46.
カルシィがメルヴィアを二度目に訪れたとき、最初と同じように心が震えるような気持ちになった。
でも今回は泣かずにいられそうでほっとした。もうきっと泣き虫で弱虫だと思われてしまっているだろうけど、セランダータは自分のために心を痛め、心配するから避けたかった。
セランダータだけでなく、ここのみんながカルシィを大切に思ってくれる。
やってきたばかりでまだ性格だってわかっていないのに手放しで歓迎してくれるのは、カルシィが羽風という特別な生き物だからーーーというよりも、メルヴィアが愛されているからだと考え方が理解しやすかった。
でもそういうことだと思うのだ。
メルヴィアが嫌われていたなら、カルシィのことだって嫌だと感じるはずだろう。
大切に守られ、愛されているメルヴィア。
眠り続けるメルヴィア。
きれいなメルヴィア。
何を思って生きてきたのだろう。この里で。
どうして眠ってしまったのだろう。
レネドは、メルヴィアが起きようと望んだとき、目を覚ますのだと言った。
起きることを望まないようなことがあったということだろうか。
それは悲しいことなのだろうか。
メルヴィアに比べてずっと子供だろうとカルシィも、悲しみはいろいろと知っている。それよりももっとずっと悲しいこと、だろうか?
「話がしてみたい・・・」
自然に沸き起こった思いは、言葉になって口からこぼれていた。
逃さなかったセランダータが、カルシィの身体を前に押した。ベッドに、メルヴィアへ、だ。
「手を握って、伝えてみたら?」
「でも、勝手に触るのは・・・」
知らないカルシィが許可なく身体に触れることは、嫌ではないのかと心配になっていた。
「そうだね・・・メルヴィアはいろいろ繊細だから・・・」
カルシィは一歩退こうとしたけれど、セランダータがその手を掴んでひょいと引いた。驚く暇もなく、シーツの上のメルヴィアの手に重なっていた。
「なら、気分を害したメルヴィアが目を覚ましたときに、精一杯謝ることにしましょう。私も一緒につき合うから心配しないで」
にっこりと微笑んだセランダータは、椅子を用意してカルシィを座らせると、自分ももう一つの椅子を引き寄せて横に座った。
「レネドアードから、どのくらい聞いているの?あいつは、メルヴィアのことどんなふうに言ったのかな?」
「ほとんど、何も・・・聞いていません・・・」
「あいつは、会わせるからとあなたを連れられてきたのではないの?」
「違います・・・最初、里に行けば、生きていられるって言われて・・・」
カルシィは死の恐怖に苦しんでいた。
生まれつき弱い身体。
呼吸が苦しくて、息ができなくなって、自分はもうすぐ死んでしまうだと怯えていた。
ロゼンと一緒にいると空気が温かい感じがして、気分が良かったから、レネドの言うことも信じられたのだ。
死なずに生きていられる方法があるのかもしれないと。
「・・・そうね。ここの空気は優しいと思う。そう言う立地の場所なの。レネドの言ったことは嘘じゃないから安心していいから」
丁寧に肯定して、じゃあ、と言った。
「じゃあ、本当にメルヴィアのことは何も?」
「・・・わたしが、ロゼンと違って、ぜんぜん走れなくて卑屈になったときに、間違っているって。・・・わたしにも魅力はあるって。メルヴィアに会えばわかるって・・・教えてもらった、それぐらい・・・」
「そうなんだ」
セランダータはふうっと一つ溜息を吐いた。
「それだけしか聞いてないなら、もう少し話ができることがあるよ。聞く?」
もちろんだった。
「メルヴィアは、私たちとずっと一緒にいたんだ。私たちーーー私と、レネドアード、トランザという男と三人なんだけどね、悪餓鬼三人組の相手をよくしてくれた。怒られてしょげたとき、ご飯抜きのバツをもらってひもじいとき、悲しいとき、腹が立ったとき、暇なとき、メルヴィアに会いに行った。するとメルヴィアは、迷惑そうに煩そうな顔をするんだ。けれど、けっして私らを追い返したりはしない。無口だけど、話しかけることは無視しない。子供のくだらない質問にもちゃんと答えてくれた。私らはメルヴィアのことが大好きだった。物心ついた頃からずっと、いいや、私らだけじゃない、私らの親たちだって、爺さま婆さまたちだってみんなだ、メルヴィアのことが大好きだ。けれど、それだけじゃ駄目なんだろうねーーー」
優しい表情でセランダータはメルヴィアとの思い出を語って聞かせていたけれど、笑顔は曇った。。
大きく目を見開いて聞いているカルシィに、セランダータは少し寂しそうに言った。
「だから、眠ってしまった。目覚めないっていうのは、そう言うことなんだと思うんだ」
あなたなら、とセランダータは自分よりも小さなカルシィの手に、メルヴィアの手を取るカルシィの上に自分の手をそっと重ねた。
おつきあいいただき、
ありがとうございます。




