって言いたいんだよな?ってことは、そう言う奴にはカルシィがやった頭痛とか、ああいうのは通じないってことなのか?」
「そう、だ。どうした、ロゼン、察しがいいじゃないか」
褒められているのか馬鹿にされているのかよくわからない、しかも相手がレネドなのでロゼンは顔を顰めたが、質問をやめなかった。
「信じられねえ。実際にいたのか?」
「いたよ。人間の血が混ざって・・・それだけでなく世界と共に次第に変化してきているのかもしれないが、いろいろ変化が生じている。俺が老人たちに比べて弱いとは話したよな。人間の中で生まれて一人きりで苦労をしたことも影響はするとは思うが、人間交じりの野良たちは血気盛んな傾向がある」
「血気盛ん?」
「良く言えば素直と言うことだよ」
レネドは、ロゼンに対してぞんざいでもカルシィに対しては丁寧だった。
「いいという物を心からいいと思う。欲しい物はとても欲しい。多少乱暴してでも欲しい。多少乱暴することが出来ることを知っているから、積極的に手にれようとする」
いい物、欲しい物と具体的には一言も言わなかったけれど聞いたロゼンは憂鬱になっていた。
いい物には心当たりがある。
ロゼンも惹かれるものだ。ロゼンよりももっと強くそのいい物を手に入れようと追及する性質があって、そいつらには持てる力、攻撃力が通じないーーー。
漠然としていたものが姿を持って、見えてきていた。
「あいつは、怪我とかしたのか?」
レネドがすうっと表情を消した。
カルシィからロゼンに視線を戻して
「えらく今日は賢いなーーー」
押し頃した、消しきれない怒気を漂わせた声ににロゼンとカルシィは、怯んでしまったが丁度その時、セランダータがお茶と菓子の用意を持って戻ってきた。
口にしてはならないことだったのかと思った。けれどとても大切なことのはずだ。カルシィにとって。同じ失敗をしないために知る必要があるのではないか。
「その通りだよ。メルヴィアは襲われて負傷したーーー」
「セラン」
「こんな重要なことを隠しておくつもりなのか?無理だよ。そこに危険があることをちゃんと知っていてもらわないと、用心だって出来ないよ」
苦しげで厳しい表情でセランダータはレネドを見据えて、やがてレネドが折れた。
「代わりに説明してやってくれ」
低く言った。
セランダータは運んできたトレイをテーブルの上に置いて静かに続けた。
「ロゼンなら、もうわかるよね。私らはひどくメルヴィアに惹かれる・・・」
「俺はっーーー」
「あんたは先にカルシィに出会ってて、メルヴィアには惹かれないのか?そのへんはよくわからないけど、私はカルシィを会って、ああ、いいなと感じたよ。里の者はそう思っているみたいだ。惹かれながら恐れている。いいなと思っても違いすぎて、恐くって手を伸ばせない。壊してしまいそうでーーー上手く通じるといいんだけど、いいなと思っても心が竦んでしまう、たぶん、本能的にそう組み込まれている。そして、彼らの一族には、細くて可憐でも私らに対抗しえる自衛手段もあるから、私達二種族はそれなりに上手く付き合ってこられたーーー」
「惹かれるだけ惹かれて、歯止めとなる思いは持ち合わさない。武器も効かないーーーは壊滅的状態だ。あり得ない事態が起こっているとしか言えない」
苦々しげにレネドが吐き捨てて、
「だから、おまえは本当に気絶して良かったんだよ。でなければ、いずれは引き離す方向に仕向けたはずだ」
レネドとセランダータの話は理解が出来た。理解した上で、言葉が出なかった。
「悪いな。怖い話をしてしまったかな?」
カルシィはふるふると首を横に振っていた。
カルシィにもぼんやりと見えていた。
「・・・アビールが、そう?」
理屈ではない恐怖感を感じたアビール。メルヴィアのお陰で最初よりは平気にになっていたけど、感じた訳のわからない感覚がそれだと言われたら納得できる。
「ああ、そうだね。基本的に俺達はカルシィくんを追い詰めることは出来ないんだ。今でも、ぞわぞわ体中に攻撃波が走っている、やめてくれって感じだよな、ロゼン?」
「あ・・・う、ん、・・・結構、そういう感じは、ある・・・」
「えっ、そんな、わたしは何もしていないよっ」
「無意識だものね、わかっているわ。メルヴィアが起きたことも関係しているのでしょうね・・・今まではこんなにはっきりとしていなかったから・・・」
セランダータも引き攣った笑みを浮かべていて、三人がカルシィのせいで不快感を味わっていることは疑いなくなっていた。
どうしようと慌てるカルシィの前で扉が勢いよく開いた。
そこに立っていたのはメルヴィアで、カルシィは硬直する。
「何をやっている。子供を寄ってたかっていびって楽しいか!」
「誤解だ、メルヴィア、俺達はただ彼に聞かれたことを答えていただけでっーーー」
レネドがとても慌てていたわけは、メルヴィアからの追撃を恐れてのことだったのだと後でカルシィも気が付いたが、そのときには気が動転していたから、メルヴィアに言われたこともほとんど理解できなかった。
「こっちまで感情が伝わるっ、不快だ、やめろ」
眉根を寄せて首を傾げただけのカルシィの反応に、メルヴィアは意外にガラ悪く、小さく舌打ちをした。
よくわからないけど、わからないけど、怒られるっ!




