10. 初めてのお留守番
リビングのテーブルの前で、しょぼんと立っている猫1匹。
その手にはメモが握られている。
【にゃーるへ
神様の不手際でちょっと眠っちゃったみたいだね。私はお仕事行ってくるけど、おうちの本とかタブレット自由に使っていいからね。
お料理も食材好きに使っていいよ。
帰る時間わかったらタブレットの方に連絡するね。
いい子にしててね。いってきます。
瑠依】
昨夜、ベッドに移されても眠ったままだったにゃーるは、瑠依が出勤する時間になっても起きなかったようだ。
「いってらっしゃいしたかったな……」
瑠依からのメモをじっと見つめ、少し涙をこぼすにゃーる。
すると、その一粒が急に光り出した。
「なにこれっ!!」
『にゃーる、涙止めて! 魔力が暴走しかけてる!』
「かみしゃま! で、でもどうやってっ」
小さな光だった粒が、今やにゃーるを覆い隠せる程に大きくなっていた。ビリッと微かに稲妻も舞いだしている。
『悲しみの感情の影響よ! 楽しいこと考えたり嬉しいこと思い出して止めて!』
瑠依さんとのショッピング、一緒に食べたご飯、一緒に読書、初めて料理が完成したときの満足感、初めて魔法を使ったときの高揚感。
思い出せる限りの思い出を頭に巡らす。
すると、煌々と光っていた粒は輝きを止め、ポタッと床に落ちて吸い込まれていった。
「びっくりしたぁ……」
『やっぱり不安定ね。危うく部屋吹っ飛ばすところだったわ』
「ご、ごめんなさい……、僕のせいで……」
『にゃーるは悪くないわ。不安定に作っちゃった私の責任よ。今、天界の方で密かに研究続けてるからもう少し辛抱してね』
「ほんと? 僕バーンッてしなくなれる?」
『なれるわ。それまでは私もちょくちょく覗くから安心して』
「わかった! 僕も悲しくならないように頑張る!」
『はぁぁ! やっぱり可愛い! ごほん。それは置いといて、この散らかったお部屋をどうにかしなくちゃね』
リビングは暴走した魔法によってめちゃくちゃになっていた。
イスはひっくり返り、カラーボックスと本棚の中身は床にぶちまけられている。
「僕、お片付けの魔法使えるよ!」
『ゲームに入りたての頃に覚えたやつ?』
「そう! ってどうしてかみしゃまが知ってるの?」
『度々、ポストに魔法とか料理のレシピ送ってたの私なのよ。言ってなかったっけ』
「聞いてないよー。言ってくれたらケーキのひとつでもお返ししたのにー」
『ケーキ?! 食べたい!』
「おまかせあれ! 瑠依さんが帰ってきたら一緒に食べようね。その前にお片付けしなきゃ」
にゃーるはぽんっとポシェットを出すと、中から上に水色の球体が付いている杖を出した。
「キレキレ〜クリーン♪」
杖を両手で持って上に掲げながら、歌いながらくるくると部屋を周る。
キラキラと光だしたかと思えば、キラキラが収まる頃にはすっかり綺麗に元通り。
「これで瑠依さんには怒られずにすむね」
『あ、ごめんさっき瑠依には魔法暴走して部屋めちゃくちゃなこと言っちゃった。てへ』
「……とびきり美味しいケーキで許してもらお」
なんて怒られるかびくびくしながら、にゃーるはクルッと回ってエプロン姿に着替えた。




