肆
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悴んだ手を合わせる。鬼救寺の管理する小さな墓場の外れに作られた鬼神家の墓だ。鬼神家と言っても、もちろんその中に入っているのは鬼神怜強と鬼神御言の二人しかいない。
降り積もっていた雪に埋もれていた落ち葉ごと丁寧に掃けること約三十分ほど。火を点した線香の煙が冬風に揺られて天へ向かって伸びていった。本当にあの世、浄土というものがあるのならば、魂はそこへ行ったのだろうか。果たして、父さんーー鬼神怜強の魂も。
ふと、鮮やかな橙色が目の前に広がった。死者の霊を導くと言われているその花は、御言が最も気に入っていた鬼灯。
手を離すと灰色のコートのポケットに手を入れて振り向く。心覗き込む沙夜子の顔がそこにあった。ブラウンのニット帽を被ったその顔は、いつもよりも少し幼く見える。
「待たせたな」
「別に待ってないわよ。私も御言さんに挨拶してたし……もう、いいの?」
昨日、過去を吐露した少女はもうすでに心配そうな目を紙都に向けていた。いつもはわがままばかりのくせにふっとした瞬間、時折自分よりも他人を優先するーーその茶色がかった瞳に、思わず笑みが溢れる。
返事の代わりに白い吐息が漏れた。ここへ来て、不思議なことに少しだけ心が軽くなったような気がしていた。まだ何か進展したわけでも、これからそれが約束されているわけでもない。妖怪のことも、京極家のことも、蓮のことも、何一つ確定的なことはない。それでも、紙都は雪を踏みしめて足を前に進めた。それこそまるで導きを得たかのように。
二人のスマホの着信音が同時に鳴った。
「愛姫ちゃんがメンバーに加わったわ!」
「そうみたいだな。オカルト研究部に、また一人部員が増えたか」
川瀬愛姫はあの事件以降、入院する吉良の元へ足繁く通っていた。自分を守ってくれた恩義もあるのだろうが、もう一つの理由の方が大きい。
「吉良が上手いこと説得したのね! やっぱ吉良に任せて正解だったわ」
吉良は愛姫の魅了に全く影響されなかった。それは、おそらくあまりにも「異性」という存在に畏れをなしているからーーというのが本人と沙夜子の結論だった。それゆえ愛姫は、吉良の前だけでは伊達眼鏡を掛けずに素でいることができる。
「よろしくお願いします」、そして、「行ってらっしゃい」という可愛らしい猫のスタンプを確認すると、紙都はスマホの画面を消した。




