45.
カルシィはやっと歓迎会を後にして、ロゼンと与えられていた一室に戻った。
これだけ多くの人に囲まれて、優しく温かく、わいわいと時間を共有したことなど、今まで一度もなく、緊張と照れでぐったりと疲れていた。
でも気分は悪くない。心地よかった。
楽しかったのだ。小柄で頼りないカルシィでも馬鹿にされるこよなく、彼らは惜しみない好意を向けてくれていたのがわかったし、初対面でも、カルシィが以前一緒に暮らした叔父よりもずっといい人たちと感じることができた。
そして、やっぱり違うなあとも思った。
今までカルシィがあった人、街の人たちとは違う。
同じようでも違う。ロゼンやレネドと同じ空気を持つ人たちだった。
でも、ロゼンとはまた少し違う、人間混じりだからーーーそんな言葉を思い出したカルシィはロゼンが急に心配になっていた。
起き上がってロゼンの姿を捜した。
カルシィはベッドの上で寝転んでいたが、ロゼンは床で大の字に寝そべっていた。
「ロゼン、怒っているの・・・?」
「・・・なんだ、それ、いきなり・・・」
「だって、いろいろロゼンも言われて・・・ずっと不機嫌そうだったから・・・」
カルシィとはまた少し違った意味で、ロゼンもモテモテだった。
レネドが釘を刺したので、うかつな陰口などできなくなった人たちは直接、思いをロゼンにぶつけた。
「・・・ああ。まあな。・・・でも、あれだけ真っ向から言われるとかえって、すがすがしかったよ。・・・疲れたが・・・」
レネドの策略に、ロゼンは禊ぎを受けさせられ、終わったのだと感じた。
正面から次々とあからさまに言われたが、後ろから嫌らしくねちねち、ひそひそとやられるよりずっとマシだった。
最後には、カルシィを連れている手前なのか、口々に「おまえ、しっかり面倒見てやれよ」だの、「繊細なんだからあなたがちゃんと守りなさいよ、無理なら言いなさい、代わるから」「いやむしろ今すぐ、代われって言いたいぐらいだが、こればかりはな・・・」など余計なお世話もいっぱいされた。
厳しいのか温かいのかわからない温度加減だったが、以前のように冷たい一瞥ではなかった。
もっとも、ロゼンの方だってもっと酷い眼差しでここの連中を睨みつけていただろうからお互い様なのだろう。
出戻りロゼンは、受け入れられていた。
カルシィがいたお陰であり、里長レネドに引っ張ってゆかれ、言葉添えもあったからだとわかっている。
あいつは、かなりうまく里の中にロゼンを放り込んだ。
認めたくなかったが認めるしかない。頭が上がらないと心の中でぼやくロゼンにカルシィは、
「みんな、いい人ばかりだね!」
嬉しそうに言った。
「そりゃ、おまえ限定だ」
ロゼンは答えたが、以前なら感じなかったろうが、今なら少し思うのだ。
素性も知らない者でしかも、素行悪く、黙って出て行ってしまったロゼンを、レネドの命令だろうと、再び受け入れようとする奴らは決して悪い奴らではないのかもしれないと。
部屋でゆっくり休むのにも飽きてきて、好奇心が騒ぎ出した頃、扉がノックされた。
「少し話があるんだけど」
セランダータだった。カルシィが滑るようにベッドから降りて、床のロゼンを跳び越え扉を開けた。
「メルヴィアの所にゆくんだけど、あなたはゆかない?」
不思議な顔になったカルシィに
「昼間はね、時間があるときはなるべくメルヴィアと誰か一緒にいるようにしているんだ。野菜持ち込んであそこで剥いたり、本を持っていったり。その方が寂しくないだろうな、と思うからさ」
「・・・わたしも、いく」
「そう、ありがとう」
優しい笑顔で見つめた後、後ろのロゼンに向かって
「あんたはどうする?メルヴィアの所に一緒にゆく?それとも、レネドが誘いに来ている。暇なら見回りに来るかって」
「見回り?」
「里の周辺の見回りだよ。異変がなかったらただの散歩さ」
「あいつと二人で行くのか?」
顔を顰めたロゼンにセランダータは笑った。
「嫌がるねえ。まあ、気持ちはわからんでもないけど。———普通一人では動かないんだ、だから数人同行すると思うよ」
レネドと二人っきりも居心地は悪いけれど、知らない者が何人か加わって一緒に行動するのとどっちが楽だろうかと思ったロゼンがちらりとカルシィを見る。
今度は大歓迎をされているカルシィがいない状態で会うとどうなるだろう、と考えたのだが、セランダータは誤解した。
「夕食までの短い時間だよ。それでも離れがたいか・・・しょうがないな、じゃあ今回は断っておいてやる」
「そんなんじゃねえっ、いいよ、行くよ」
「本当に、いいの?寂しいなら、こいつも一緒にメルヴィアの所にゆけばいい」
セランダータがカルシィに聞くと、カルシィも慌てて「大丈夫です」と笑顔で答えた。
本当は、やっぱり心細いけれど、そんなことばかり言っていると呆れられそうだった。
それに、カルシィがメルヴィアと一緒にいることに意味があることなら、ロゼンにとっては、レネドたちといることの方が有意義だった。
何のために、ここに来たか。学ぶため、自分について知らないことを知るためだったはずだ。
「じゃあ、行ってくるね、ロゼン」
「ああ」
カルシィは奧に続く廊下へ、ロゼンは外に向かって。
少し後ろ髪を引かれるけれど、これはきっと間違ったことではないのだ。
おつきあいいただき、
ありがとうございます。




